第535話 本格的に抗争!(一方的な蹂躙とも言う)

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キーラ様についての説明を受けた後、その場にしんみりとした空気が漂う。

微かに聞こえる波の音と海鳥の声がやけに大きく聞こえた。


「アルロ・ヴァンドームはこれを機に、ヴァンドーム領内に……いや、アルバ王国に蔓延っていた帝国の末裔裏切り者を徹底的に排除すると国王陛下に上奏した。それに伴い、『裏王家』として何代にも及び調べ尽くした、疑わしき貴族家の情報を全て王家に提出したんだ」


アシュル様はヴァンドーム公爵家が王家の旗印の元、裏切り者を有無を言わせず徹底的に粛清する為の、いわば印籠代わりとしてここに戻って来られたのだそうだ。


「手始めとして、ヴァンドーム公爵は家門内の裏切り者達を徹底的に粛清するそうだ。勿論、粛清される筆頭はウェリントン侯爵家だ。奴の祖先は、帝国の古い血を持つ貴族だったようだが、古の大戦のどさくさに紛れ、間者としてアルバ王国に入り込んだのだろう。ヴァンドーム公爵によれば、強硬派の男性血統至上主義者達の多くは、そういった者達の末裔ではないかと言っていたよ」


「え?……あ、あの……。それじゃあ……」


確か私の実の祖父である、バートン・グロリスは、その強硬派だったと聞いている。……だとしたら、ひょっとして我が家も?


「ああ、大丈夫だよエレノア。君の祖父が愚か者であっただけで、バッシュ公爵家に連なる者達は間違いなく、れっきとしたアルバ王国の国民だ。あの帝国の血なんて一滴たりと流れてはいない。……それに、例え帝国の血が流れていたとして、大切なのは心や魂の在り様だ。それはバッシュ公爵家本邸の『影』達を見れば分かる事だよね?」


「――!!」


そうだった。


これは私を含め、ごく少数の人達しか知らないけれど、ティルを含め、我がバッシュ公爵家本邸の『影』の殆どは、イーサンが帝国でスカウト(という名の拉致)してきた帝国人なのだ。


彼等には『魔眼』がない。……ただそれだけの理由で、本来であれば自分達を守るべきはずの家族から見捨てられ、ゴミのように打ち捨てられたのだそうだ。


そんな彼らはバッシュ公爵家と王家に対し、自ら『血の誓約』をし、バッシュ公爵家と領民全てを護る誓いを立てている。ティルも自分の命を投げ打とうとしてまで、私を護ってくれた。……そうだ。アシュル様の言う通りだ。血なんかじゃない。大切なのは正しく在ろうとする心なんだ。


アシュル様が優しく微笑みながら私の頭を撫でようと手を伸ばす。そして次の瞬間、『お嬢に触るんじゃねぇ!!』とばかりに飛び跳ねた温泉魚に指を噛まれた。


ビキリ!とアシュル様のこめかみに青筋が立った瞬間、噛み付いた温泉魚が、何故か天に向かって浮き上がっていく。しかもなんか白く透けて輝いているような……ってこれ、昇天しかけてる!?


「わーっ!!ア、アシュル様っ!!ダメ―!!」


慌ててアシュル様に取り縋った途端、小魚の浮遊が止まり、ポチャンとお湯の中に落っこちた。身体も半透明から普通の魚に戻っている。よ、よかったー!!


「ふふっ。怪我の功名ってやつかな?エレノアから抱き着いてくれるなんて」


「へっ?」


嬉しそうに頬を染めるアシュル様の言葉に、私はアシュル様の腕の中で抱き締められている事に気が付き、ボフンと顔から火が噴いた。

ちなみに魚達はというと、仲間が危うく天に召されかけたためか、攻撃するのをためらっているようだ。


「兄貴!なにいつまでもエル抱き締めてやがんだよ!!」


そう言って、ディーさんが強引にアシュル様の腕の中から私を奪って抱き締める。……って、きゃーっ!!ふっ、服がピッタリ張り付いて……かっ、身体の形が凄くダイレクト!!


私の顔と言わず身体全体が火を噴く。頭の中までもが真っ赤に染まって……あああっ!び、鼻腔内毛細血管が久々のピンチ!!


「おわっ!!ッチ!!」


すると、張り付いていた温泉魚達が私のピンチを悟ったのか、『べらぼうめ!』『お嬢を助けろ!!』とばかりに、一斉にディーさんにたかって齧りだす。ああっ、ダメだ君達!その人はっ!!


