第七章 エレノアの色々アレな日常

第71話 お兄様方の誕生日①

「オリヴァー兄様!クライヴ兄様!誕生日おめでとう御座います!」


「ああ、有難うエレノア」


「有難うな、エレノア。お前もとても可愛いぞ!」


「うん、本当だね。そのフレアドレス。とても似合っているよ」


「兄様方、セドリックも…。有難う御座います!」


あの王宮への謝罪訪問の日から5日経ち、今日はオリヴァー兄様とクライヴ兄様の誕生日パーティーである。


そして誕生日だからと気合を入れた兄様方のお姿は、今日も今日とて、妹の精神と眼球を気合を込め、完膚なきまでに叩き潰す気満々な、眼福なんて言葉じゃ言い表す事の出来ない程の麗しさだった。


スラリとした均等の取れた肢体に、それぞれが最高に映える色…つまり、オリヴァー兄様は黒を基調とし、クライヴ兄様は白を基調とした貴族の礼服をお召しで…。


これがまあ、似合ってるなんて、そんな言葉じゃ言い表せないぐらいにお似合いなんですよ!!まさに神が人類に贈りたもうた福音!今すぐ膝を着いて拝みたい!!


そして今日の私は、幾重にも重ねた、薄く光沢のある白いシルクスカートのワンピースに重ね着するように、ウエストから下に向けて切れ目のある、コートタイプの黒いロングフレアドレスを羽織っている。


いつも下ろしている髪も、今日は黒と白のレースを編み込んでハーフアップにしていて、メイクアップ部隊の召使達いわく「わざと垂らした後れ毛が最大のアクセント」だとの事。正直よく分からんこだわりだが、全体的にとても大人っぽい素敵な仕上がりになっていて、何だかちょっと淑女な気分になってしまう。取り敢えず、グッジョブと言っておこう。


ちなみにしっかり、チョーカータイプのネックレスとピアスには、セドリックの色であるトパーズが埋め込まれています。


ところで、貴族の子供達の誕生日は、基本招待客を呼んで盛大にお祝いするものなんだけど、我が家は私を他人に極力見せないようにしている為、誰の誕生日であろうが、家族だけでお祝いする事になっている。


兄様方も父様方も、「寧ろ煩わしく無くて丁度いい」と喜んでいるが、私の為に華やかに出来なくて申し訳ないなと、常日頃思っています。


最も、それをオリヴァー兄様の前でポロリと口にしたら「じゃあ君がその分、うんと僕の事お祝いして?」と、色気たっぷりに囁かれ、腰が抜けましたが。


そんでもって本日。実は兄様方の本当の誕生日ではないのである。


じゃあ何で今日、誕生日パーティーを開いたのかと言えば、メル父様とグラント父様が、アイザック父様と一緒に第三王弟殿下であるフェリクス様の護衛として、とある国へと表敬訪問に行ってしまったからなのである。


なんでも、今迄全く国交のなかった大国から、国交を結ぼうとの親書が届いたとの事で、まずは相手国の視察をしに、こちら側から出向く事にしたのだそうだ。


――おいおい、何でメル父様とグラント父様がいないからって、誕生パーティー開くんだよ!?…って、普通思うよね?でもね、これにはちゃんと理由があるんですよ。


実は以前、私の父様が「オリヴァーとクライヴの誕生日プレゼント、何か欲しい物ある?」って本人達に直接聞いた時があったんだよね。ところが何と、二人揃って「それじゃあ、自分達の誕生日に、父親達が出席できない様にして下さい」ってリクエストしてきたんですよ。兄様方…。よっぽど父様方に鬱憤溜まってるんですね。


「え~…。難しいなぁ…。普通のプレゼントじゃ駄目?」って父様、凄く渋っていたけど。今回運よく(?)外交のお仕事が入った訳で、それじゃあいない内にとっとと済ませちゃおうって事で、急遽誕生日パーティーを開く事になったって訳なのである。


…う~ん…でもいいのかなぁ。そりゃ、主役である兄様方の希望なのだから、いいっちゃいいんだけど。メル父様とグラント父様が帰って来た時、それ聞いてブチ切れしないかなぁ…。めっちゃ心配だ。


「あのっ!オリヴァー兄様、クライヴ兄様。これ、私の誕生日プレゼントです!兄様方の為に、私が育てました!」


私がせっせと丹精込めて育てた黒百合と白百合。黒百合はオリヴァー兄様、白百合はクライヴ兄様に、それぞれ手渡していく。数はそれぞれ40本。意味合いは『永遠の愛を誓う』だそうだ。


それ聞いた時は恥ずかしさのあまり「あの…11本じゃダメ…?」とベンさんに言ったら、思いっきりいい笑顔で首を横に振られました。あの時のベンさんの笑顔、めっちゃ圧があって恐かったな。


