第283話 リュー王都に向かう

この世界の宿には風呂はないのが当たり前である。


そもそも、この世界ではクリーンの魔法を使える者も多い。クリーンの魔法が使えるなら、風呂や洗濯もほとんど必要なくなるのだ。実に便利な魔法である。


もちろん、全ての人間がクリーンを使えるわけではない。使えない者も、桶にお湯を汲んで身体を拭くだけで済ませる事が普通であり、湯船にお湯をはって浸かるなどというのは、貴族しかしない贅沢なのである。


リューもクリーンは使えるので、レスターとアネット、モリーに掛けてやれば汚れはなくなる。怪我や病気も治癒魔法で治っている。だが、奴隷の生活により精神的には疲弊があるはずとリューは思っていた。


リューとしては、とりあえずはレスター・アネット・モリーの三人を、風呂にでも入れてやってベッドでゆっくり休ませてやりたかったのだ。そこで、リューは三人を自分の小屋で休ませる事にした。リューの小屋は温泉完備である。


しかし城郭都市というのは内部の空間に余裕はない事が多い。当然空き地などはほとんどなく、街の中ではリューの小屋を出すスペースが見つけにくいのである。


そこでリューは、子供達とモリーを連れて街から一旦出ると、城壁に沿って移動、城門から少し外れた城壁沿いに小屋を出した。


小屋に子供達とモリーを招き入れたリューは、腹が減っているだろうとまず食事をさせ、その後入浴させる。


リューの小屋の風呂は転移魔法が使われていて少し特殊なので、使い方を教えるためにヴェラにも一緒に入ってもらった。


突然助かったモリーは未だ現実を受け止めきれていなかった様子だったが、風呂からあがり落ち着いたところで、ようやく助かったのが現実であると受け入れられたようだ。


一度は人生を諦めたモリーであったが、腐りかけていた体も治してもらい、さらに奴隷の立場であるにも関わらず温かい食事と風呂まで与えてくれた事について、土下座せんばかりにリューに感謝し始めた。


リュー 「別に自分の事を奴隷だなんて思わなくていい、冤罪なんだろ? その話を詳しく聞かせてもらいたいが、まずはゆっくり休んたほうがいい。治癒魔法のおかげで体は元気かもしれないが、心は疲れ切っているはずだ」


リューは寝室にモリーと子供達を案内し、休んでもらう事にした。


モリーの冤罪に関しては、無実を証明して奴隷から解放してやるつもりである。


奴隷に関する法整備の改善については、この国の王に働きかける必要があるだろう。とは言えいきなりリューが言ったところで相手にされない可能性は高いだろう。


無理やり押し入って王を脅すか、最悪、王族を全員殺して国を乗っ取ってしまう事も不可能ではないだろうが……


できればあまり過激な方法を取らずに済ませられればそれに越した事はない。


そこでリューはふと、ドロテアの事を思い出した。


確か、王都に来たら声を掛けてくれとドロテアは言っていたし、さらには王に紹介したいとも言っていたような気がする。それを利用すればとりあえず王に会って話をするところまではスムーズに行くかも知れない。


それに、無責任にレスターとアネットを放り出したガーメリアにも文句を言わねば気が済まない。


王がリューの話を素直に聞き入れるかどうかは分からないが、まずは話してみて、その反応次第で、非合法・強引な方法を考えてもよいだろうとリューは考えていた。



   ** ** **



翌日。


一晩ゆっくり休んでモリーも子供達もすっかり元気になったようだ。


もともと治癒魔法のおかげで体は元気なので、あとは栄養をとって一晩ぐっすり眠れば、目覚ましい回復ぶりも当然である。この辺は、魔法というものがあるこの世界の地球とは違うところである。


そして朝食後リューは、モリーに身の上話を聞いた。


それはとても酷い話―――よくある、平民の事は奴隷と同等にしか思っていない、平民には何をしても許されると思っているような貴族の登場する話であった。


たまたま街で見かけた娘を欲したが断られ、プライドを傷つけられた貴族が無実の罪を娘に着せ、犯罪奴隷に貶めてやった、という話である。


どうやら冤罪である事は間違いなさそうである。


リューはすぐにでも王に会いに行って文句のひとつふたつも言ってやりたかったのだが……


その前に、ヴェラが街でレスターとアネットとモリーの服や日用品を買うと言った。


まずは三人の気持ちを落ち着かせる事のほうが大事だとヴェラは言うのである。


それに従い、もう一日リューは待つ事になり、そのまた翌日、リューはやっと、子供達二人を連れて王都へ向かったのであった。


リューは子供二人はどうしても一緒に連れて行きたかった。リューだけが言って言葉で話すだけより説得力があるからである。


街の事はランスロットとヴェラに任せた。


ランスロットは自分たちだけで大丈夫だと言った、事実そうなのだろうとは思ったが、まだスケルトン軍団に街の住民が慣れていない事もあり、念の為、責任者として人間(ヴェラ)を置いておく事にしたのであった。


(ヴェラも人間ではないのだが、ヴェラの人化能力はほぼ完璧なので、正体を見破られる事はないだろう。)


ヴェラとモリーは小屋を出て街の中の宿に移動したらどうかとリューは提案したのだがヴェラに却下された。


小屋は街の城壁の外にあるので、街の出入りにいちいち入城料を取られる事になるので不便だろうと思っての提案であったのだが、宿代より入城料のほうが遥かに安いし、宿よりリューの小屋のほうが快適だと言うのだ。


結局、ヴェラ達は引き続き外壁の外の小屋で寝泊まりする事になった。リューが居ないと次元障壁が張れないという問題があるが、ヴェラもその正体は超一流の魔法使いであるケットシーである。リューほど強力ではないにせよ、魔法障壁を張る事など造作もないのであった。


さらに、リューの指示でスケルトンの護衛が常に亜空間から見守っているので、そもそも魔法障壁などなくても何も問題はないのであったが。


問題があるとすれば街の出入がいちいち面倒であると言うことであるが……前にあったように、嫌がらせで高額な入城料を要求したり痴漢行為を働くと言うようなトラブルはもう起きる事はないだろう。何せ、今、門番をやっているのは全身鎧で姿を隠してはいるが、中身はランスロットの配下であるスケルトン兵なのだから。


結局、ランスロットの指示でヴェラ達が出入りする際には入城料など取らない事になっていた。人間の警備兵も何人かは居るのが、さすがにリューとヴェラの事は知れ渡っており、文句を言う者も居ないのであった。


リューは、ヴェラに余っている通信用魔道具(子機)を渡した。何かあったらそれでいつでも連絡を取れる。


そして、リューはついに、転移で王城へ移動したのであった。



   **  *  **



王城の中庭。


倒れているガーメリア。


リューはその前で仁王立ちしている。


ガーメリア 「ば、かな……まったく反応できなかった」


ガーメリアが倒れているのは、もちろんリューにちのめされたからである。



― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

ガーメリア〆られる

 

乞うご期待!

 

 

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