第366話 ご挨拶回り(?)
さてさて、初っ端からメガインパクトにぶちのめされましたが、挨拶回りはまだ始まったばかり。そして私は主催者。……うん。そろそろ復活しなくては。
「挨拶回りっていうより、あちらから挨拶に来るから。君はここで笑っていればいいよ」
あ、そうですかオリヴァー兄様。え?ただし、微笑んでもいいけど赤面厳禁?自分たち以外の男は全て、バッシュ公爵領の農作物だと思え?もしくは家畜の群れ?
……兄様。それは無理ですよ。え?無理でもやれ?ちょっと無茶ぶり酷くないですかね!?……はい、済みません。大人しく従います。
え~と……。ナスにニンジン、ピーマンにじゃがいも……。
……凄いな……。皆、物凄くピカピカしているブランド野菜だわ。
間違っても、曲がったり大きさが不ぞろいだったり、日焼けしたり虫食いだったりしていない、手間ひまかけたキロ●万円の超高級野菜だ。うん、流石はアルバ男だね!
……なんてくだらない事を考え、現実逃避しながら、サクサクとご挨拶は進んだ。
というより、サクサク進んでいる理由の大半は、兄様方やセドリックの圧にビビる人が続出したからだろうけど。
ところで、何故か先程のアストリアル公爵令息同様、名代としてやって来たご令息方だらけなのは何故なのか。
背後でクライヴ兄様が「名代多すぎだろ」と呟いていたけど、本当その通りです。ひょっとしたら、急な参加で予定と支度が間に合わなかったからかな?ご婦人方も少ないし……あ、でもご令嬢方はそれなりにいるか。
「バッシュ公爵令嬢。この度のデビュタント、お祝い申し上げます。それにしても貴女の今宵のお姿は、まるで女神様が降臨なされ……ッ!?」
中にはこのように、先ほどのアストリアル公爵令息のように、しっかりご挨拶しようとする人達もいたんだけど……。皆何故かビクリと身を竦め、王族方面にチラリと視線をけた後、そそくさとその場を離れていく。
どうやらあちら側から、闇の触手程ではないにしろ、何らかの威圧が飛んできているようだ。
こうなってくると、最後まで笑顔で美辞麗句&ご挨拶していったアストリアル公爵令息の胆力、真面目に凄い。流石は超高位貴族。三大公爵家の名は伊達ではないね!
そんなこんなしている間に、貴族の御令息方の挨拶は終了。
今度は御両親ないし、婚約者のエスコートでやって来た御令嬢方の挨拶ですか。
オリヴァー兄様曰く、「主催者が女性か男性か、そして催す夜会の趣旨によって、挨拶の順番が決まる」との事です。成程。アルバ王国あるあるですね。
あ、この御令嬢方、さっきドレスや髪飾りの件で色々なんか言っていた方々ですね。
そして御令嬢方とその御家族ですが、「この度はおめでとう御座います」と、私にサラリと挨拶をした後、そそくさと王族の方へとご挨拶に向かう。……うん、目的が思い切り分かり易い。
だけど親御さん達が家名を名乗り、御令嬢の紹介をしようとする度、ディーさん、フィン様、リアムから「ふ~ん。あっそ」「別に名前名乗らなくていいよ。覚えるつもりないし」「招待客の分際で、主催者貶めるような頭空っぽの奴らと話したくない」と、それぞれけんもほろろといった態度と辛らつな言葉をズバズバ投げつけられ、真っ青になって両親共々退散していった。
というか、息子たちの暴言とも取れる言動に対し、アリアさんが何も言わずにニコニコしていたのが恐かった。
多分だけど、アリアさんのその態度で、自分達が王族の不興をバッチリ買ったと理解したのだろう。
その貴族達の殆どは、「娘の具合が悪いようで……」「急用が……」なんて言いながら、足早にホールから出ていってしまった。
ちょっと言い過ぎではないかな?って思ったんだけど、「ふふ……。殿下方は優しいね」なんて、オリヴァー兄様が超良い笑顔で笑っていたので、何も言わないことにしました。ってかオリヴァー兄様、実は激おこでしたか。
すると目の端に、初老のイケオジ軍団がこちらに向かって歩いてくるのが見えました。
あれ?なんか皆、いきなり湧いて出たみたいに気配がなかったんですけど?
「エレノア。彼らはバッシュ公爵家家門の当主や当主代行達だよ」
そっとオリヴァー兄様に教えられ、その一軍の先頭に立っている、初老ながら、凄くガッシリとした体躯の男性に目をやる。
……あれ?この人なんか、ジョゼフに似ている……?
「あの……。貴方は?」
私の言葉に、その男性は胸に手を充て、深々と貴族の礼を取った。
「エレノアお嬢様。お初にお目にかかります。バッシュ公爵家家門筆頭を務めさせて頂いております、ローガン・ホールで御座います。尤も、伯爵家家長の座は息子に譲り、今は楽隠居の身で御座いますが」
え?ホール伯爵?って事は、ひょっとしてイーサンのお父様!?そんでもって、ジョゼフの兄弟ですか!?
「はい。イーサンは私の長男で、ジョゼフは兄で御座います」
やっぱり!
あ、でもイーサンもジョゼフも長男なのに、なんで家長を継がなかったんだろう?