「エレノア…!エレノアが僕達の為に?自分の手でこの花を?!」


「ああ…エレノア有難う!」


兄様方が花束を胸に、感動しきりといった様子で嬉しそうに笑顔を浮かべている。私も兄様方の喜ぶ姿が嬉しくて、思わず顔が綻んでしまう。ちなみに、私の前世で黒百合って白百合に比べて小さくて地味な花だったけど、こちらの世界の黒百合は大ぶりで、カサブランカに負けない程大きく、艶やかな闇色をしていて、物凄く綺麗なんである。流石、こちらの男性の女性を口説く必須アイテム。花までもが進化している。


そういえば…。


なんでもこの世界って、花を贈るのは男性だけらしく、女性からこうして花を贈られる事ってあんまり無いんだそうだ。この世界って本当…いや、まあ今更か。


でも花ぐらい贈ったげなさいよと、世の肉食女子達には声を大にして言ってやりたい。人間、塩だけでも生きていけるけど、時には甘い砂糖も必要なんだよ?


――それにしても…。


白と黒。対になって大輪の百合の花束を腕に抱き、微笑む美形兄弟…。それはまさに、神々しいとしか言い様のない美しさで、感動のあまり目元が潤んでくる。まるでその姿は、女神様から遣わされた一対の大天使のようだ。あまりにも神々しくて目が痛い。


ああ…。このベストショットを激写し、ステンドグラスにおこして大聖堂に飾りたい!…いや、私の部屋に特大パネルにして飾りたい!!そうだ!次の誕生日のプレゼントは、花束抱えた兄様方とセドリックの特大肖像画をお願いしよう。


「エレノア?どうしたの?」


感激と視覚の暴力にやられ、ウルウル涙目になっている私に、オリヴァー兄様が首を傾げる。おおぅ兄様!黒百合の大天使様っ!!その仕草、けしからんぐらいに反則です!


「い、いえ…。こんな素敵な兄様方が私の婚約者なんだって思ったら、凄く幸せな気持ちになって…私なんかが兄様方のお相手で良いのかな?って…」


「――ッ!エレノア…!」


オリヴァー兄様が感激したように顔を紅潮させ、私を強く抱き締める。あれ?花束はどこに?って思っていたら、ウィルがしっかり持っていました。兄様、行動早いな!


「ああ…エレノア。僕の愛しいお姫様。僕の方こそ、君が僕の婚約者である事を、女神様に心の底から感謝するよ。今日この日、君がくれた花束に応え、僕は改めて君に永遠の愛を誓う。…愛しているよ…」


顏と言わず、身体全体が真っ赤になってしまう程の甘ったるい台詞を口にした兄様は、そのまま私の唇に深く優しいキスを落とした。私も目を閉じ、それに応える。


本当は、大勢の召使達がいる中で堂々とキスされ、恥ずかしいなんてもんじゃないんだけど、今日はオリヴァー兄様の誕生日だ。せめて今日一日ぐらいは自分の羞恥心に蓋をして、兄様の愛情に存分に応えて…応え…。


『ちょっ!し…舌っ!舌使いが…ヤバい!!』


いや、いつもね、ディープなキスはされていますよ?されてますけど!こ…こんな…強引に舌を絡めた挙句、そのまま柔噛みしたりとか吸われたりとかってのは、今迄一度もっ!い…今迄はせいぜい、舌が触れ合う程度で…!!


し…しかも、触れ合っている部分から、何とも言い難い感覚がゆっくりと全身に伝わって、背筋に甘い痺れが走る。足に力が入らない!うわぁぁぁぁ!!だ、誰か…っ!


「オリヴァー、ストップ!もうそこら辺にしろ!」


クライヴ兄様のお言葉が聞こえ、ようやっと私はオリヴァー兄様から解放された。

あ…。兄様の綺麗なアーモンドアイが扇情的に潤んでいて…胸が更に熱くドキドキしてくる。


真っ赤になってふらつきそうになった身体は、オリヴァー兄様と交代するように、クライヴ兄様に抱き上げられる。


「エレノア、俺も…。お前とお前のくれた花束に誓ってもいいか…?」


甘く蕩けそうな表情で優しく囁く白百合の大天使様に、誰が「い、いえ。今はちょっと…」等と言えようか。


コックリと頷いた私の唇に、今度はクライヴ兄様が深く口付けてくる。…うん、オリヴァー兄様で多少は耐性がついたから、さっきほどの衝撃は……って!


