第545話 闇の鎮静効果

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「バカバカ!シャノンのバカ!!どうすんのー!?私、このままいったら死んじゃうよー!!」


わーんと泣きながらシャノンをポカポカと叩いているのだが、当のシャノンは困ったように照れ照れしている。というか何故照れる!?私、すっごく怒っているんですけど!?しかも今言った通り、命の危機に瀕しているんですけど!!?


「うう……。し、死んだら絶対、化けて出るからね!?シャノンの枕元に立っちゃうんだからね!?」


「――ッ!お嬢様……!!死んでなお、私の元に!?オリヴァー様方の元にではなく!?な、なんという栄誉!!」


だからそこ、喜ぶところじゃないー!!


背伸びしながら、シャノンの頬を両手で挟むようにペチッと叩くが、周囲の騎士達から「ああっ!なんというご褒美を!!」「私にもして頂きたい!!」なんて声があがるわ、当の本人は頬を紅潮させて目を潤ませているわで話にならない!!

ウィルもオロオロしているばかりだし、マテオは「殿下の水中着姿……!こんな素晴らしい日が、私の人生に訪れるなんて……!!」って、ワクテカしているし!あああっ!本当にもうっ!!


「まあまあ、落ち着きなよエレノア」


「そうよー、エレノアちゃん!ほら、貴女もこちらに来て涼みなさいな」


呑気な声に振り向けば、いつの間にか設置された豪華な椅子に腰かけ、優雅にトロピカルジュースを飲むフィン様とウミガメ奥方様の姿があった。


というか、フィン様はともかく奥方様!!なに甲羅の腹を見せながら、器用に椅子の背もたれにもたれかかってジュース飲んでいるんですか!?しかもストロー使って!

というか、これから開催される予定の水着ショー、満喫する気満々ですね貴方がた!!


脱力してしまった私を見たウィルが、「エ、エレノアお嬢様!水分取るのは大事ですよ?さ、ジュースを頂きましょう!」と、抱っこしてフィン様達のところへと連れて行く。……もう……どうにでもしてくれ!





◇◇◇◇





「ううう……。こ、このままじゃ……私……!ああっ!齢十三で果てるなんて……!!」


「だ、大丈夫だよエレノア嬢!ほらっ、ここをイモ洗い状態の海水浴場だと思うんだ!!海水浴場だったら、水着姿の男性がいたって違和感がないだろう!?」


フルーツ果汁たっぷりの美味しいトロピカルジュースを頂きながら、机に突っ伏しグシグシプルプルしている私を、一緒にジュースを頂いていたヘイスティングさんがオロオロしながら慰めてくれる。……が、その言葉を聞いた瞬間、私は勢いよく身を起こした。


「あんな顔面偏差値の高い海水浴場、存在しません!!」


「うっ!そ、それは……確かに……!!ごめん!!」


そう、前世であんな美形軍団のいる海水浴が存在していたら、絶対に危険生物出没地域に指定されていたに違いない!


「ふぅ……。困ったわね。まさかエレノアちゃんが、こんなに初心ウブな子だなんて思わなかったわー。これじゃあ、あの子達の水中着姿を見た瞬間、心臓止まっちゃいそうよね?」


奥方様がコテンと首を傾げる。可愛いんだけど、煽ったのって奥方様ですからね!?


「ふぅん……。だったら僕が『鎮静』を施してあげようか?」


「「鎮静?」」


フィン様の言葉に、私とヘイスティングさんが首を傾げる。


「うん。僕の『闇』の魔力を使って、興奮状態にならないようにするんだ。そうすれば、エレノアが鼻血を噴いて貧血にならないで済む」


なんと!そ、そういえば『闇』の魔力には鎮静作用がありましたね!というかフィン様、言い方!!


「そうだね……。試しにちょっとやってみようか?」


「え?やるって……」


戸惑っていると、フィン様の背後から闇の触手が出てきて、私の頭頂部をチョンと突いた。


「はい、終わり」


「え?い、今ので終わり……ですか?」


私は恐る恐る、頭頂部に手を当てる、……えーっと……。とりたてて、なにも変わっていないような……?


