第103話 バット、土下座で謝る
リューの手にはいつのまにか魔剣が握られていた。
バット 「どういうつもりだ!」
リュー 「どうって、言っても理解しない、一度負けたくらいでは諦めが悪い、そんな奴が多すぎるのでな。俺を捕らえるのは無理だって理解してもらえるよう、納得するまで徹底的に相手をしてやる事にしたんだ。雷王達もそうして納得してもらった」
(なるほど、 「陽炎の烈傑」と 「闇夜の風」の連中が簡単に諦めて帰っていったのはそういうわけであったか……)
バット 「なるほど……だが、自信過剰じゃないか? 俺が勝つ可能性だってあるだろう?」
リュー 「まぁ、可能性はゼロではないがな。ところでコレ、なかなか面白い弓だな」
気がつけば、リューの手の中にバットが持っていたはずの弓が握られていた。
バット 「あ!! いつのまに!! 返せ!!」
リュー 「返せと言われて返すと思うのか?」
バット 「卑怯者!」
リュー 「遠く離れた場所から姿も見せず狙撃するのは卑怯とは言わないのか? 自分勝手な奴が多すぎて、卑怯ってどういう意味だったか、この世界に来てから分からなくなったぞ…」
バットは何も言わずに悔しそうな顔をしている。実は魔弓を失えば、バットのSランクの実力は維持できないのだ。
リュー 「なんてな、ほれ、返してやろう。そんな弓など俺にとっては驚異でもなんでもないからな」
弓をほうり投げて返すリュー。慌てて受け取って、内心ほっとしたバット。
リュー 「だが、その弓はなかなか面白いな。いろいろな能力もあるようだ。矢を誘導してコースを変えたり、貫通と防御無効もあるのか」
バット 「…お前は【鑑定】の能力も持っているのか?」
リュー 「似たような感じの事はできる。そうだな、貫通と防御無効を試してみたい、受け止めるから、もう一度
バット 「正気か? この弓で放たれた矢はどんなものでも貫く力があるんだぞ? どれだけ防御に自信があっても~」
リュー 「言ったろ? 俺にとってはそんな弓など驚異でもなんでもないって」
バット 「…その身で受けてみなければ理解できないか。自信過剰とはお前の事だ」
バットが弓を構え、弦を引き絞る。すると、弓に矢が形作られた。弦を引くだけで射手の魔力を消費して矢を生成するのである。リューが引いても矢が生成されなかったのは、使い方を知らなかったからか、あるいは魔力ゼロのせいであったか。
バットは【絶対貫通】【防御無効】【麻痺】を矢に付与し、リューの肩口を狙い、放つ。
だが、矢はリューの身体の少し手前で、リューが張った次元障壁に阻まれて弾かれてしまった。
バット 「馬鹿な……魔法障壁も無効にして貫く事ができるはずなのに……」
リュー 「やはり、次元障壁は鉄壁だな」
悔しそうなバットは再び矢を放つ。今度は一本の矢放たれた瞬間、小さな百本の矢に分裂して襲いかかってきたが、それもすべて障壁に弾かれてしまう。
バット 「これならどうだ!」
リュー 「誘導弾か」
今度の矢は五本に分かれ、それぞれ異なる方向へ飛んでいき、ターンして戻ってきてリューの左右・後ろ・上から襲いかかってきた。障壁は前面だけ、背後や側面にはない可能性を考えたのであるが……、すべての矢が障壁に阻まれリューの身体には一本も到達できなかった。
リュー 「さて、そろそろいいかな。じっくり相手してやりたいところだが、ぼちぼち王都に行きたいのでな」
バット 「王都に?」
リュー 「お仕置きタイムだ」
リューが魔剣を構え、殺気を放つ。
バットは慌てて飛び退き、一目散に逃亡を開始した。
【高速移動】のスキルを持つバットの逃げ足は速い。あっというまに遠くに離れながら、時折矢を射てくるが、今度は先端になにやら煙幕弾が着けられているようで、あっという間にリューの周りの見通しが悪くなる。
だが、どれだけ足が速かろうと、転移より早く移動できるわけもなく、また煙幕もリューの神眼には無意味である。
バットの走る行く先を塞ぐようににリューが転移で現れる。
だが、リューが安易に振った魔剣は空振りに終わる。敵もさるもの、リューが振る剣より速く、バットは方向転換して逃げたのだ。
バットは不得手な接近戦をフットワークで補うスタイルを確立していた。その俊足で危機を回避、脱出した経験は数知れない。
その反射神経の良さと速度にリューは関心しながらも、徐々に【加速】を強めていく。
逃げるバット、その前に現れては空振りを繰り返すリュー。しかし、リューの速度が徐々に上がっていき、ついにリューの魔剣がバットを捉えた。
……捉えたかに見えたが、バットの速度がわずかに上回り、間一髪、回避に成功していた。かろうじて肉を斬られる事は回避できたバットだったが、しかし……
リューの剣はバットの持っていた弓を両断してしまっていたのだった……。
リュー 「あ……ごめん……」
リューにとっては、少しもったいない事をしたという程度であるが、しかし、バットにとってはそうではない。
弓を破壊されてしまった事に気づいたバット。走る速度は見る見る落ちていき、ついに立ち止まりガタガタと震えだした。
「お……兄ちゃん達の形見が……うわあぁぁぁぁぁ!」
大号泣である。
よく見ると涙だけでなく小便まで漏らしている。
ドン引きして固まってしまうリューであった。
* * * *
バットはしばらくして泣き止んだが、今度は座り込んで動かなくなってしまった。
リューが話しかけても反応がない。
弓が壊れてしまった事で、すっかり心が折れてしまった様子のバット。
リュー 「ちょっと意図してた形とは違うが、心を折るという目的は成功したか」
だが、いつまでも廃人のように無反応なバットを放置しておくのも何となく気が引け、仕方なくリューは再び手を翳した。
時を戻す。
ただし、今度は相手の身体ではなく弓の時間を巻き戻して、壊れる前の状態に戻してみる。
試した事はなかったが、生物が巻き戻せるのだから、壊れたものだって戻せるはず。
狙い通り、弓は壊れる前の状態に戻った。
元通りの形に戻った弓を見て、バットの瞳に生気が戻ってきた。
バット 「あ……れ……弓? 治ったの?」
リュー 「ああ、元通りになったろ」
バット 「もと、どり…?」
よかった、良かった、と、また泣き始めてしまったバット。今度は号泣ではなく静かな涙であったが。
だが、どうも先程から違和感を感じたリュー。
リュー 「お前……もしかして、女なのか?」
しかも、帽子で隠れていたので分かりにくかったが、よく見たら耳が尖っている。
リュー 「しかもエルフ!!」
バット 「あ……バレちゃった…」
すっかり騙されていた。
どうやら外見を変える魔法を使っていたらしい。今は魔法が解けて、女性らしい姿が見えるようになったのだ。
あらためてエルフの少女はリューに向き直ると言った。
「ごめんなさい、私の負けです。もう二度とアナタを襲ったりしません、約束します。だから許してクダサイ……」
エルフの少女は地面に手をつき頭を下げた。
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
バットの正体 そして 王都の冒険者ギルドへ
乞うご期待!
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