第174話 学院内の変化

天丼を食べ、帰宅したその後ですが、兄様方とセドリックにお仕置きは…何故かされませんでした。


「考えてみれば、あと2年もないしね」


「ああ。先の事を考えれば今はまぁ…。あれぐらいなら目を瞑ってやるか」


…制裁を免れたのは素直に嬉しいんだけど、言葉の含みが何となく不穏なような…?


ちなみにだが、私はお土産にと言って渡されたテイクアウトの天丼をアイザック父様に食べさせ、お気に召したのを確認したところですかさず、王家から稲の苗を譲ってもらえないかとお強請りしてみた。ついでに、領内でお米を生産してみれば…とも提案してみたのである。


なんと言っても、バッシュ公爵領はアルバ王国が誇る一大穀倉産地。稲作と麦作は、確か二毛作で相性が良い筈!(いや、領地の気候的には相性良いのかよく分からないけど)

相乗効果で、お米をうちの新たなる名産品とし、私は美味しいお米が食べ放題…。なんという薔薇色の計画なのだろうか!!

アイザック父様も「うん、それいいね!」と乗り気になってくれたし、再来年あたり、黄金に輝く稲穂の絨毯が領内で見られるかもしれない。そうしたらおにぎり食べ放題だ…!!


…なんて夢見ていた時期がありました。


結果的に言うと、父様が苗の譲渡を王家に打診したところ、秒で却下を喰らったそうな。


「やっぱりね」「ああ。絶好のカードを、あいつらが渡す訳ないよな」なんて兄様方がなにやら話していたけど…。ああ…。米食べ放題…!儚い夢だった。


「父様のバカバカ!」


悲しみと八つ当たりを込め、父様の胸をポカポカしてたら、何故かめっちゃデレデレされた挙句、それを見ていたセドリックにも「僕にも今の、やってくれる?」って強請られてしまいました。


ってか、何喜んでんですかあんたら!私は怒ってんですよ!?って、セドリックをポカポカしたら、やっぱり物凄く喜ばれてしまった。…何故だ?解せぬ。






――そんなこんなで、学院復帰から数週間が経ちました。


『…最近、何か雰囲気というか…。私に向けられる視線の質が変わったような気がする…』


婚約申し込みの嵐も何とか収束して来た今日この頃。(勿論、未だ申し込まれたりしているけど)何時もの通り、皆でランチを取っていた私は、そう胸中で呟きながら、カフェテリア内をこっそりとチラ見してみた。


すると、いつも通りに、憎々し気な視線を寄こすご令嬢方の他に、何やら話し合いながらこちらを凝視していた人達が、私の視線に気が付くなり、パパッと視線を逸らす。そして再び話し合いに戻るのだ。…しかもやけに楽しそうに。


「??」


そして特筆すべきは、そういった態度を取る人達は、大抵男女が入り乱れたグループ構成となっているって事。え?その組み合わせ、いつもの事だろって?いやいや、全然違うんですよ。


どこが違うかというと…。彼らは互いに楽しそうに会話を楽しんでいる…って事なんです。


え?普通だろそんな事って?いえいえ、全然違うんですよ!


だって、私が今迄見ていた光景って、女性が好き勝手話したり、男性に何かを命令したりしているのを、取り巻きの男性達が、にこやかに黙って相槌うったり尽くしていたり…だったんだもん。


それが、女性達も男性達も、何かこう…。屈託が無いというか、凄く自然な表情で楽しそうに「ただ」お喋りをしている…って感じなんです!しかも、こちらを時たまチラ見する彼ら…というか、彼女らに、いつもの敵意が全くもって感じられないのだ。


勿論、こういったグループはまだ少数なんだけどね。あ、それともう一つ!これも少数なんだけど、以前より滅茶苦茶親密そうにしているカップルが誕生しているのだ!


そういう人達って、下級貴族なうえ、元々互いが婚約者同士…っていう人達が殆どみたいなんだけど、これがまた、男性の一方通行…って訳でもなく、互いに想い合っている的な、今迄考えられないような、アオハル的王道カップルって感じで…って、あれ?そういえば、こっちに好意的な視線を向ける一群も、下級もしくは中級貴族の人達だったような…?


まあともかく、男女が普通に仲良くしている姿って、「これぞ王道青春学園生活!」って感じで、見ていてとても楽しいし、年相応にアオハル繰り広げるカップル見かけるのも、とても新鮮で嬉しい!


なんせ今迄、アオハルとは真逆な世界が広がっていたからね。…そんでもって、求婚者がこれ以上増えないのは、大変に有難い事です。舐める喉飴の量も減るってもんだ。


「どうしたのエレノア?何かとてもご機嫌そうだね?」


「はいっ!オリヴァー兄様。私のせいで色々ありましたけど、雨降って地固まるというか…。婚約者の方と、以前にも増して仲良くしているご令嬢がいたり、年相応に気の合う方達と友情を深める方々も出てきて、良かったなぁって思ってたんです!やっと姫騎士熱も落ち着いたって事でしょうかね?」


そう言って笑った私を、オリヴァー兄様だけでなく、席に座っていた全ての人達が複雑そうな顔で、曖昧に笑った。…んん?何で?


「あ!そう言えば実技の授業、女子生徒の見学者増えましたよね!最近クライヴ兄様が私の練習相手になって下さっているからでしょうけど。兄様カッコ良いし!」


そう言ったら、何故かクライヴ兄様までもが半笑いの表情を浮かべた。


「エレノア、そう言えば、次の授業は実技だろ?お前は着替えに時間がかかるんだから、そろそろ移動するぞ」


あ、そうでした!


私はオリヴァー兄様の頬に軽くキスをした後、セドリックとリアムに「また後でね!」と言い残し、クライヴ兄様と共にカフェテリアを後にしたのだった。


実は学院復帰と同時に、今迄は見学しかさせてもらえなかった、実技の授業に参加許可が下りたのである。…条件として、組手はセドリックとリアム、そして何故かクライヴ兄様に限られているんだけど。


そしてそれに伴い、私専用の着替え部屋が用意されたのである。今迄遠い離れで着替えていたから、凄く嬉しい!


…でも何かよく分からないんだけど、何故か私の体操着、決闘の時に着た戦闘服の簡易バージョンを着用するのが義務付けられているのだ。ジャージは当然ながらNG。しかもそれ、学院長を筆頭としたお歴々が満場一致で決めたのだとか。


学院長…。まさかのコスプレ愛好家疑惑、浮上。


しかもどうやら学院長って、王家の分家筋の方だったらしく、学院長から王家に話が行って、国王陛下方がノリノリで許可決定したらしい。…何でそうなる!?私はいつものジャージの方が、動き易いし好きなんですけど!?


その決定に対し、抗議するかと思われた兄様方やセドリックだが、これまた何故か、整容班達とノリノリで私の授業用戦闘服を仕立てている。私がジャージを所望しても、聞こえないフリをするか、笑顔でスルーされる始末だ。


それに対して抗議しようもんなら「じゃあ、実技は今まで通り見学にする?」と言われて終了。これってあまりに、理不尽過ぎると思いませんかね!?



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女子の騎士服は、アルバの男性の萌えポイントを容赦なく貫くアイテムと化した模様。

これに関しては、兄様サイドも王家サイドも、裏でしっかり手を組んでいます。

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