第22話 トラウマの元凶と再会
Aランクパーティ「赤い流星」がミムルの街にやってきた。街の東のダンジョン攻略に挑戦するためである。
リーダーは貴族のビッグ。子供の頃、奴隷だったリューを買い取り、凄惨な暴行を繰り返した者である。
リューは毎日ギルドに顔を出している。
となると当然、ビッグとリューはどこかで顔をあわせる事になる。
リューはギルドにやってきたビッグを見かけた時、すぐに誰だか分かった。
あれから五年、リューもビッグも成長していた。
ビッグは記憶が戻って別人のような雰囲気になったリューが一瞬分からなかったようだが、リューは、自分に散々酷いことをしたビッグの顔を見間違えるはずがない。
そして同時に、奴隷だったときの経験の記憶が蘇ってきて、恐怖に体が一瞬硬直した。
だが、すぐにそれはドス黒い怒りの感情に変わった。
ビッグの奴隷になっていたぶられ続けた生活はリューの心に傷を残していた。
普通ならその傷はそう簡単に癒えるはずがない。普通の人間であったら、ビッグに対する恐怖心が湧き上がって震え上がっていただろう。
だが、リューは転生前の記憶が蘇っていた。この世界のリューの生活の記憶よりずっと長い、別の人生を生きた記憶があるのである。それによる精神の余裕は、奴隷だった時の経験をも冷静に振り返る事を可能にした。
恐怖は感じていたが、それは肉体的な本能的な反応に過ぎず、心は萎縮してはいなかった。そして、恐怖を乗り越えれば、湧き上がるのは、その理不尽な行為に対する怒りの感情である。
自分に酷いことをした憎たらしい相手が現れたのである。力を手に入れたリューは当然、復讐する事を決めていた。。。
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だが、リューに気づいたビッグは再会を喜んだ。
そして、意外にも、
「昔の事は済まなかった。」
と、リューに謝罪したのであった。
リュー 「……許せると思うか?」
ビッグ 「まぁまぁ、悪かったと思ってる、子供だったんだ、あの時は。(法律を)知らなかったんだよ。幼い頃の過ちってやつだ。水に流してくれないか?」
いきなりの謝罪で拍子抜けしてしまったリューであったが、軽く謝って済むと思っているあたり、やはりビッグはクズであることに変わりはないようで安心した。
リュー 「水に流すってのは加害者から言う事じゃない。」
ビッグ 「え、いや、まぁ、そう言うなって。」
そこに、不穏なリューの雰囲気を感じ取った「赤い流星」のメンバーが声を掛けてきた。
アミラ 「どうしたビッグ?何かあったか?」
Aランク冒険者のアミラである。
ビッグ 「いや、昔の知り合いを見つけてさ、同級生だったんだ。」
アミラ 「それにしては……?」
リューの態度に訝しい目を向けるアミラ。
ビッグ 「いや、昔ちょっと“やんちゃ”してた時期があってな、リューには少し悪い事をした事があったんだ。」
リュー 「少し?半年間以上、毎日拷問し続けた事が、少し悪い事だと?」
やはりコイツは後で殺そうと思うリューであった。
アミラ 「そ、そうなんだ、それは……かなり悪いな。」
ビッグのやった事を一瞬で悟ったアミラもさすがに引き気味であった。
だが、実は、ビッグを守るためにアミラは雇われているのである。リューがビッグに恨みを抱いているとなると、放っておくわけにもいかない。
アミラ 「ま、まぁ、でも、子供頃は色々あるさ、昔の事をいつまでも引きずるのは大人げないぜ…?俺はアミラだ。Aランクパーティ赤い流星のメンバーだ。」
アミラが勝手な事を言いながら手を差し出してきたが、それを無視してリューはギルドを出たのであった。
アミラ 「ツレナイお方ですなぁ……」
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ギルドを出たリュー
歩きながらビッグの事を考えていた。
これからどうするのか?
反省し、今はそれほど悪人ではないというのなら……
しかし、ビッグにされた事を思い返せば……やはり、ビッグの事は許したくはない。
どうやらビッグ達はダンジョン攻略に来たらしいので、もうしばらく様子を見ることにした。
その気になれば、いつでも消してしまえる。
「ダンジョンの中で冒険者が消えるのはよくある事だしな。」
だが、ふと、一緒に居るのはAランクパーティである事を思い出した。
仮に、ビッグに復讐して始末するにしても、残りのパーティメンバーはどうするか?
彼らに恨みはないが、先程の感じだと、あのアミラと名乗った男―――恐らくAランク冒険者だろう―――は、ビッグに何かしようとすれば、当然“パーティの仲間”を守ろうとするだろう。
彼らに恨みはないので、ビッグだけを処分すればよい事なのだが……
ただ、Aランクの冒険者には初めて遭う。どれほど強いのか、少しだけ興味があった。
AランクはBランクとは文字通り「段違い」に強いはず。
もし戦っても、これまでのように簡単には行かない可能性もある。
もちろん、リューの力であれば特に問題となるとも思えなかったが。
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次回予告
リュー、ビッグとパーティを組む
乞うご期待!
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