第284話 リュージーン殿、よく来てくれた!

ガレリア王国の王都の中心に建つ王城。


レスターとアネットを連れ、リューはその王城の外に転移してきた。どうせ門前払いだろうとは思いつつも、一応、一度は正面からアプローチしてみる事にしたのだ。


ダメならドロテアの居場所を神眼で確認し、そこに直接転移してしまうつもりであった。


子供達は初めて見る立派な城を見上げて喜んでいる。水の張られた堀が二重になっている、なかなか警戒厳重な城である。堀の中にはなにやら危険な生物の気配もしていた。子供達に誤って落ちないように注意する。


ひとつ目の堀にかかっている橋を渡るリューと子供達。すると、次の橋を渡る前に簡易詰め所があり、衛兵が立哨していた。その衛兵に話し掛けてみると、意外にも対応は良く、門前払いテンプレにはならなかった。


二人の子供を連れたリューを見て衛兵は、子供を連れて田舎から出てきた観光客だとでも思ったようだったが、リューがドロテア名を出すと、宮廷魔道士長と知り合いであるとはとても信じていないようではあったが、失礼な態度を取る事もなく、一応確認に行ってくれたのであった。


すると、すぐにドロテアが城の中から飛び出してきた。


ドロテア 「リュージーン殿、よく来てくれた! 正直、来てくれるとは思わなかったぞ!」


リュー 「来たら声を掛けろ言ったのは自分じゃないか」


ドロテア 「いや、言って見るものだな! 嬉しいよ。君はもしかしたら王都には寄り付かないんじゃないかと思っていたのだが……


…おや、子連れかい? 君の子供……なわけはなさそうだな」


リュー 「まぁ、用がなければ王都に、ましてや王城になど来なかっただろうがな」


ドロテア 「用?」


リュー 「ああ、この子達の事で苦情を言いに来た。ガーメリアにな」


ドロテア 「ガーメリアがどうかしたのか? まぁ、話は中で聞こう、入ってくれ。歓迎するよ、ガーメリアもすぐに呼んでこさせよう」


ふたつ目の堀を渡り、立派な城門を潜って城の前庭に入ったリュー達。そこに、呼ぶまでもなくガーメリアが現れた。


ガーメリア 「ドロテア先生、急に走りだして、どうかしたのですか……? ってお前は! リュージーン? 何しに来た?! まさか先生の社交辞令を信じて王城まで乗り込んできたのか?!」


ドロテア 「社交辞令じゃないんだけど?」


リューは、ガーメリアをひと睨みすると、ガーメリアの目前に短距離転移で移動し、とりあえずお仕置きに一発叩き込んだ。


と言っても、やったのはデコピン一発だけなのだが。


しかし、リューのデコピンは一般人が拳で殴ったくらいの衝撃はある。しかも近距離転移で間合いを瞬時に詰めての不意打ちである。ガーメリアは反応できず、パコーンと良い音を響かせながらもんどり打って転がったのであった。


ドロテアは驚いたが、あえて何も言わなかった。


即座に立ち上がり反撃しようとしたガーメリアであったが、リューが発した言葉で動きが止まった。


リュー 「この子達を無責任に放り出していった罰だよ」


リューの後ろから兄妹が姿を表す。


ガーメリア 「その子達は……無事だったか! 良かった。ダヤンの領主が反逆罪で捕らえられたと聞いて心配していたのだ」


リュー 「無事ではない。俺がこの子達を見つけたのは奴隷商だぞ。この子達は奴隷として再び売られていたんだ。それを俺が金貨一万枚払って買い取り、解放した」


ガーメリア 「金貨一万枚?! それは高くないか?」


リュー 「奴隷商に足元を見られてな、二人を買い戻すためには仕方なかったんだよ」


ガーメリア 「そう、か……すまない……その、そう、ダヤンの領主がそんな奴だと知っていればな。知らなかったんだから仕方がないじゃないか」


リュー 「なんだその言い草は……」


その言葉にイラッとしたリューが再びデコピンでガーメリアの額に叩き込む。再び地面に転がるガーメリア。


ガーメリア 「っつ~~~! お前、どんだけ馬鹿力だ…」


今回は咄嗟に物理耐性のある魔法障壁を張ったガーメリアであった。デコピンを弾き返し、逆に痛がるリューを見てやるくらいのつもりだったのだが、リューは魔法障壁を解除した上でデコピンしたのだ。


ガーメリアは額の強烈な痛みに涙目になっている。


リュー 「それにしても……この国では子供を誘拐して奴隷として売るのをまるで国が推奨しているかのようだな?」


ドロテア 「それはどういう事だ?」


リュー 「奴隷商も、違法奴隷だと分かっていながら “知らないフリ” をしていれば問題ないという口ぶりだったぞ」


ガーメリア 「それは、たまたま悪質な奴隷商だっただけでは…」


リュー 「奴隷商は違法奴隷かどうか確認する義務はないと言っていたぞ、そんな法律はないから、誰もあえて調べる事はしないとな。


本当は怪しいと分かっていながらも、知らないていで商売する限りは罰せられる事はない、法律上そうなっているとはっきり言っていた。つまりこの国の法律は違法奴隷の売買を事実上認めているという事だ。


そんな状態を放置している、この国の王もろくでもないな」


ガーメリア 「きさま! 国王様を侮辱する気か?! 不敬罪で逮捕するぞ!」


リュー 「俺が言ったんじゃない、奴隷商がそう言っていたのだ。法律がおかしいのは国王が悪い。文句があるなら王に言え、とな。


だから、わざわざここ・・まで俺は乗り込んできたんだ。奴隷商に言われた通り、国王に文句を言うためにな。


というわけで、ドロテア。国王に会わせてくれ。確か国王に俺を紹介したいとか言ってたよな?」


ガーメリア 「キサマ、国王様に文句を言いに来ただと? 不敬にもほどがある! コイツの無礼な態度は以前から腹立たしかったが、もう許せん、今すぐここで成敗してくれる!」


ガーメリアの前に火球が数個浮きあがる。


ドロテア 「ガーメリア! やめんか!」


ガーメリア 「止めないで下さい! なんで先生はこんな奴を評価するんですか? こんなヤツより私のほうが……」


ドロテア 「いや、どうせお前では通用しないと思うぞ?」


ガーメリア 「そんな……!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ガーメリア 「いいだろう、本気を見せてやる……!」


乞うご期待!



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