「ディーさ……」


「こんの……クソ小魚どもー!!」


制止する間も無く青筋を立てたディーさんにより、一瞬でぬるめのお湯が熱めのお湯に変わった。と同時に一斉に魚達が『ぎゃー!』と絶叫し、ピッチピッチと飛び跳ねだす。


「ほらーっ!!ディーさん、考えるより先に行動起こす人なんだからね!!」


「おいこらエル!誰が脳筋だって!?」


「別にそこまで言ってま……ああっ!」


見れば小さい個体から先に茹ってプカプカ浮いている。いやーっ!!釜茹での刑再びっ!!


バッとクライヴ兄様救世主を見れば、ちょいちょいと指で「こっち来い」していた。私は脊髄反射で湯の中にスポッと沈み込んでディーさんの腕の中から抜け出ると、そのままクライヴ兄様の元にスーイと辿り着くなりガバリと抱き着く。


「――ッ!!」


「うきゃっ!!」


思いきり抱き着いた瞬間、クライヴ兄様が硬直した……と、次の瞬間、兄様の顔が真っ赤になり、お湯の温度が一気に下がった……というより、氷水のようにキンキンに冷えた。


「うわっ!寒っ!!」


「ちょっ!クライヴ!!温度下げ過ぎ!!」


「あー、もー!!偽乳に動揺するとこ、兄弟そろってヘタレだね!!」


「兄上!偽乳なんて、女子に対して言うべき言葉ではありません!!」


「リアム!突っ込むべきところはそこじゃないからね!?」


「あっ!ディラン!!お前は絶対何もするなよ!?」


一気に氷点下まで下がったお湯(既に氷水)に皆がパニックになる中、ピチピチしていたり、プカーッと浮いていた魚達が次々と湯船の底に沈んでいく。こ、これって冬眠!?それとも凍死!?


抱き着いているクライヴ兄様に「兄様!温度!!」と服を掴んで揺さぶっても、「あ、ああ……」と、何故か動揺している。「あ、エレノア。抱き着いている位置が悪い!」「ああ、あそこはクるだろ」と誰かが言っているけど、位置ってなにそれ!?


「おいで!エレノア!!」


「――ッ!オ、オリヴァー兄様ー!!」


――救世主、再び!!


ガチガチと歯の音が合わない状態で、私はオリヴァー兄様の胸に飛び込んだ。


途端、湯がジュワッと温かくなり、元通り……よりも、多少ぬるめの温度になった。見れば温泉魚達もスイスイ泳ぎ始めている。良かった生きてた!にしても、茹ったり凍ったりしているというのに、本当にタフだな君達!!


ホッとしたら、身体の冷えを実感して震えてしまう。……うん、もう少しオリヴァー兄様に引っ付いていよう。クライヴ兄様達の視線が痛いけど……でもオリヴァー兄様の身体、物凄くあったかいんだもん!


後で聞いた話だけど、私を優しく抱き締め、幸せ絶頂といった表情のオリヴァー兄様を見ながら、クライヴ兄様とアシュル様が、「……このお湯の温度……。絶対オリヴァーの奴、計算しているよな……」「ああ。流石はオリヴァー。なんとも抜け目がない」なんてヒソヒソ話し合っていたらしい。


「ちょっと、オリヴァー・クロス!折角エレノアとの初混浴なんだから、僕達にもエレノアを堪能させてよ!!」


「ちょっ!フィンレー殿下!!なにするんですか、貴方は!!」


更には、闇の触手でオリヴァー兄様の腕からスポーンと私を引き抜き、ギュムギュム抱き締めるフィン様にブチ切れ、「返せ!」「返さない!」の押し問答をしてた時、温泉魚達は私達の方に近寄れず悔しかったのか、あろうことか、ちょっと離れた位置で私達の方を見ていたリアムに『てやんでぃ!』と、一斉に襲い掛かったのだそうだ(セドリックに向かわなかったのは、一回土魔法によって、水中花と共に湯の中でオブジェにされたからだろうとの事です)。


当然というか、温泉魚達はブチ切れたリアムの風魔法による渦潮に巻き込まれ、目を回して再び湯にプカプカ浮かぶ事となったらしい。あんたたち、本当にバカなんですか!!?


ちなみに『らしい』と言ったのは、その後クライヴ兄様とリアムの合わせ技により、温泉魚達は湯船で発生した大波によって海に還され、私が気が付いた時には湯の中にいなかったからである。


「最初からこうしてりゃあ良かった!」と、クライヴ兄様が仰っておりましたが……。あの、兄様方。あの魚達ってベティ君のペットなんですが?よそ様のお宅の大切なペットを蹂躙して大丈夫なんでしょうかね?


「んなもん、エレノア八番苔ノアを誘拐した時点で相殺されてチャラだ!」


あ、そうですか。う~ん、恨みが深いな。



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魚:「くっ……!無念!!」と呟きながら海に漂い、ベティ君に回収されるまでがお約束ですw

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