「バッシュ公爵家に連なる家門にとって、ご当主様にお仕えする以上の誉れは御座いません。私は力及ばず、兄にその座を譲りましたが、運よく息子のイーサンが、ご当主様のみならず、エレノアお嬢様にお仕えするという僥倖に恵まれました」
え?そうなんだ?むしろ家長継がない方が勝ち組なんだ。
「はい。その通りで御座います。……お嬢様。イーサンは未だ未熟者。なれど、あ奴もホール家の端くれ。忠義心の篤さ……というより、お嬢様への忠誠心に関しましては、誰にも負けません。というか狂気……いえいえ。どうぞ末永くお傍に置いてやって下さいませ。それこそ、煮るなり焼くなり好きになさっても構いませんから!あ、返品は不可で!!」
お、お父さん。返品不可って、イーサンは物じゃないんですから……って、あれ?いつの間にかイーサンが視界の端に。しかもめっちゃ良い笑顔で頷いている。……う、うん。イーサンさえ良ければ、これからも宜しくお願いします。
「ありがとう御座います、お嬢様!」
ローガンさんも超いい笑顔。後方に控えている皆さんも嬉しそうだ。
……ん?
ちょっと待って、ローガンさん!さっきから私の心を読んでませんでしたか!?思わずナチュラルに会話してしまったけど、私、一言も言葉発していませんよね!?
「お嬢様。言葉にしないご当主様の意を正しく汲めずして、バッシュ公爵家家門を名乗る資格は御座いません」
そ、そうなんだ……!バッシュ公爵家家門、凄いな。
「恐悦至極に存じます。ええ、決してお嬢様のお心が読み易いとか、愛らしいお顔が全てを物語っているとか、そういう訳では御座いませんので、どうぞご安心下さいませ」
……はい。つまりは私の顔が、赤裸々に物語っているんですね。優しいお気遣いありがとう御座います。
あっ!オリヴァー兄様の肩が小さく震えている。王族の皆様まで!
くっ……!後方にいるクライヴ兄様とセドリックも、絶対に笑っているんだろうな。
その後、ホール前伯爵に続き、次々と家門の方々が挨拶をしてくれ、それに対し笑顔で宜しくお願いしますを繰り返していく。
……若干、皆の目が潤んでいたとか、実際泣いてる人もいたとか、幸せそうな笑顔でよろけて、従者にキャッチされている人がいたりしたけど、家門の方々はとてもフレンドリーで優しそうな人達だった。
「エレノアお嬢様の晴れの舞台……汚す者は総力を挙げて潰しますので、どうぞご安心下さいませ!」
……うん。そして、ちょっと物騒だった。
家門の方々の次は、バッシュ公爵領の商人や、それに連なる方々のご挨拶である。
「エレノアお嬢様!本日はこのような晴れがましい場にご招待下さり、まこと恐悦至極に御座います!」
こちらの方々の取りまとめ役は、集積市場の副統括……いや、今は統括になったガブリエル・ライトさんだ。
詳しくは教えて貰えなかったけど、ゾラ男爵は色々な理由から統括の地位と爵位を返上して、ライトさんの補佐人になったんだって。……ひょっとしなくても、フローレンス様絡みだったりするのかな?
そして今気が付いたんだけど、先程の家門の方々やライトさん、奥様を同伴していない。
これってやはり、
「エレノアお嬢様、この者は、我が愚息のジャック・ライトで御座います。お目汚しと存じますが、将来このバッシュ公爵領を支える一員として連れてまいりました。どうぞ、記憶の片隅にでも留め置いて下さればと存じます」
おおっ!ライトさんのご子息さんですか。
確か、王立学院に在学しているんでしたよね。ということは、私の先輩ですか。
タイプ的には、陽気でやんちゃな人好きするタイプのイケメン。でも今は、物凄くガチガチに緊張している。
「初めまして、ジャック・ライト様。エレノア・バッシュです。今後とも、お父様共々、どうぞこのバッシュ公爵領を宜しくお願いいたします」
リラックスして欲しくて、笑顔でご挨拶すると、ジャックさんの顔がトマトのように真っ赤になった。
「はっ!もっ、ももも……もったいなきお言葉!!ふ、不肖このジャック・ライト、粉骨砕身、誠心誠意、エレノアお嬢様にお仕えする所存!!あっ!も、勿論、クロス会長……いえ!ご婚約者様方にも絶対服従……いえ、絶対の忠誠を誓います!!」
ジャックさん?赤くなったり青くなったり、表情クルクル変わる方ですね。
「有難う御座いますジャック様。王立学院では先輩にあたられるのですから、二重の意味でも宜しくお願い致します」
そう言ってニッコリ笑ったら、ジャックさんは「はうっ……!!」と言ってその場に崩れ落ちてしまった。
「ぐ、愚息がとんでもないご無礼を!!」と言って、真っ赤な顔したライトさんが慌てて引きずって行ったけど、ジャックさん大丈夫かな?
その後は、他の商人さん達や管理人の方々と和やかに挨拶を交わす。
そうそう。このご挨拶で一番驚いたのは、婚約者の方達と一緒に挨拶に来てくれた、王立学院の先輩だという御令嬢方だ。
皆、物凄く緊張した様子だったけど、先程退室していった御令嬢方と違い、心を込めたお祝いの言葉をくれた。
しかもなんと、「今度、学院のカフェでお茶をご一緒しませんか?」と誘ってくれたのだ。
ビックリしたけど、凄く嬉しくて、「はい!是非とも!」って、即答しちゃいましたよ。
それに対して、文句を言うかと思っていた兄様方やセドリックもニコニコしていたし、そのご令嬢方も凄く喜んでくれていた。
う~ん、新学期が今から楽しみ!
会場に流れていた音楽が変わる。
挨拶が終わったら、次はダンスの時間。皆はワイン、私は果実水で喉を潤した。
====================
挨拶、回っていません。あちらからゾロゾロ来ております。王族スタイルですが、王族が傍にいるのと、あまり移動しない事で危険を最小限にするという理由があります。
そしてようやく、愚息君の名前が出てきました(笑)
更に、好意的なご令嬢方登場!多分その中には、心が千々に乱れていたあのご令嬢もしっかりいたと思われますv
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます