第535話 本格的に抗争!(一方的な蹂躙とも言う)
『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』の6巻予約発売中です!
興味のある方は是非!
=====================
キーラ様についての説明を受けた後、その場にしんみりとした空気が漂う。
微かに聞こえる波の音と海鳥の声がやけに大きく聞こえた。
「アルロ・ヴァンドームはこれを機に、ヴァンドーム領内に……いや、アルバ王国に蔓延っていた
アシュル様はヴァンドーム公爵家が王家の旗印の元、裏切り者を有無を言わせず徹底的に粛清する為の、いわば印籠代わりとしてここに戻って来られたのだそうだ。
「手始めとして、ヴァンドーム公爵は家門内の裏切り者達を徹底的に粛清するそうだ。勿論、粛清される筆頭はウェリントン侯爵家だ。奴の祖先は、帝国の古い血を持つ貴族だったようだが、古の大戦のどさくさに紛れ、間者としてアルバ王国に入り込んだのだろう。ヴァンドーム公爵によれば、強硬派の男性血統至上主義者達の多くは、そういった者達の末裔ではないかと言っていたよ」
「え?……あ、あの……。それじゃあ……」
確か私の実の祖父である、バートン・グロリスは、その強硬派だったと聞いている。……だとしたら、ひょっとして我が家も?
「ああ、大丈夫だよエレノア。君の祖父が愚か者であっただけで、バッシュ公爵家に連なる者達は間違いなく、れっきとしたアルバ王国の国民だ。あの帝国の血なんて一滴たりと流れてはいない。……それに、例え帝国の血が流れていたとして、大切なのは心や魂の在り様だ。それはバッシュ公爵家本邸の『影』達を見れば分かる事だよね?」
「――!!」
そうだった。
これは私を含め、ごく少数の人達しか知らないけれど、ティルを含め、我がバッシュ公爵家本邸の『影』の殆どは、イーサンが帝国でスカウト(という名の拉致)してきた帝国人なのだ。
彼等には『魔眼』がない。……ただそれだけの理由で、本来であれば自分達を守るべきはずの家族から見捨てられ、ゴミのように打ち捨てられたのだそうだ。
そんな彼らはバッシュ公爵家と王家に対し、自ら『血の誓約』をし、バッシュ公爵家と領民全てを護る誓いを立てている。ティルも自分の命を投げ打とうとしてまで、私を護ってくれた。……そうだ。アシュル様の言う通りだ。血なんかじゃない。大切なのは正しく在ろうとする心なんだ。
アシュル様が優しく微笑みながら私の頭を撫でようと手を伸ばす。そして次の瞬間、『お嬢に触るんじゃねぇ!!』とばかりに飛び跳ねた温泉魚に指を噛まれた。
ビキリ!とアシュル様のこめかみに青筋が立った瞬間、噛み付いた温泉魚が、何故か天に向かって浮き上がっていく。しかもなんか白く透けて輝いているような……ってこれ、昇天しかけてる!?
「わーっ!!ア、アシュル様っ!!ダメ―!!」
慌ててアシュル様に取り縋った途端、小魚の浮遊が止まり、ポチャンとお湯の中に落っこちた。身体も半透明から普通の魚に戻っている。よ、よかったー!!
「ふふっ。怪我の功名ってやつかな?エレノアから抱き着いてくれるなんて」
「へっ?」
嬉しそうに頬を染めるアシュル様の言葉に、私はアシュル様の腕の中で抱き締められている事に気が付き、ボフンと顔から火が噴いた。
ちなみに魚達はというと、仲間が危うく天に召されかけたためか、攻撃するのをためらっているようだ。
「兄貴!なにいつまでもエル抱き締めてやがんだよ!!」
そう言って、ディーさんが強引にアシュル様の腕の中から私を奪って抱き締める。……って、きゃーっ!!ふっ、服がピッタリ張り付いて……かっ、身体の形が凄くダイレクト!!
私の顔と言わず身体全体が火を噴く。頭の中までもが真っ赤に染まって……あああっ!び、鼻腔内毛細血管が久々のピンチ!!
「おわっ!!ッチ!!」
すると、張り付いていた温泉魚達が私のピンチを悟ったのか、『べらぼうめ!』『お嬢を助けろ!!』とばかりに、一斉にディーさんにたかって齧りだす。ああっ、ダメだ君達!その人はっ!!
