第527話 奉納舞のその後

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パチリ!


唐突に意識が浮上し、瞼を開けた私の瞳に映ったのは、ふんわり柔らかく日差しを遮るように、幾重にも白いレースを重ねた天蓋。そして感じるのは、ゆったりと身体を包み込む極上の寝具……。つまり、寝ていたのですね私。


「……あれ?そういえば……たしか……」


私、奥方様にお願いされて、奉納舞を舞っていた筈では……?


「……ん!?」


なにかの気配を感じ、横を振り向いてみる。すると……なんと!大きな枕の上で、同衾するように私に寄り添っているのは一匹のウミガメだった。


「え!?お、奥方様!……って、あれ?」


よく見て見ると、奥方様……もとい、横に寝ていたウミガメは、サイズは同じだったけど色が違った。


真っ白だった奥方様と違って、ごく標準のウミガメの色になっているし、私が起きた気配を察してパチリと開いた瞳は黒い。……という事はこのウミガメ、別人……いや、別カメか!?


「「…………」」


ウミガメと見つめ合う事暫し。


やがてウミガメが、私の頬に顔をすり寄せてくる。


「奥方様……?」と呼び掛けても、不思議そうな顔で顔をコテンとする。うん、別カメだね!


「お嬢様?起きられましたか?」


「ウ、ウィル!?うん、起きたよ!」


「では、失礼致しま……って、あー!このカメ!!いつの間にまた入り込んだんだ!!」


天蓋のレースを開いたウィルの笑顔が「もー!」って感じになった。ウミガメはというと、ウィルが自分をどかそうとしている事を察しているのか、彼の腕を避け、私の胸元にビトッと張り付いた。


「えっと……ウィル?私、いつの間に寝たのかな?」


胸元のカメを撫でながらそう尋ねる。


私が覚えているのは、結界を張る為に奉納舞を舞ったところまでで、結界は無事に張れたのかとか、どうやってベッドに潜り込んだのか、とか……。その後の記憶がまるで無い。


「ああ、ご安心ください。エレノアお嬢様は奉納舞で、見事結界を張る事に成功されました!ああ……!!金色に輝くお嬢様と、お嬢様の祈りによって出現した金色の蔓の神々しさといったら……!!今思い出しても胸が熱くなります!!若様方も殿下方も、お嬢様の神秘的な美しさに魅入られておられましたし、勿論このヴァンドーム公爵家の方々も……」


舞っていた私の状況を、恍惚の表情を浮かべながら語ってくれるウィル。でもなんか、目がいっちゃっているような気がして、ちょっと恐い。


「う、うん。成功したんだったら良かった。……で、私が寝ている理由も教えてくれると嬉しいんだけど?」


弾丸トークが終わりそうもない為、ストップをかける意味で声をかける。


「あ、も、申し訳ありません、そうでした!実はですね、あの後お嬢様は……」


ウィルの話によると、私は奉納舞を終えた後、その場でパタリと倒れてしまったのだそうだ。


『エレノアー!!?』


『エレノア嬢!!?』


『エレノアちゃん!!?』


『お嬢様ー!!!』


当然というか、その場は阿鼻叫喚の坩堝と化し、オリヴァー兄様が慌てて倒れた私を抱き起すと……。


『……寝ている』


どうやら私、安らかな顔をしながらスヤスヤ眠っていたのだそうだ。


……うん。考えてみれば、食うや食わずの徹夜作業で色々あったもんね。しかも奉納舞の前にたらふく飲み食いしたおかげで眠さがピークを迎えてしまい、元々の疲れも相まって電池切れを起こしてしまったんだろう。


ウィル曰く、皆安堵のあまりに脱力していたそうです。す、すみません!本能に忠実な身体で本当に申し訳ない!


ちなみにだけど、クライヴ兄様はやり切った感溢れるドヤ顔で眠る私を見て、若干イラっとしたらしい。酷っ!!


