第282話 リュー、死にかけていた女奴隷を復活させる

リュー 「なんだ? 言いたい事があるならはっきり言え」


ヴェラ 「リュー! もうちょっと優しく言いなさいよ!」


リュー 「あ、スマン……」


つい奴隷商への苛立ちの表情をそのまま子供達に向けてしまった事に気づいたリューは、慌てて顔の筋肉を解す……


ヴェラ 「アネットちゃん、何? いいのよ、大丈夫。怒ったりはしないから安心して、何でも言ってみて」


アネットがおずおずと口を開いた。曰く、この奴隷商に囚われている奴隷で、もう一人助けて欲しい者がいるのだという。


それは、一時、レスターとアネットと同じ部屋に入れられていた犯罪奴隷の女だった。その女は二人に優しくしてくれ、食べ物も分けてくれたという。


奴隷は商品である。売り物として健康である事も大事なので、有望な奴隷にはちゃんとした食事をさせる。だが、売り値があまり期待できない奴隷の場合は、経費節減のため、最低限、死なない程度の食事しか与えない事も普通なのだ。


幼い子供二人はまだ何か仕事をさせられる訳でもなく、また大人になるまで生きていられるかも分からないので、それほど有望とは言い難い扱いとなるのだったのだ。


だが、それでは育ち盛りの子供にはとても足りず、レスターとアネットは空腹に耐えていた。その時、女は、自分は病気でどうせ食べられないからと、自分の分の食事を二人に与えていたという。


その女は、貴族に無実の罪を着せられて奴隷に落とされたという身の上で、酷い目に合わされ奴隷にまで堕とされ、生きる事に絶望し、食事も口にしなくなっていたのであった。


アネットはその女の身の上話を聞き、同情したらしい。


奴隷商にその女の事を尋ねると、格安で譲り渡してもよいと言い出した。いや、レスターとアネットを “高額” で買ってくれたので、女は無料にすると言う。


奴隷商がそんな事を言い出したのは、リューに相場よりはるかに高い値段で子供達を売りつけてしまった罪滅ぼしもあったのだろうが、それ以上に厄介払いしたいというのが理由だったようだ。


連れてこられた女はもう自力で歩けないようで、台車に乗せられて運ばれてきたのだ。


女は片手片足が欠損状態で、顔にも酷い火傷の痕がある。


奴隷商も取引のある貴族から無理やり押し付けられたとかで、このままでは買い手が付かず、かと言って奴隷を殺してしまうと奴隷商が罰せられるので困っていたという。ただ食事を与えて活かし続けるだけでは、奴隷商としても赤字がかさむばかりなのである。処分に困り、病死される前に、違法ではあるが闇社会に売り飛ばして処理してもらおうと考えていたところだったのだ。


奴隷の女 「……駄目です……私は既に病気に罹り、残っている足も腐って毒が体を回っています。この体では長くはありません。私を引き取れば、私が死んだ後、引き取った者が責任を問われてしまうでしょう……」


リュー 「構わん、引き取ろう。手続きしてくれ」


奴隷商 「そうですか、ではすぐ手続きしましょう! もう今さら嫌だといっても駄目ですからね!」


厄介払いできるチャンスを逃したくないのか、奴隷商の店主は大急ぎで手続きを済ませる。


奴隷商 「サービスで台車もつけて差し上げます」


リュー 「要らんよ。自分の足で歩いてもらう」


奴隷商 「お客様も奴隷扱いが、なかなか厳しいですなぁ。ですが、さすがにこの者は、もう歩ける状態ではないと思いますよ?」


リュー 「歩ける状態にすぐに戻るさ」


そう言いながら、リューは光の仮面を装着した。


リューの治癒魔法が発動する。


パーフェクトヒール。


通常のヒールの上位版がハイヒール、さらにその上のクラスのヒールがエクスヒールと言われるものだが、パーフェクトヒールはさらにその上を行く最上級魔法である。【ヒール】の効果のみならず、毒などの状態異常を治す【キュア】や欠損を治療する【リカバリー】までも含む、あらゆる不具合を治してしまう。


眩しい光が女の身体を包み込み、身体を蝕んでいた病が全て消える。


やがて光が収まった時、そこには美しい女が居た。顔の火傷もすべて綺麗に治っている。欠損部位さえも、すべて元通りに再生しているではないか。


奴隷商 「馬鹿な……欠損部位まで治すほどの治癒魔法なんて、教皇クラスの最上位治癒魔法ではないか……ありえない、色々、アリエナイ、arienai……」


本来、これほどの効果の高い治癒魔法を使おうとすれば、とんでもなく莫大な量の魔力が必要になるのであるが、魔力無限供給能力のあるリューからすれば何も問題ないのである。


女 「え……これは一体……」


リュー 「名前はなんというんだ?」


女 「……」


アネット 「モリー! お姉ちゃんはモリーだって言ってたよ」


状況についていけず、自分の手足を見ながら混乱フリーズしている女の代わりにアネットが答えた。


リュー 「ではモリーの隷属の首輪も外してしまおうか」


ヤン 「ああリュー様! それは止めておいたほうがいいかも知れませんぜ。犯罪奴隷は勝手に解放してはならないのです。そうだよな、ベルト?」


奴隷商人はベルトという名だったようだ。


ベルト 「……あ? ああ、ええそれはもちろん、勝手に解放する事はできません、その女は重犯罪奴隷ですから……、え、それもご存じない? 説明が必要? では…


犯罪奴隷には重犯罪奴隷と軽犯罪奴隷の二種類に分別されるのです。軽犯罪奴隷の場合は有期刑で、定められた期間が過ぎ、罰金を払い終えれば解放されますが、重犯罪奴隷の場合は終身奴隷という扱いで、通常は死ぬまで解放される事はないのです」


軽犯罪奴隷であっても、鉱山等で重労働を命じられれば刑期を終える前に死んでしまう者も多いので、扱いによっては決して軽い刑とも言い切れないのであるが。


アネット 「お姉ちゃんは無実だって言ってた」


ベルト 「犯罪者は皆、自分は無実だと主張しますのでね。それを素直に信じるわけにはいきません。無実である事が確実に証明されれば別ですが」


リュー 「そうか、ではそれについては、モリーに詳しい話を聞いてからにしようか」


リューは子供達とモリーを連れて、一旦街の外に出る事にした。とりあえず、子供達とモリーをゆっくり休ませてやりたかったのだ。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー、ついに王城へ乗り込む!


乞うご期待!



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