第102話 Sランク弓術士、弓を奪われる
後ろから襲ってきた矢を躱したリュー。
すぐに矢が飛んできた方向を振り返ったが、しかし、射手の姿は見えなかった。
神眼を発動して遠方まで確認したが、そちらの方向には誰も居ない。
バットの居場所を神眼で確認してみたが、バットは変わらずそこに居て移動していないようだ。
わざわざ街道を歩いているのは、バットから何らかアクションがあると予想したからである。明確な敵意を感じ取っているので、ないはずはないだろうとは思っていたが、もしないならば、リューのほうから近づいて詰めるつもりであった。ただそうなると、さすがに 「敵意」だけでは手を出すわけにもいかない。実際に攻撃を受けてから反撃したいわけである。
しかし、先程の矢はバットの居る場所とは違う方向から矢が飛んできた。バットではない別の攻撃者が居るのか? しかし、神眼でいくらサーチしても誰も発見できない。
そうこうしていると、第二波の矢が飛んできた。先程飛んできた矢とは違う方向からである。さらに第三波。これもまた、異なる方向からであった。
バットが転移を使って移動しながら攻撃しているのか? と一瞬思ったが、やはりバットの位置は変わっていない。しかも、矢は弾道軌道ではなく、低空を曲がりながら飛んできていたのを三射目の時に確認していた。
リュー 「誘導弾か……」
リューは地球にあった巡航ミサイルを思い出していた。なるほど、これがSランクの能力か、と関心するリューであった。
種が分かったところで、リューは転移でバットの背後に移動した。数キロ離れていようと、リューにとっては無意味である。
完全に油断していたバット。
しかしそこはさすがSランクなのであろう、リューの接近に気づいた瞬間、振り返ると同時に矢を放った。しかも同時に矢が六本である。どうやったのか分からない、リューには神業に思えた。
バットはさらに逃走しながら無数の矢を放ち続ける。その連射の速さはまるでマシンガン、神業級である。
しかも、逃亡する足がなんとも速い。【高速移動】のスキルでも持っているのであろう、無数の矢で弾幕を張りながら、あれよあれよと遠ざかっていく。
高速連射と高速の逃げ足、これらは、接近戦が得意ではないバットが編み出した戦法や技術なのであった。
リューは向かってくる矢をすべて亜空間に収納してしまう事にした。自分を狙ってくるのだから、自分の前に亜空間の入口を開けておけば矢は勝手に入っていく。狙いが外れた矢はそのまま放置した。
だが、外れたと思った矢がUターンして、背後からリューを襲う。
しかしもちろん、それらの攻撃も予知しており、全て収納してしまう。
このまま収納し続けて矢が尽きるのを待ってもいいかと思ったリューだったが、いくら待ってもバットの矢は尽きる事はなかった。
ふと見ると、逸れて地面に落ちた矢が、一定時間経つと消えていく。どうやら物質の矢ではなく、魔力で作った矢のようである。
つまり、魔力が切れるまで矢が切れる事はないという事か。
バットはその間にもどんどん離れていく。どれだけ離れようとリューから逃げられるわけはないのだが……、ふと、リューは少し意地の悪い手を思いついた。
リューが手を翳すと、バットが持っていた弓が魔法陣に包まれ、リューの手に移動してしまった。
バット 「な……!」
自分の最大の武器である弓を取り上げられれてしまったバット。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、ふと見れば、リューの手に魔隼弓が握られている。
魔隼弓はバットにとっての命である。仲間たちの形見であり、Sランクとして活躍するための必須の武器なのだ。
バット 「貴様っ! 返せ~~~!!」
バットは逃げるのを止め、高速でリューに向かって走ってきた。短剣を抜きリューに飛びかかるバット。
だが、バットの弓の腕は超一流であるが、剣などによる接近戦はそれほど得意とは言えない。だが、なんとしても弓を取り返す必要があるバットは必死である。
バットにとって幸いだったのは、バットの切り札が既に放たれていた事である。
バットは無数の矢を放ちながら、天空に向かっても矢を射ていたのだ。
超高高度から落ちてくる矢で相手の死角を突く、【ロフテッド】というスキルである。
既に放たれた矢はクルーズのスキルで制御可能である。これを使ってリューの頭上へと矢を誘導しながら、リューの注意を上に向けさせないように剣で攻撃を仕掛ける。この攻撃を防いだモノは、人間でも魔獣でも過去に居ない。ドラゴンを倒したのもこの技であった。
だが……
危険予知があるリューには不意打ちは効かない。
頭上から襲ってくる矢に気づいていたリューは、その矢が自分に当たる瞬間に、矢を転移でバットの上に移動させた。
小さな魔法陣がリューの頭上とバットの頭上に浮かぶ。そして、リューの頭上の魔法陣に飛び込んだ矢は、即座にバットの頭上の魔法陣から飛び出す。
矢はバットの肩に当たり骨を砕いた。
ロフテッドで射たれた矢は、落下速度を利用して非常に大きな破壊力を持たせる事が可能であるのだが、リューを殺さないよう鏃を丸く柔らかい素材に変え、速度も押さえていたため、骨折程度で済んだのであるが。
矢を受けたバットは痛みに呻き、直後、そのまま脱力して崩れ落ちていった。矢に、
* * * *
バットは動けないようなのでとりあえず放置して、リューは手に入れた弓を【鑑定】してみた。
なるほど、先程の誘導攻撃はこの弓に付与された能力であるらしい。面白い武器だ。貰ったら怒るだろうか?
リューは弓を構えて弦を引いたりしてみるが、矢がないので撃つ事はできない。そもそも、リューは弓など使った事がないので、矢があってもおそらくまとも射る事はできなかったであろうが。
自分の大事な弓をそうやって弄んでいるリューを、親の敵でも見るような目つきでみつめるバット。
バット 「……えせ…」
リュー 「?」
バット 「か…えせ……!」
リューは弓の観察を一通り終えたので、例によってバットの身体の時間を巻き戻してやった。急に身体が動くようになった事に驚いたバットであったが、すぐさまリューに飛びかかってきた。
バット 「返せっ!」
転移を使ってバットの接近を躱すリュー。
リュー 「これ? 大事なものなのか?」
バット 「俺の命だ!」
リュー 「そうか。なかなか面白い弓だな。俺が持ってても使えないから返してやろう」
そう言うと、リューは弓をバットに向かって放り投げた。
あっさり弓が帰ってきた事に面食らったのか、弓を受け取ったバットは一瞬動きが止まる。よく考えたら、先ほど受けた矢傷も治っている。おそらくリューが治したのだ。
どういうつもりなのかバットが考えていると、リューが言った。
「第二ラウンドを始めようか」
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次回予告
座り込んで泣きじゃくるSランク冒険者
乞うご期待!
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