第498話 アルバ再び登場

リュー達は女子寮の応接室へ到着した。女子寮には男性は立入禁止だが、例外的に来客対応用の部屋が用意してあるのだ。


ベアトリーチェ 「それで、リュージーン様は…」


リュー 「リューでいい」


ベアトリーチェ 「リュー様は…」


リュー 「様もいらない」


ベアトリーチェ 「ありがとう、では私のこともリーチェとお呼び下さい。それで、リューは……、どんな女性が好みですか?」


リュー 「依頼の話をしにきたはずだが?」


ベアトリーチェ 「まぁまぁ、まずは雑談などして打ち解けてからのほうがよろしいでしょう。で? どうなんですか?」


リュー 「…難しい問題だな。正直、あまり考えた事がない」


ヘレン 「まさか、女性に興味がないとか?!」


リュー 「言っとくが男にも興味はないぞ」


ベアトリーチェ 「では、私をどう思いますか?」


マグダレイア 「ちょっ、リーチェ! まさか……?」


ベアトリーチェ 「ふふふ、どうかしらね?」


マグダレイア 「ちょ、リーチェ!」


ベアトリーチェ 「ねぇ、リュー、レイアは美人だと思わない?」


リュー 「んーまぁ、一般的に見て、かなりの美形と言えるんじゃないか?」


ベアトリーチェ 「リューは美人はお嫌い?」


リュー 「俺は外見では判断しない」


ベアトリーチェ 「重視するのは人間性、だそうよ、レイア。なかなか手強そうね」


リュー 「ああ、ひとつあるな」


ベアトリーチェ 「?」


リュー 「感情的な人間あまり好きじゃないな。常に冷静な理性的な人間が好きだ。特に、証拠もなしに人を断罪し、問答無用で攻撃するような奴とは、友達にもなりたいとは思わないかな」


ベアトリーチェ 「あらしつこい。結構根に持つタイプですわね」


マグダレイア 「…あうぅ……」


リューの言葉にレイアが死ぬほど落ち込んでいるのが分かった。演技ではないようだ。それを見て、ちょっとしつこかったかとリューも思った。


リュー 「例えば、竜人族だからとかそういう理由で、義務感で誰かと付き合うとか結婚するとか思ってるなら、俺は相手にする気はない。


…やっぱり、自分が愛した相手と結ばれるべきだろう? たとえ種族が違っていようともな。


逆に言えば、俺は種族に拘らず、愛があればいいと思っているぞ」


ベアトリーチェ 「あらぁ、意外とロマンチックなんですね、リューは」


リュー 「種族のためとかではなく、人として、尊敬しあい、慈しみ合える関係になれるのなら、それを排除する理由もないだろう。…レイアもそうすればいいんじゃないか?」


マグダレイア 「え、それはつまり……愛があれば、私とも可能性がある、と言う事ですね?」


リュー 「違う、そうじゃないっての。別に、俺じゃなくてもいいだろ? って話だ」


ベアトリーチェ 「“俺” じゃなくていいって事は、“俺” でも良いってこと、つまり可能性としては “俺” も含まれているって事よね?


良かったわね、レイア! 評価マイナスからのスタートだけど、逆に言えば、あとは登っていくだけって事よ! 頑張れ」


リューはやれやれと溜息をついた。


リュー 「それより、いい加減、仕事の話をしたいんだが? たしか、冤罪をかけられて婚約破棄されたから、無実を証明して欲しいとか?」


ベアトリーチェ 「ええ、それなんですが…


アルバ 「ちょっと! 何よその口の聞き方は?!」


突然扉が開いて、アルバが飛び込んで来たのだ。


アルバ 「扉の外でしばらく話を聞かせてもらったけど、あなた、口の聞き方がまったくなってないわね! あなた、身分は平民なんでしょう? 私達は貴族よ? リーチェ様は貴族の中でも上位の伯爵令嬢なのよ? 地べたに頭を擦り付けた姿勢で話すのが礼儀ってもんでしょうが!」