「ディーさ……」
「こんの……クソ小魚どもー!!」
制止する間も無く青筋を立てたディーさんにより、一瞬でぬるめのお湯が熱めのお湯に変わった。と同時に一斉に魚達が『ぎゃー!』と絶叫し、ピッチピッチと飛び跳ねだす。
「ほらーっ!!ディーさん、考えるより先に行動起こす人なんだからね!!」
「おいこらエル!誰が脳筋だって!?」
「別にそこまで言ってま……ああっ!」
見れば小さい個体から先に茹ってプカプカ浮いている。いやーっ!!釜茹での刑再びっ!!
バッと
「――ッ!!」
「うきゃっ!!」
思いきり抱き着いた瞬間、クライヴ兄様が硬直した……と、次の瞬間、兄様の顔が真っ赤になり、お湯の温度が一気に下がった……というより、氷水のようにキンキンに冷えた。
「うわっ!寒っ!!」
「ちょっ!クライヴ!!温度下げ過ぎ!!」
「あー、もー!!偽乳に動揺するとこ、兄弟そろってヘタレだね!!」
「兄上!偽乳なんて、女子に対して言うべき言葉ではありません!!」
「リアム!突っ込むべきところはそこじゃないからね!?」
「あっ!ディラン!!お前は絶対何もするなよ!?」
一気に氷点下まで下がったお湯(既に氷水)に皆がパニックになる中、ピチピチしていたり、プカーッと浮いていた魚達が次々と湯船の底に沈んでいく。こ、これって冬眠!?それとも凍死!?
抱き着いているクライヴ兄様に「兄様!温度!!」と服を掴んで揺さぶっても、「あ、ああ……」と、何故か動揺している。「あ、エレノア。抱き着いている位置が悪い!」「ああ、あそこはクるだろ」と誰かが言っているけど、位置ってなにそれ!?
「おいで!エレノア!!」
「――ッ!オ、オリヴァー兄様ー!!」
――救世主、再び!!
ガチガチと歯の音が合わない状態で、私はオリヴァー兄様の胸に飛び込んだ。
途端、湯がジュワッと温かくなり、元通り……よりも、多少ぬるめの温度になった。見れば温泉魚達もスイスイ泳ぎ始めている。良かった生きてた!にしても、茹ったり凍ったりしているというのに、本当にタフだな君達!!
ホッとしたら、身体の冷えを実感して震えてしまう。……うん、もう少しオリヴァー兄様に引っ付いていよう。クライヴ兄様達の視線が痛いけど……でもオリヴァー兄様の身体、物凄くあったかいんだもん!
後で聞いた話だけど、私を優しく抱き締め、幸せ絶頂といった表情のオリヴァー兄様を見ながら、クライヴ兄様とアシュル様が、「……このお湯の温度……。絶対オリヴァーの奴、計算しているよな……」「ああ。流石はオリヴァー。なんとも抜け目がない」なんてヒソヒソ話し合っていたらしい。
「ちょっと、オリヴァー・クロス!折角エレノアとの初混浴なんだから、僕達にもエレノアを堪能させてよ!!」
「ちょっ!フィンレー殿下!!なにするんですか、貴方は!!」
更には、闇の触手でオリヴァー兄様の腕からスポーンと私を引き抜き、ギュムギュム抱き締めるフィン様にブチ切れ、「返せ!」「返さない!」の押し問答をしてた時、温泉魚達は私達の方に近寄れず悔しかったのか、あろうことか、ちょっと離れた位置で私達の方を見ていたリアムに『てやんでぃ!』と、一斉に襲い掛かったのだそうだ(セドリックに向かわなかったのは、一回土魔法によって、水中花と共に湯の中でオブジェにされたからだろうとの事です)。
当然というか、温泉魚達はブチ切れたリアムの風魔法による渦潮に巻き込まれ、目を回して再び湯にプカプカ浮かぶ事となったらしい。あんたたち、本当にバカなんですか!!?
ちなみに『らしい』と言ったのは、その後クライヴ兄様とリアムの合わせ技により、温泉魚達は湯船で発生した大波によって海に還され、私が気が付いた時には湯の中にいなかったからである。
「最初からこうしてりゃあ良かった!」と、クライヴ兄様が仰っておりましたが……。あの、兄様方。あの魚達ってベティ君のペットなんですが?よそ様のお宅の大切なペットを蹂躙して大丈夫なんでしょうかね?
「んなもん、
あ、そうですか。う~ん、恨みが深いな。
=====================
魚:「くっ……!無念!!」と呟きながら海に漂い、ベティ君に回収されるまでがお約束ですw
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます