第285話 振りかよっ!
ガーメリア 「そんな、先生……
……
…いいでしょう。
今度は一切手加減無用だ、本気の魔法を見せてやる……!」
ガーメリアの目が座り、周囲にはさらに多くの火球が浮かび上がり、それらが一つに集合していく。どんどん巨大に膨れ上がる火球。
だが、今度はその火球が小さく圧縮されはじめた。サイズは小さくなったが、熱量はさらに高まっているようだ。
火球を使う魔法使いは多い。巨大な火球を生み出す者も居たが、このように圧縮して小さいが超高熱になる火球というのはリューも初めて見た。
ガーメリアの手のひらの上に、数センチ大の “太陽” が浮かんでいる。眩しく光り輝く球は眩しくて直視できないいほどであり、同時に恐ろしい熱を放っている。
リューは(もちろん子供達も)次元障壁を張って熱を遮断しているので熱くはないが。
見れば、ドロテアも魔法障壁で熱を遮断している。
ガーメリア 「ふふふふ、どうだ? 負けを認めて謝罪して城を出ていけ、そうすれば命は助けてやるぞ?」
その太陽が発する熱量で、周囲の木が今にも燃え出しそうである。
ドロテア 「ガーメリア、いい加減にしなさい! 私の言うことがきけないのか?」
気がつけば、ドロテアがガーメリアの頭にゲンコツを落としていた。
そのショックでか、ガーメリアの太陽は光を失い消えてしまった。
ガーメリア 「はっ……、す、すみません、つい興奮してしまいました…」
ドロテア 「未熟だな、お前は魔法の才能はあるのだが、それを制御する心を鍛えろといつも言っているだろう?」
ガーメリア 「すみません……」
ドロテア 「リュー、すまない。少し待っていてくれ、国王に話をつけてくる。さすがにいきなり押しかけるわけにもいかん、国王も予定の調整が必要だ。
ガーメリアも大人しく待っていろ、リューに突っかかるなよ? いいか? 絶対に突っかかるなよ?」
リュー 「おい? まさかそれは…… “振り” じゃないよな……?」
ガーメリア 「ドロテア様! こんな奴を国王様に会わせる必要はありません! お待ち下さい、奴隷の件は私が……
ああ、行ってしまった……
…だが丁度いいな?
ドロテア様が戻ってくる前に、私が身の程を思い知らせて追い返してしまおう。そうすれば国王様を煩わせる事もない」
リュー 「大人しく待ってろと言われただろ……
てかやっぱりあれは “振り” だったのか?」
ガーメリア 「問答無用!」
再び魔法でリューを攻撃しようとするガーメリア。再び火球が浮かびあがる。しかし、その火球はすぐにしぼんで消えてしまい、それ以上魔法は発動しなくなってしまった。
ガーメリア 「な……一体何が起こっているというのだ? どうして魔法が発動しない?」
リュー 「俺が無効化しているのだよ」
ガーメリア 「馬鹿な! 魔法を無効化する能力など、聞いた事がない!」
リュー 「現に魔法が使えなくなっているだろう? 確か前にも一度見せた事があったはずだが覚えてなかったか?」
ガーメリア 「そう言えば、以前盗賊の村で魔法が消えてしまった事があったが……
そんな、馬鹿な!
魔法王国において、魔法を無効化する能力など、国をひっくり返すようなとんでもない能力だぞ。そんなの……
そんなの認められるか!」
魔法を発動しようと足掻くガーメリア。しかし一向に魔法は発動しない。だが、そのうちふと何か気づいたようで、ニヤリと笑った。
ガーメリア 「…ふふん、どうやらお前のその能力、なかなか驚異的だが―――弱点をみつけたぞ? 私ってば天才だなやはり!」
リュー 「?」
ガーメリア 「どうやらお前のその能力では、体内の魔法までは無効化できない。どうだ、図星だろう?!
魔法王国は身体強化の魔法にも優れてるぞ? 篤と味あわせてやろう。先程はずいぶんふざけた
リュー 「魔法を身体強化に回しての肉弾戦なら勝てると踏んだか? じゃぁ試してみたらいい」
ガーメリアは魔法によって強化された身体能力で、目にも留まらぬ速さでリューに近づきパンチを繰り出してきた。パンチが額を狙っているのは先程のデコピンのお返しなのだろう。
だが、あっさりとそれを躱すリュー。
躱されると思っていなかったガーメリアは内心驚いていたが、更に身体強化を重ね掛けしながら続けて襲いかかる。しかしその攻撃もすべて空を切るだけであった。
ガーメリア 「はぁっ、くそ。貴様、逃げ足だけは速いようだな」
リュー 「逃げ足だけないぞ? じゃぁ今度はこっちから攻撃する番な」
ガーメリアが慌てて身構える。
ガーメリア 「ふん、攻撃の瞬間が一番隙ができると先生も言っていた。カウンターで今度こそ打ちのめしてやる!」
微かに微笑んだリューは、右の拳を分かりやすくオーバーに引いて見せる。相手に次の攻撃を読まれる、いわゆるテレホンパンチであるが……そこから一気に距離を詰め放たれた攻撃は文字通り “目にも留まらぬ” 速さで、ガーメリアはピクリとも動けなかった。
リューのパンチがガーメリアの額に突き刺さり、ガーメリアは吹き飛び地面に転がる。今度はデコピンではなく拳を叩き込んだが、身体強化している状態なので大丈夫だろう。
ガーメリア 「ガ……くっ、馬鹿な……まったく反応できなかった……」
弾丸のような速度の見えないパンチであったが、ガーメリアは打撲だけで済んだようだ。さらに受けたダメージも治癒魔法を即座に掛けて回復してしまう。身体強化に魔法障壁、治癒魔法。この世界の魔法、なかなかチートである。(それらを同時に高度なレベルで使いこなせるのはさすが宮廷魔道士というところなのだが。)
だが……
よろよろと立上がるガーメリアにリューが言った。
リュー 「実は、身体強化も無効化できるんだけどな」
リューがそう言った途端、ガーメリアの身体強化の魔法が解除された。さらに、ガーメリアの体内の魔力が唐突に消失してしまう。
急激に魔力がなくなった事で、ガーメリアは魔力切れの症状を起こしてバッタリと倒れてしまった。
ガーメリア 「き……さま、一体…何者……だ……」
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次回予告
リュー 「貴族や王族だからって、何故偉いんだ?」
乞うご期待!
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