『ク、クライヴ兄様ー!く、くすぐっ…あ…っ!』


さっきまでのキスは、まるで食べられてしまいそうなぐらい激しかったのに対し、クライヴ兄様の舌使いは…こう、ソフトタッチというか…まるで羽が触れるように軽く撫であげてくる感じなのだ。くすぐったくって、焦れるように動く私の舌を、今度は戯れるように一瞬強く絡め、またスルリと撫で上げられて…を繰り返される。


「ん…ふっ…」


段々と、衆目の中でこんな事…とかいう、羞恥心が薄れ、後頭部に甘い靄がかかっていく。意識もボウッとし、思わず鼻にかかった甘い声が小さく漏れてしまう。


――と、ここにきて今迄戯れているようだったクライヴ兄様の舌使いが変わり、先程のオリヴァー兄様のように、舌を強く絡め取られてしまった。


「クライヴ、そろそろ止めようか」


そのままいくかと思いきや、今度はオリヴァー兄様がクライヴ兄様を制止し、絡まった舌と唇が解放される。


そうなると、羞恥やら胸の動悸やら、未だ収まらぬ身体の痺れとかが一気に襲い掛かってきてしまい、何だかもういたたまれない気持ちになってしまう。

思わず真っ赤になりながらクライヴ兄様に抱き着き、首筋に顔を埋める。すると、クライヴ兄様が小さく息を飲む音が聞こえた。


「…クライヴ。そろそろ離れたら?」


「わ、分かってる!」


顏を赤くしたクライヴが、やんわりとエレノアを自分から離そうとするが、エレノアは嫌がるように増々しがみ付いてくる。そしてそれに比例するかのように、オリヴァーの視線が冷たいものへと変わっていく。


「エレノア、クライヴ兄上にしがみ付いたままだと、パーティーが始まらないよ?」


そんな中、天の助けのように、セドリックの声が響いた。


その声に、ピクリとエレノアの肩が反応し、おずおずと声のした方を見下ろす。するとセドリックが、こちらを見ながらニッコリ笑っていた。


「セ…セドリック…」


「ね?席につこう?」


「う、うん…」


未だに顔は熱いし、胸の動悸も速いままだったけど、その邪気のない微笑に、ほんのちょっぴり羞恥心が収まった私を、クライヴ兄様が床に降ろしてくれた。


「エレノア、素敵なプレゼント有難う。大切にするよ」


「俺も魔法で一生枯れないようにして、飾っておくからな」


「は…はい…」


さっきの口付けの事を全く気にする様子も無く、ニッコリと笑顔でそう話すオリヴァーとクライヴの顏を、未だにまともに見る事も出来ず、真っ赤になってモジモジと恥じらっているエレノアの尊い姿に、その場の召使達一同は、ポーッと見惚れていた。しかもさっきの、刺激的極まるキスシーンを美味しく鑑賞させて頂いた彼らは、崩れ落ちたくなる衝動を必死に耐えていたのだった。


そんな中で、ウィルだけは「お嬢様にようやっと情緒が…!」と、そっと涙を拭っていたのだったが…。


「ああ、オリヴァー様。そう言えば旦那様からのご伝言で『今日から岩風呂使えるから!僕とエレノアからの誕生日プレゼントだよ』…との事です」


「「えっ!?」」


ジョゼフの言葉に、オリヴァーとクライヴが喜色満面になった。


「公爵様とエレノアからの…?!」


「エレノア…お前もやっと、その気に…!」


まさか、あれ程自分達に感極まってくれただけでなく、そんなサプライズまで用意してくれていたとは…!

父親達邪魔者もいないし、今日はなんて素晴らしい誕生日なのだろう。


そんな二人を見たエレノアが、「あっ!そうだった!」と思い出したように自分の席に駆け寄ると、いそいそと何かを持って戻ってくる。


「はいっ!兄様方。これ、私からのもう一つのプレゼントです!」


元気にそう言って手渡されたのは、綺麗にラッピングされた袋で、二人は揃って「?」と首を傾げた。


「エレノア、これは?」


「はいっ!男性用入浴着です!」


「…男性用…入浴着…?」


「そうです!見てみて下さい!」


言われて袋から取り出してみると、真っ白いガウンのような、何だか不思議な形の服が出てきた。…そういえば以前、一緒に入浴したかったら男性用入浴着を着て欲しいと言っていたが…まさかこれ、その時の為に、わざわざ作ったとでも言うのか?


「エレノア…。ひょっとしてこれ、君が作ったの?」


「私が作ったというか、デザインを起こして、いつものデザイナーさんに発注しておいたんです。兄様方の誕生日パーティーに間に合って良かった!」


――本当に作っていたのか!!


「肌触りもよく、水に濡れても透けない素材で出来ていますので、目にも身体にも優しい作りとなっています!これで一緒に入浴出来ますね!」


「…うん…。そうだね…」


「…ああ…。楽しみだな…」


「あ、セドリックにもちゃんと作っておいたんだよ?はい、これ!」


「そ、そう…なの?…うん、ありがとう」


ニコニコと嬉しそうに笑うエレノアと対照的に、何だか死んだ魚のような目になったオリヴァーとクライヴ。その姿を見た召使達一同は、いたたまれなさそうに、そっと目を逸らし、ウィルは「お嬢様…。色々と台無しっ!」と、違う意味で涙を拭ったのだった。


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オリヴァーとクライヴは、お互い相手を制止する事で自制を保っております(笑)

二人が同じ誕生日になったのは、マリアお母さんが同じ日が誕生日になるように頑張った…という、しょうもない裏事情があったりしますv

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