第491話 晩餐会に向けての準備
再びエレノアサイドに戻ります。
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「……お嬢様!完璧で御座います!!」
フゥ……!と、やり切った感一杯なシャノンの言葉を聞きながら、私も巨大な姿見の前で、盛りに盛られた自分の姿を確認し、感嘆の溜息をつく。
「……化けた……!!凄いやシャノン!有難う!!」
「身に余るお言葉です!ですがお嬢様、『化けた』のではなく、『蕾のような愛らしさが花開いた』と仰って下さいませ!ああでも、お嬢様はとっくの昔に開花されておられましたけどね!!そして真の意味でお嬢様が満開になられるのは、多分若様方と御結婚される頃でしょう!非常に楽しみです!!」
「いや、『蕾のような愛らしさ』って、流石にそれを自分で言うのはちょっと……。というか、満開って……」
まるで前世における、気象予報士の桜前線開花予想のような台詞を言っているシャノンに苦笑する。
私は改めて、今現在鏡に映る己の姿をマジマジと見つめた。
ヘーゼルブロンドの髪はナチュラルにそのまま下ろし、いつものようにサイドを複雑に編み込み、花を模った海の白の髪飾りで纏めている。
アイラインや唇は、まるで桜貝のように艶のある薄桃色をベースにした化粧が施されており、愛らしさをとことん追求しているのが見て取れる。ちなみに、アクセサリーは髪飾りと同じく、海の白を使ったピアスとネックレスだ。
そしてドレスはというと……。ご存じ、希少な蜘蛛の魔物からしか採る事の出来ない、魔力を帯びた糸で織られた『
『着る宝石』と称される、この極上の生地。私のデビュタントの時に着たドレス同様、光を受けるとまるでカットされたアダマンタイトのように、複雑かつ艶やかな輝きを放つ超高級品だ。
試しにクルリとその場で回ってみる。
すると、普通の『
青銀、ピンク、緑、紫……う~ん……というよりこれって、螺鈿の色っぽいな。
そして贅沢な事にこのドレス、同じ生地を使って作った薔薇の飾りだけでなく、ピアスやネックレスと同じ最高級品の『海の白』までもがそこかしこにバランスよく縫い付けられている。なんというか……。華やかなんてもんじゃない。
しかもこの真珠。以前、グロリス伯爵家のお茶会で着たドレスに縫い付けられていた海の白よりも、大ぶりで輝きも桁違い。最高級品である事が一目で分かる。
……なんというか……。あまりの贅沢に身体が震える。
「大丈夫ですよお嬢様!この真珠はヴァンドーム公爵家より頂いた、お嬢様へのお見舞い品を使っていますから!実質タダです!!」
「わぁっ!そうなんだー……って、え!?ヴァンドーム公爵家から頂いた……って、今着けている、このアクセサリーだけじゃなかったの!?」
するとシャノンは呆れた様子で首を横に振った。
「……お嬢様。送り主は三大公爵家であり、あの『裏王家』と称されるヴァンドーム公爵家ですよ?アクセサリーだけなんて、そんなショボいレベルなわけないでしょう。しかも、まだあと数着分のドレスの装飾が出来るだけの量が残っておりますよ」
「な、なんてこった!!」
……済みません。三大公爵家舐めていました……!!
スケールの違いに慄き震えていると、ドアがノックされる。するとすかさずシャノンがドアに近付き、恭しくお辞儀をしながらリアムと兄様達を招き入れた。
「――ッ!エレノア……!!」
――くぅっ!!
相も変わらず、黒を基調とした貴族の礼服でバッチリとキメたオリヴァー兄様を筆頭に、各々自分の色で作られた豪華な礼服を身に着けた婚約者達が、美の破壊兵器と化し、極上の笑みで頬を染めながら私を殺しに……いやいや、熱っぽく見つめながら近付いて来る。
「ああ……僕のエレノア。今宵の君は、なにものにも汚されぬ海の白のごとき、無垢で純真可憐な美しさに輝いているね!」
極上の笑顔を浮かべながらそう言い放つと、私の身体を優しく抱き締め、頬にキスするオリヴァー兄様。『黒の貴公子』の二つ名どおり、このヴァンドーム公爵領の夜の帳に相応しい麗しさ全開ですね!
尤も今のオリヴァー兄様の二つ名、『黒の万年番狂い』の方が主流になっちゃってるみたいだけどね(byアシュル様)。
……ふふ……それにしても……。
相も変わらず呼吸をするがごとく吐き出される美辞麗句、お見事です!シャノンが「お嬢様に頬紅は要りませんね」と言われた通り、私の頬は今、真っ赤に火を噴いている事でしょう。
「……でも……」
「は、はい?」
「僕の色が一つも入っていない……」
「あ……」
先程までの夢見るような表情から一変し、スンとしてしまったオリヴァー兄様の様子に冷や汗が流れる。
するとセドリックもその横から「兄上、ご安心下さい。僕の色もありませんから」と言いながら、兄様同様私を抱き締め、頬にキスをした後、アルカイックスマイルを浮かべた。
セドリック……。最近、『優し気な美丈夫』って感じに、とみに大人っぽく、男らしくなってきた、貴方のふんわり笑顔はどこに行ってしまったのでしょうか!?