「それじゃあ、早速試してみましょう!」


相変わらず器用に椅子に座った状態の奥方様が、パン!と、両手(両ヒレ)を叩き、そのままピシッとヴァンドーム公爵家の騎士様方を指さした。


「そこの貴方!……いえ、貴方達!服を脱ぎなさい!そしてエレノアちゃんに素肌を曝け出すのよ!!」


ち、ちょっ!!!奥方様ーー!!?そして言い方ーー!!


「はっ!!」


「奥方様とバッシュ公爵令嬢の御為とあらば、喜んで!!」


「とくとご覧くださいませ!!」


狼狽える私を他所に、指定された騎士様方が、ニッコニコのノリノリ状態で勢いよく騎士服(の上)を脱ぎ捨てると、上半身裸になった。


「うっきゃーーー!!!」


ちょっ……!ヴァンドーム公爵家ー!!主従揃って裸になりたがりだな!!?国民性!?国民性なのか!?


「うきゃ…………あれ?」


悲鳴をあげながら、咄嗟に鼻を押さえるが、予想に反して鼻血は出なかった。というより、目も潰れていないし、気持ちも凪いでいる。


おかしい……!!眼前に、半裸の美男子細マッチョ軍団がいるというのに……!いったい何故!?


「ああ、効いているようだね。というか、カメ。もうちょっと穏便な方法とれなかったの?」


「まっ!失礼な子ね!私、こう見えてカメじゃなくてよ!?だって、これが一番手っ取り早いじゃない!」


「まあね。それは否定しないけど、自分ところの騎士達だけ指定するって、カメのくせにしたたかだよね。ほら、見なよ。うちの近衛達の歯軋りせんばかりのあの表情」


「だから、カメじゃないって言ってるでしょー!?」


「ちょっと、ヒレで叩かないでくれる?痛いんだけど!」


そんなフィン様と奥方様の漫才トークを尻目に、私は眼前のイケメン細マッチョ軍団を思い切りガン見していた。


『……まさかこの私が、鼻血を噴くでもぶっ倒れるでもなく、こんなにも平静な状態でアルバの男性達(しかも半裸)をバッチリ拝める日がくるとは思わなかった!!』


あああっ!ヴァンドーム公爵家ならではの、日焼けして引き締まった小麦色の肌と、メリハリの利いた細マッチョな肢体!魅惑の腹筋!そしてなんとなく照れたようなその表情!!な、なんという眼福!!生きていて良かった!!


「はい、効果分かったんだから終了!」


そんな私を面白くなさそうに見ていたフィン様が、再び私の頭頂部をチョンと闇の触手で突いた。


「――!?……う……」


「お、お嬢様?」


「エレノア嬢?」


「エレノアちゃん?」


「うっきゃぁぁぁーーーっ!!!」


途端、羞恥心が身体の内側からブワッと溢れ出て全身を駆け巡る。その身悶えんばかりの感情の波のまま、私は座っていた椅子から転げ落ちると、目を瞑り、鼻を押さえながらゴロゴロ砂浜を転げまわった。


「エレノアお嬢様ーー!!」


「エレノアちゃん!!」


「ちょっ、エレノア!?」


「エレノア嬢!!」


「姫騎士様ー!!」


「エレノアお嬢様ー!!お召し物がー!!」


おいこら、最後!!シャノン、私よりもドレスか!?あんたってば本当にブレないな!!





「……うう……。す、凄い効能ですね……!」


髪もドレスも砂まみれ、ついでに鼻腔内毛細血管が決壊してボロボロ状態になった私です。


再びウィルの介助を受け、ゼィゼィと荒い息をつきながら、フィン様の『闇』の鎮静の凄さを実感していた私に、「はい、お嬢様!あーん!」と、ウィルが自分の胸元から取り出したレーズンをせっせと口元に運んでくれる。


これ、ウィルが常備している鉄分補給の必須アイテムです。でかくて甘いバッシュ公爵領産、うまし!


