第286話 そして謁見の間へ 国王と対峙するリュー

リューは地面に転がるガーメリアを蹴りあげようとした。


魔力を失い魔法による防御を一切失った状態のガーメリアはただのか弱い人間である。その状態でリューの力で蹴り回されたらさすがに酷いことになってしまいかねないが――まぁ、どうなってもリューならば元に戻してしまえるので、そこはあまり気にしてはいなかったのだが……


ふと、子供達が見ている事を思い出し、それはやめたのだった。お仕置きが足りない気もするが仕方がない、さすがにそんな暴力的な光景は子供に見せるものでもないだろう。


そこにドロテアが戻ってきた。


ドロテア 「やれやれ、大人しく待っていろと言ったのに、リュー殿にちょっかいを出して〆られてしまったのか」


リュー 「けしかけてなかったか?」


ドロテア 「?」


この世界には「やるなよやるなよ?」=「やれ」というような “振り” などはなく、ドロテアは本当にやるなと言っただけだったようだ。


ガーメリアは、リューがすぐに魔力分解の効果を解除したので、徐々に魔力が戻ってきて、すぐに起き上がる事ができるようになっていた。ドロテアに才能があると言われるだけあって、魔力の回復力も大したものであるようだ、さすが、四天王というところか。(もしかしたら魔力回復を補助する魔道具などを身に着けているのかも知れないが。)


ドロテア 「リュー、エドワード王が是非お会いしたいと言っている。来てくれるか」


黙って頷き、ドロテアについて行くリュー。


ガーメリア 「くっ……お待ちを……私も……」


ガーメリアもヨロヨロと立ち上がり、後を追った。



   *  *  *  *



謁見の間。


部屋に入る前に、衛兵から武装解除を求められたが、元々リューは外から見て分かるような武器を装備していない。


すべての武器は亜空間に収納されていて、いつでも瞬時に取り出せるのであるから、身体に装備しておく必要はないからである。防具にしても、次元障壁の鎧を常時纏っているので必要ない。


収納内にどんな武器があろうとも、亜空間は術者本人がその都度作り出す、次元のズレた・・・空間であり、他人はその空間がどこにあるかも分からないので、チェックしようもない。


ただ、ガレリアではあまり武器のチェックは厳しくはない。なぜなら、魔法王国では強力な攻撃魔法を使える人間が多いので、武器がなくとも関係ないからである。それよりも、魔法に対する防御のほうが重要となるのだ。


謁見の間の玉座の周囲には多重の魔法障壁が張られている。また訪問者の立つ場所にも、魔法を封じる術式や魔道具が多重に設置されている。


部屋に入り、前に進んだリューは、玉座に座る王の前に立った。


宰相 「……」


リュー 「……」


宰相 「……オホン!」


リュー 「…?」


宰相 「王の御前であるぞ、跪かぬか!」


玉座の横、一段下に立っていた宰相が苛立った様子で言う。


しかし、それを聞いても一向にリューが膝を付く様子はなく、涼しい顔で立っている。


それを見て、壁側に控えている騎士達に緊張感が走る。騎士達は武器の柄に手を置き、いつでも動けるよう身構える。


リュー 「俺はこの国の国民ではないからな」


その場の空気も意に介さず、リューが喋り始めた。


リュー 「以前、他の国で、跪くのは王の臣下である事を認めた事になると言われたのでな。俺は王族や貴族の前で安易に跪かない事にしたのだ」


宰相 「そういう問題ではない。たかが平民の冒険者風情が、どこの国の人間だろうと、王族の前では敬意を払うのは当然であろうが!」


だがリューはそれを聞いて不思議そうな顔をした。


リュー 「…何故だ?」


宰相 「はあ?!」


リュー 「何故、平民は、王族に敬意を払わねばならないのだ?」


宰相 「な、何を言っておる! 貴族は平民より偉いからに決まっておろうが! 王族は貴族の中でも特に偉いのだ、生まれつき、人間としての格が違うのだよ」


王 「宰相、めよ」


宰相 「ですが!」


リュー 「まるで子供の言い分だな。ならば聞こう、俺が実は自分は王より偉いと言ったらどうする? 例えば俺が、別の国の、あるいは別の種族の王族であったとしたら? 人間の王は何故俺に跪かないのだ?」


宰相 「何を?! 下賤の者がいくら自分は偉いと自称したところで、偉いわけはないわ! 身分というのは生まれつき決まっておるのだ!」


リュー 「俺に言わせれば、人間の王族だとて、勝手に偉いと自称しているだけにしか思えんのだがな?」


宰相 「きっ、きさまぁ……いい加減にするがよい! その気になれば、不敬罪でこの場で処刑する事も可能なのだぞ? それだけの権力ちからがあるから王なのだ。殺されたくなければ跪くが良い!」


リュー 「ふん、力があれば偉いのか? なら、やはり俺のほうが偉いな。言っておくが、この国の軍隊を総動員しても俺のほうが強い。気をつけろ、俺がその気になれば貴族・王族の命など簡単に刈り取れるぞ?」


宰相 「愚かな、気づいておらんようだな。お前が立っている場所には、お前を封じ、捕らえるための仕掛けがしてあるのだぞ? ドロテアから強力な魔法を使うという報告は受けている。だが、その魔法陣の中に居る限り、魔法は一切使えん。お前はただの無力な平民に過ぎん」


リュー 「へぇ。試してみようか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー 「悪かった、やめてくれ」


乞うご期待!



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