第305話 ロックオン

牧場主さんや従業員の皆さんに誘導され、家畜達が満足気にゾロゾロと帰っていった後には、禿げた大地と破壊され尽くした柵が残されていた訳で……。


結果、牧場の従業員さん達総出で破壊された柵の修理に追われる事となったのである。

私の撒いた種(咲かせた雑草)の所為で……。ううう……み、皆さん。本当に御免なさい!


そんな恐縮しきりな私の気持ちをおもんばかってくれたのか、バッシュ公爵家の騎士達がその後片づけと柵の修理を手伝ってくれる事となった。

勿論私の護衛をしながらなので、その範囲内でですが……。


まあ私にはクライヴ兄様とオリヴァー兄様がいるから、そこまで護衛は必要じゃないので、大変な所は積極的に手伝ってあげて欲しいと伝えてはあるんだけどね。


……だが。


「こちらもお運び致しましょう」


「あ……。あ、有難う御座います!」


「家畜の餌やりですか?では、飼料運びは私にお任せ下さい」


「え?あ、あの……っ!そんな……!」


「ついでですから、廃材となった柵はまとめて薪にしておきましょう」


「えっ!き、騎士様のお手を煩わせるような……ああっ!剣で一瞬にして薪に……!?」


……等と、騎士服でビシッと決めたイケメン軍団が、爽やかに軽やかに手伝いをしてくれている様子に、従業員の方々よりむしろ、アルバ王国の顔面偏差値にまだ慣れていないであろう獣人女子の皆さんが頬を染め、ケモミミをピルピルさせながら色めき立っている。


うん。うちの国の男性達凄いでしょ。彼等のそのキラキラしさは、己の種を後世に残さんとする遺伝子達が、涙ぐましい努力の末に己を高めた結果なんですよ。だから筋金入りなんですよ。私もエレノアとして覚醒した直後は、もう本当に大変で……あ、今も大変ですけど。


……なんて思いながら。


自分に被害が及ばぬのを良い事に、オリヴァー兄様に抱き抱えられたまま、のほほんとその光景を見学していた私なのだが……。ふと、ある事実に気が付いた。


「……クライヴ兄様。獣人女性の皆さん、明らかにロックオンされていますよね?」


私達の横にいたクライヴ兄様に尋ねると、兄様は同意する様に頷く。


「ああ。見てみろ、奴らの目を。あれは狙った獲物は逃がさないっていう捕食者のそれだ」


そう。アルバの男性達って、女性に対して徹底的に紳士なレディーファースターなんだけど、その実態は草食獣の皮を被った肉食獣なんだよね。


そんな彼らがフリーで……。おまけに初心で可愛いケモミミ女子をロックオンしない筈がない。


ああほら、そこのポーッと頬を染めているウサミミのお嬢さん。爽やかスマイルに油断しちゃ駄目!一息に食われますよー?

……ん?牧場の男性従業員の皆さんがさりげなくケモミミ女子達をガードしたり、別の場所に誘導しようとしたりして、騎士さん達と笑顔で揉めている。


……そうですか。戦いのゴングは既に鳴っていたのですね。


「まあ、これで彼らが上手い具合に伴侶を得られれば、領内の人口が増える。人口増加は領内の発展に直結するから喜ばしい事だ。まさに一挙両得ってやつだね」


しかもトップシークレットだけど、獣人さんとのハーフって、能力が滅茶苦茶高いって話だしね。


「ああ。この状況って、考えようによってはまさに災い転じて福となるってヤツだな!お前のやらかしもたまには役に立つなエレノア」


「…………」


――なんか複雑。


まあでも、バッシュ公爵家の騎士さん達や領民の皆さんに春が訪れるのは純粋に良かったと思う。それにこのままいけば、数年後にはチビケモベビーラッシュがやってくるのかもしれない。


って事は、バッシュ公爵領はいずれモフモフパラダイスに!?や、やっぱこっちに居を移そうかな……。


「エレノア。今は駄目だからね?」


「……はい」


くっ!また考えてる事読まれた!いつも思うけど、何でなんだろうなぁ?


……え?目は口程にものを言う?というより顔に出ている?そ、そんな事ない……と思うよ!?私だって日々成長している筈だもん!って、兄様方!何でそこで目を逸らすんですか!?言いたい事があるなら口に出してくださ……いえ、出さなくていいです。


私は騎士さん達と、従業員男性達とがにこやかに火花を散らしている姿を見つつ、可愛いチビケモっ子をどうぞお恵み下さいと、心の中で彼らにエールを送った。





その後。


私と兄様方とで、牧場が見渡せる丘の上。大きな椎の木の木陰で休憩を取る事にした。


その際、料理長が「途中休憩のおやつに」と渡してくれたバスケットの中のフルーツサンドを、牧場の従業員達が差し入れてくれた冷たいミルクと共に頂く。


魔力枯渇寸前まで大盤振る舞いした身体に、生クリームの甘味とフルーツの甘酸っぱさが染み渡るなぁ……。ミルクも甘くて濃厚で美味い!


「ちょっといいかな?クライヴ」


突然、オリヴァー兄様がクライヴ兄様へと声をかける。クライヴ兄様も少しだけ眉を顰めている。ま、まさかオリヴァー兄様!「校舎の裏に来な」的なアレですか!?


「……エレノア、違うから。本当にクライヴと話したい事があるんだよ」


また的確に私の心中を察したオリヴァー兄様に、苦笑気味にそう言われてしまう。どうやら私の不安な気持ちがまたしても顔に出てしまったようだ。


「すぐ戻るよ」


オリヴァー兄様は、周囲で警護をしている騎士達に視線をやると、騎士達も了承した様に胸に手をあてて礼を取った。

それを確認した後、オリヴァー兄様とクライヴ兄様は、少し離れた場所へと移動していったのだった。





「で?何の話だオリヴァー。言っとくが、添い寝はあいつから言い出した事だし、実際本気で添い寝しただけで、やましい事はなにも……(まあ、ちょっとはあったが)」


「うん。それはもう報告を受けていたから知ってる」


「……知ってんのかよ……」


クライヴはガックリと脱力した後、呆れた眼差しを弟へと向けた。


――この様子を見るにこいつ、クロス伯爵家の『影』を付けてたな……。


どうりで色々な気配がひしめき合っていた筈だ。とするとあの中に、バッシュ公爵様直轄の『影』もいたのだろう。


そう思っていた矢先、オリヴァーが術式を展開した。


「おい?これは……音声遮断の結界か?……お前、そこまで……」


エレノアに聞かせたくないどんな罵詈雑言を言う気だと身構えたクライヴに、オリヴァーは肩を竦めた。


「僕が君に伝えたい事は、添い寝についてじゃないよ。……いや、本当は色々言いたいし聞きたいけど、本題はこちらだ。……エレノアに毒虫が接触してくるかもしれない。しかも帝国産の厄介なのが」


「帝国……だと!?」


クライヴが瞬時に顔を強張らせた。



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獣人女子の皆さん。ピンクなカルチャーショックに翻弄されております。

でも恐ろしい事に、獣人男子も対岸の火事ではないのです。

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