ベアトリーチェ 「アルバ……いきなり戻ってきたわね」


ヘレン 「よく私達がここに居るって分かったわね」


アルバ 「私はレイア様のいる場所が匂いで分かるのよ!」


マグダレイア 「うわさすがに引くわそれは…」


リュー 「ああ、悪いな、俺は敬語が使えない呪いに掛かってるんだ。冒険者でもあるしな。言葉遣いはあきらめてくれると助かる」


アルバ 「そんな呪い、聞いたことないわ!」


リュー 「お前は世界のすべての事柄を知っているのか?」


アルバ 「っ、口は達者なようね。でも、敬語が使えなくても頭を下げる事はできるでしょう? さぁ、両手を床について挨拶なさい!」


リュー 「悪いがそれも断る。昔、とある国の王族に、膝をついて挨拶したんだが……」


ベアトリーチェ 「?」


リュー 「単なる礼儀のつもりだったんだがな。だが、その態度は臣下になるという意思表示になると言われてな。違うなら簡単にそんな態度を取るなと窘められたんだ。以来、俺は簡単に跪く事はやめたんだ。俺は誰の臣下にもなった覚えはないからな」


アルバ 「そ、そんなの単なる礼儀に決まってるでしょ! その王族が頭おかしいのよ! だいたい、この国の国民なら、この国の貴族に礼を尽くすのは当然でしょう!」


リュー 「俺は旅の途中にたまたまこの国を訪れただけだ。この国の国民になった覚えもない。国民として国から守ってもらおうとは思っていないし」


それはもはや屁理屈であったのだが。リューはこの国で家を買い、また王からも庇護を受けているような状況なのだから。


ヘレン 「リューは、王族と交流があるのですか?」


リュー 「ああ、冒険者してる時、いくつかの国の王族と関わる機会があってな。この国の王様とも知り合いだぞ」


アルバ 「ばっ、何言ってんの?! ただの平民が王族と知り合いとか! ましてやこの国の王様と知り合いとか、ホラ吹くのにもほどがあるわ! リーチェ様! こいつはやっぱり信用できない! 詐欺師ですよ詐欺師!」


ベアトリーチェ 「リューが王族と交流があるのは本当よ、義理父様おとうさまから聞いているわ」


アルバ 「そんな……でもっ…!」


ベアトリーチェ 「アルバ、いい加減にしなさい! アナタとは、後でじっくりと話があります。今のような状態では、従者の契約も解除になりますよ? それどころか、嘘をついて無実の人をレイプ犯に貶めた行為は、処罰対象にもなります。覚悟しておきなさい?」


アルバ 「…そんな……それはどうか、お許し下さい!」


急に顔色が悪くなるアルバ。


ベアトリーチェ 「あなたの話は後です、クビになりたくなかったら、下がって大人しくしていなさい」


ここまでのアルバの様子ではもう少し食い下がるかと思ったが、クビという言葉が聞いたのか、すごすごとアルバは壁際に下がた。


ベアトリーチェ 「それで、依頼の話に戻りますが…」


リュー 「ああ、なかなか話が進まないが…あんたの冤罪を晴らせばいいのか? 婚約者の名前は?」


ベアトリーチェ 「ああ、私ではありません、婚約破棄されたのは知り合いの男性ですわ」


リュー 「あ? …ああそう言えば、ユキーデス伯爵も、なんかそんなような事、言ってたような気もする、かな…?」


ヘレン 「婚約破棄されたのはリード男爵子息のジャカールよ」


ベアトリーチェ 「ヘレンの幼馴染なんですよ」


リュー 「ほう?」


ヘレン 「そして、婚約破棄を宣言した相手というのが、エスピリオン公爵令嬢のレイカ様という方です」


リュー 「レイカ、どっかで聞いたような……あ、あの時の女か」


ヘレン 「レイカ様をご存知なので?」


リュー 「ああ、この間しょくど…」


アルバ 「やっぱり詐欺師ですよコイツ! あのプライドの高い公爵令嬢のレイカ様とただの平民が知り合いだとか! 嘘に決まってます! 詐欺師っていうのは、なんでも話を合わせて上手く言うんですよ! 間違いない!」


ヘレン 「アルバ……黙っていなさいと言ったはずですよ?


……本当に、一体どうしたっていうの? 以前のあなたはもっと物静かで聡明だったじゃない……最近のアナタは変よ?」


アルバ 「私は……リーチェ様におかしな者を近づけたくないだけです」


ヘレン 「あら、レイア様に近づけたくないの間違いじゃないの?」


アルバ 「うっ、うるさい!」


その時、応接室のドアがノックされた。


ベアトリーチェ 「誰かしら? どうぞ!」


ドアが開き、一人の騎士が入ってくる。


ベアトリーチェ 「あなたは?」


タロール 「突然失礼致します、私はタロールと申します」


現れたのは、失踪事件を捜査している警備隊の騎士、タロールであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


アルバ 「お巡りさんコイツです! コイツが、生徒たちの失踪事件の犯人に違いありませんわ!」


乞うご期待!



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