……実はこのドレス、本当は夏に開かれる、王家主催の
ここまで来るのに着ていたあのノースリーブ風ワンピースも同様。相変わらず仕事早いよね。……まあ、シャノンを含めた美容班数人が手伝ったらしいんだけれども。
で、ドレスを着つけてくれていたシャノンが、私に暴露した話によれば、オリヴァー兄様ってば、「何故、僕の色がどこにも使われていないんだ!?」と、ジョナネェの所に殴り込み同然に押しかけたのだそうだ。
そういえば今迄は、どんなドレスでも必ず兄様達の色が入るように作られていたもんね。
それで兄様、作り直しをジョナネェに要求したんだけど、ジョナネェも負けていなくて、「はぁ!?黒や茶色を入れろ!?馬鹿言ってんじゃないわよ!!光り輝く南国の保養地に暗色は不要!!どうしても作り直しを強要するってんなら、私の屍を越えていきなさい!!」
……なんて啖呵を切った挙句、「さあ殺せ!」とばかりに、兄様の前で大の字に寝ころんだらしい。それで流石のオリヴァー兄様も折れるしかなかったんだって。
それ聞いた時には、「あの兄様によくぞ……!ジョナネェ……。あんた、デザイナーの鑑だよ!!」と、心の底から感服し、尊敬したものだ(「そーでしょそーでしょ!」というジョナネェの高笑いが、どこかしらか聞こえてきた気がしたが)。
そういえばオリヴァー兄様、バッシュ公爵家に届けられたこのドレスを一目見るなり、「ちょっと用事があるから」と言って出かけて行って、暫くしたら、物凄く不機嫌そうな顔で戻ってきたんだけど……。あれってそういう一幕があったからだったんだね。
でもその話には続きがあったのだそうだ。
それは何かと言えば、オリヴァー兄様……。性懲りもなく最後のあがきとばかりに、「アクセサリーに、これを入れられないか?」って、『
だけど、それに対してシャノンは、「若様、完璧なお嬢様の装いが台無しになりますから却下です!」と、キッパリ断ったんだそうだ。
シャノン、その話をしてくれた時にちょっと青褪めながら、「あの時は正直、このまま闇に葬り去られるかもしれない恐怖に震えました」なんて言っていたっけ。
う~ん……。美の追求に関して命知らずなのは、第三勢力者の共通事項なのかもしれない。
そんな事を考えていたら、ちょっと複雑そうなオリヴァー兄様とセドリックを尻目に、リアムとクライヴ兄様が喜色満面といった様子で、嬉しそうに私の傍にやって来た。
「エレノア!すっごくすっごく奇麗だぞ!!」
「有難う、リアム!」
興奮気味に頬を紅潮させながら、ギュッと私を抱き締め頬にキスをするリアム。そのキラキラスマイルに負けないキラキラしたお姿、まさに『ザ☆王子様』ですね!顔から火が噴くだけでなく、脳天がパーンと弾けた音が聞こえた気がするよ。
「リアム殿下の言う通りだな!使われている宝石が
「有難う御座います、クライヴ兄様!」
極上の笑みをうかべながら皆と同様、私を抱き締め頬にキスをするクライヴ兄様。
ちなみに兄様、ヴァンドーム公爵様の勧めもあり、執事服ではなく貴族の正装を身に着けている。くぅっ!か、恰好良過ぎて眩暈が……!!
『それにしても……』
二人の、ど直球でどストレートな誉め言葉……ほっこりするなぁ。うん、誉め言葉なんて気持ちがこもっていれば、これぐらいで丁度いいんです。
「なんと言っても、さり気なく俺の色が入っているのがいいよな!それに、兄上方の色も!クライヴ・オルセンなんて、どの服にも色が入っているから、正直いつも羨ましかったんだ!」
あっ!リアムが嬉しそうに余計な事を言ってる!!
ああっ!オリヴァー兄様とセドリックの背後から、暗黒オーラが!!クライヴ兄様は……な、なんか物凄く得意げな顔になっている!?あっ!それに気が付いたオリヴァー兄様の嫉妬の炎が、クライヴ兄様に向かったー!!
そんな一触即発状態にあわあわしていると、再びドアがノックされる音が聞こえてきた。はて、誰だろうか?
私を含めたその場の皆が注目していると、対応していたウィルが、困惑した表情でこちらに視線を向ける。
「あの……オリヴァー様。シーヴァー・ヴァンドーム公爵令息様が、晩餐会の会場まで、お嬢様方をご案内したいといらっしゃっております」
えっ!?シーヴァー様が!?
「……分かった。ここにお通ししてくれ」
戸惑う私を他所に、オリヴァー兄様が許可を出すと、シーヴァー様が従者を引き連れ部屋の中へと入って来た。
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なんというか、あちらとこちらでは180度違うこの雰囲気。
というか、支度だけで終わってしまいました;;
しかも、エレノアの庶民感覚がシャノンに伝播しているという……。(;゜д゜)ゴクリ…
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