「た、確かにこれなら、水着ショーにも耐えられそうです。そうだ!これから常にフィン様に『鎮静』をかけてもらえば、普通に生活できるようになりますよね!?」


そうなれば、鼻腔内毛細血管の決壊や、目が潰れて心臓が止まる恐怖におびえる事無く人生をエンジョイする事が出来る!なんて素晴らしいんだ!!


薔薇色の未来に思いを馳せ、目を輝かせていた私に、奥方様からの声がかかる。


「駄目よ、エレノアちゃん。闇の魔力で精神を麻痺させるのって、出来ればやらない方がいいのよ」


えっ!?なんですと!?


「あ、あの……。それはどうして……?」


「う~ん……。あのね、精神魔法は相手に負荷がかかるから、熟練した魔法操作が必要なの。それに、精神魔法の上位属性である『闇』の力って、物凄く扱いが難しいのよ」


「え?で、でもフィン様……。今まで『闇』の力を使って色々やっていましたよね?情報を吸い出したりとか……」


「そりゃあ、壊れても死んでもいい相手だったら、遠慮なく力を使えるからだよ。でも相手の精神を傷付ける事なく操作するのって、今現在修行の段階なんだよね」


えっ!?やだ、なにそれ恐い!ってか修行中なのに、そんな大変な技を私に施しちゃったんですか貴方は!?


「だから、ほんのちょっとだけやったでしょ?」


あ、だから触手が頭にチョンと触れただけだったのか。


「ち、因みに……ですが、やり過ぎるとどうなると……?」


恐る恐る聞いた私に、フィン様は顎に手を当て「う~ん……」と暫し考えこむ。


「良くて廃人。悪くて、こっちに戻って来られなくなる……かな?」


どこから戻ってこられなくなるとーー!!?そ、そして危なかったーー!!ってか、良いも悪いも、どっちも最悪だ!!


「尤も、あれだけの興奮を無理矢理押さえつけて鎮静するんだから、エレノアの場合はどうやっても精神に負荷がかかってしまうんじゃないかな?」


うう……。興奮し易くて済みません。


「ち、因みにですが、どれぐらいの時間だったら許容範囲内ですか?」


「そうだな……。三十分ぐらいだったら大丈夫かな?」


――たったの三十分!?


くそう!これでどんだけ顔面攻撃を食らっても、私の眼球と鼻腔内毛細血管は安泰だと思ったのに!!夢破れるのって一瞬だな!!


「お前の夢って、随分ショボいな」


「うっさい!マテオ!!」


ヘイスティングさんやウィル、そして騎士様方がオロオロしている横で、呆れ顔をしたマテオが「というか、その恰好どうするんだ?お前、替えの服ないだろう?」と、私に更なるツッコミを入れる。うっ!た、確かに……。


「お嬢様!ご安心ください!!お召し替えはここに御座います!!」


「シ、シャノン!?」


今度はなんだ!?と思った私の前に、諸悪の根源シャノンが誇らしげに掲げたもの……それは、セパレーツタイプの真っ白い水着と、ワンピース風の半透明なパレオのセットだった。


水着は胸元と腰部分にフリルが施されており、下半身部分は膝上までと長い。良く見ればパレオの方には、可愛らしい色とりどりの小花が刺繍されている。しかも太陽の光を受け、煌めいているパレオの素材……あれってひょっとしたら、『女神の絹デア・セレス』!?


「このような事もあろうかと、男性用水中着の中に潜ませておきました!!」


「潜ませてあったんかい!!ってか、よく見付からなかったね!?」


「内部にある隠しポケットに収納しておりました!」


あんたのボストンバック、どうなってんですか!?というか着替えが水着って、不安しかない!!


し……仕方がない。皆様方には申し訳ないが、このままの恰好で審査員を……。


「エレノア。その水中着着なかったら、鎮静かけないからね」


フィン様ーー!!?そ、そんなご無体なっ!!



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水着祭り開催前のカオスなひと時。|д゜)

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