第613話 オン!

やがて半日ほど歩いて、やっとトリプルJ達の村に着いた。山道を徒歩で半日ほどで着くのだから、それほど遠くではないのだが、先程、上空からは村は見えなかった。


エライザ 「ああなるほど、さっきの場所からだと、山の影になるのね、見えなかったわけね…」


村は一応、小さいながらも城壁を備えていた。城門で身分証を要求されたが、そんなものエライザは持っていない。金を払えば入城させてもらえるが、エライザは人間の世界の金も持っていない。


結局、金はジョン達が建て替えてくれた。どうせすぐに素材を売った金が入るのだから問題ない。


冒険者ギルドに着くと、ジョンはギルマスの部屋へ依頼の報告に、ジャックとジョーはロック鳥の素材の買い取りカウンターへと分かれた。もちろんエライザは買取カウンターのほうへと行く。


ジョー 「冒険者ギルドは初めてか?」


エライザ 「いいえ、トナリ村の冒険者ギルドにはよくパパに連れて行ってもらってたから」


ジャック 「パパ? パパも冒険者なのか?」


エライザ 「ええそうよ、Sランクの冒険者なの」


ジョー 「Sランク!? 嘘つけ……ってわけでもないか、コレだもんな」


ジョーが買取カウンターに出したロック鳥の素材を見て、ギルド職員が目を白黒させていた。


素材は非常に状態が良かったため、かなり高額で買い取ってもらえた。ジョー達は一割という約束だったが、少し多めに渡してやったエライザ。


そこに、ジョンとギルマスがやってきた。


ジョン 「エライザ、ギルマスがトナリ村の場所を知ってるってさ」


エライザ 「そう! ありがとう!」


ギルマス 「はじめまして、ギルマスのイルダンだ。冒険者でもない少女がロック鳥を一撃とか? 世の中は広いもんだね…。


それだけ強いなら、まだつがいの片割れが山に残っているからな、できたらそっちの討伐もお願いしたいところだが…」


ジョン 「ギルマス、言ったろ? エライザはまだ冒険者じゃない。それに、急いでるんだってさ」


イルダン 「ああ、分かってるさ。トナリ村の場所は……」


イルダンは羊皮紙に大雑把に地図を描いてくれた。手書きの簡素な地図なのでいまいち当てにならない感じだが、大まかな方向も分かった。いくつかランドマークを教えてくれたので、それを目印にして行けば辿り着けそうである。


礼を言うと、エライザはすぐに街を飛び立とうとしたが、イルダンに止められた。


イルダン 「もうすぐ夜だ、出発は明日、明るくなってからのほうがいい」


ジョン 「そうだよ、魔物だって夜のほうが活発になるんだ」


エライザ 「別に? 私は夜でも大丈夫だけど?」


イルダン 「ロック鳥を一撃で仕留める腕なら魔物は怖くないだろうが……、暗いと、目印がよく見えないから方角が分からないぞ?」


エライザ 「あぁそっか……」


仕方なく、ジョン達が止まっている宿にエライザも一泊してから、翌朝、日の出とともにエライザは出発した。


イルダンの説明では、トナリ村までは馬車で十日ほどの距離だそうだ。だが、場所、方角さえ分かっていれば、空を飛べば数時間の距離である。


空を気持ちよく駆け抜けていくエライザ。すると、見覚えのある村が見えてきた。


エライザ 「トナリ村だぁ!」


見ると、門の前に誰かが立っている。リューであった。


エライザ 「パパ!」


着地すると、そのまま走ってリューの胸に飛び込むエライザ。


リュー 「大きくなったな、エライザ!」


エライザ 「パパ! 会いたかった!」


しっかりと抱き合う二人。


エライザ 「…でもどうして?」


リュー 「お前が近いうちに帰ってきそうな予感・・がしたんだ。最近は予知能力も鍛えているからな。だから、毎日ここで待ってたのさ…」


エライザ 「ちぇ~驚かせてやろうと思ったのにぃ!」


リュー 「驚いたさ。すっかり大きくなって……パパは少し寂しいぞ…」


エライザ 「へへっ、パパ好みの良い女になれたかしら?」


『オン!』


その時、大きな白い犬がエライザに飛びついて来た。押し倒されて顔をペロペロ舐められる。


エライザ 「エディ! ……エディ、よね?」


エディ 「オン!」


エライザ 「なんか、すごいデカくなってる気がするんだけど……?」


リュー 「ああ、エディはもうただの犬じゃない、フェンリルに進化したんだ」


エライザ 「そうなんだ!」


エライザはすんなり受け入れてしまったが、実はとんでもない話なのである…。


なぜなら、エディは魔物ではない、狼ですらない、ただの普通の犬だったのだから。


魔物であれば、魔力を大量に吸収したりなど、何らかのキッカケで進化する事もある。現にリューが裏庭で育てているマンドラゴラは、リューが過剰に魔力を与えたため進化してしまった。だが、普通の動物にいくら魔力を投与しても、魔物に進化するのは普通はあり得ないのだ。


ではなぜ、エディは魔物に、しかも犬系魔物の最上位であるフェンリルに進化できたのか?


それは、もちろん、不死王の仕事であった。


実は、エディは度々、怪我をしたり、病気になったりした。普通の犬は、この世界では非常に弱い存在なのだ。それに、歳もとる。犬の年齢は人間の七倍すると人間の年齢に換算できる。つまり、人間より七倍早く寿命が訪れるのだ…。


エディはエライザが生まれた年に拾われた。エライザと同い年の十六歳である。ということは、人間の年齢に換算すると、エディは百歳を超える老犬となってしまう。


まぁ実際は、リューがエディの肉体の時間を時々巻き戻しているので若いままでいられるのだが。ただの犬なので弱い事には変わりない。病気にもなるし怪我もする。まぁトナリ村の中に居るかぎり、そうそう怪我などしようもないのであるが…。


だが、ある日、事件が起きてしまった。街を一匹だけで散歩するのが日課だったエディは、流れ者の冒険者に虐められて大怪我を負ってしまったのだ。(この世界の人間は、魔力を帯びていて非常に強い。魔物ならともかく、普通の動物では歯が立たない。)


怪我は、たまたま近くに居たヴェラによってすぐに治療されたため大事には至らなかったが。(虐めた冒険者は、もちろん、リューがしっかりと再起不能にしてやった。)


だが、弱いエディを心配したリューは、不死王に相談したのだ。


リューとしては、危険が迫った時に自動的に魔法障壁が展開されるような護身用の魔道具ができないか? という趣旨の相談だったのだが……


不死王が、どうせならもっと強い生物に、いっそ魔物に進化させてしまったらどうか? と言い出したのだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ランスロット 「私の存在もお忘れなく~(涙)」


乞うご期待!


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