ちなみに今はお昼前だそうです。……本能に忠実な私の身体の事だ、ひょっとしたら、お腹が空いて目が覚めたのかもしれない。


「エレノアッ!!」


突然、ドアがバーンと開いて、オリヴァー兄様を筆頭に、クライヴ兄様、セドリック、リアム、そしてディーさんがどやどやと部屋の中に入ってきた。


「ああ……エレノア!目が覚めたんだね!?気分は?どこか痛い所とかある!?」


私の頬を両手で包み、心配そうに顔を覗き込んでくるオリヴァー兄様。寝起きでまだちょっとボーッとしていた頭に、絶世の美貌がクリティカルヒットする。


そうですね、兄様。しいて言うなれば、貴方の凶器なご尊顔がブッ刺さって目が痛いです!!


真っ赤になった顔でプルプルと頭を左右に振る私を見て、オリヴァー兄様はホッと表情を緩めた。


「良かった……!」


そう呟き、流れるように自然な動作で口付けてくるオリヴァー兄様。パーンと噴火する私の脳天。はい、お約束の流れです。


「エレノア!!まったく、お前って奴は!!心配させるのも大概にしろよ!?」


そう言って、オリヴァー兄様を押し退ける勢いで私をぎゅむぎゅむと抱き締めるクライヴ兄様。


「ごめんなさい……。クライヴ兄様」


「……いや。よく頑張った」


怒っている口調とは裏腹な蕩けそうな柔らかい笑みを浮かべながら、私に深く口付けるクライヴ兄様。はい、二度目の噴火きました!!


「エレノア!本当にお疲れ様!いつもながらとても綺麗だったよ!!」


「セ、セドリック。有難う」


「全くお前って奴は、想像を超えた事するよな!!そんでもって、すげぇ最高!!」


「リ、リアム……」


「俺のエル!すっげぇ恰好良かったぞ!!俺はお前を誇りに思うぜ!!」


「ディーさん……!」


セドリック、リアム、ディーさんの順に、次々と目覚めの挨拶という名の濃厚な口付けをぶちかまされ、ドッカンドッカンと噴火が続く。……私の頭の活火山、もはや草木一本生えていないに違いない。


――ん?あれっ?そういえば。


「アシュル様とフィン様がいない……?」


キョロキョロと周囲を見回している私に、オリヴァー兄様が声をかける。


「ああ、アシュル殿下はヴァンドーム公爵と一緒に、国王陛下に今回の事の次第と顛末を説明に戻られたよ。フィンレー殿下は言うに及ばず、送迎役だね。……まあ、帰ってくるのはヴァンドーム公爵とフィンレー殿下だけになるだろうね。アシュル殿下もお忙しい方だから」


あ、そういえばアシュル様、今回は来る予定がなかったところを、フィン様に無理矢理一本釣りされちゃったんだもんね。

というかアシュル様って、王太子殿下という立場としては有り得ないぐらい、修羅場の真っただ中にいる事多いよね。本当、いいのかなそれって。


「という訳でアシュル殿下、君が寝ている間にたっぷりお別れの挨拶をしていったよ」


若干、遠い目になりながらそう語るオリヴァー兄様。他の皆さんも半笑いを浮かべているんですが……。


ち、ちょっと待って下さい!アシュル様、一体私にどういう挨拶をしていったというのですか!?え?聞いたら最後、鼻血を噴くからやめておけ!?ち、ちょっとアシュル様ー!!?


「お取込みの最中、ごめんなさい。ちょっといいかしら?」


ふとそんな中、鈴の音が転がるような綺麗な声がかかる。


その場の全員がドアの方を振り向き、次の瞬間息を呑んだ。


なんとそこにはウミガメ姿ではなく、海底神殿で見た大精霊セイレーン姿の奥方様が、アーウィン様方を背後に引き連れて立っていたのだった。



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相変わらず動物に好かれるエレノアでありますv

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