第499話 嘘泣きに騙される男登場

タロール 「お初にお目にかかります、バイロン男爵家の四男、タロールと申します。現在は警備隊に勤めております。アルバ様に呼ばれて来ました」


どうやらアルバはタロールを呼びに行っていたようだ。


タロール 「…ユキーデス伯爵令嬢のベアトリーチェ様ですね? それと、ミシア子爵令嬢のヘレン様。それと……?」


リュー 「リュージーンだ」


タロール 「お前が……アルバ様の話では、ただの平民だという事だったが」


リューを訝しげに見るタロール。平民にしては態度がふてぶてしい。だが、アルバの言う通り、犯罪者ならさもあらんというところかとタロールは思った。


    ・

    ・

    ・


ベアトリーチェに信じてもらえず、その場を飛び出したアルバは、学園内を捜査していたタロールを見つけ、コレ幸いと泣きついたのだ。


アルバはタロールの腕に抱きつき、リュージーンという生徒に暴行されたと泣きながら訴えた。アルバは、外見は清楚なお嬢様にしか見えない。そんな美少女が、涙ながらに被害を訴えるのだ。女性と親しく付き合った経験があまりないタロールはころっと騙されてしまったのだった。


    ・

    ・

    ・


タロール 「お前、話を聞かせてもらおうか! 一緒に来い!」


リュー 「一体なんだ、いきなり?」


タロール 「お前、アルバ様に乱暴したのだろう! 最近の生徒の失踪事件もお前が怪しいという話じゃないか!」


リュー 「やれやれ、まだ言ってるのか……だいたい数日前にこの街に来たばかりの俺が、何ヶ月も前から起きてる事件の犯人とかありえんだろう?」


タロール 「数日前? 嘘をいうな、じゃぁそれまではどこに居たというんだ?」


リュー 「王都に居た。なんならユキーデス伯爵に確認してくれてもいいぞ? 俺は伯爵の依頼でこの学園に来たんだ」


タロール 「伯爵の依頼…だと?」


ベアトリーチェ 「ええ、本当です」


タロール 「…伯爵から、何を頼まれたんだ?」


リュー 「そんな事言えるわけないだろう」


タロール 「やはり怪しいな」


リュー 「一応守秘義務ってやつがあるだろ。アンタだってそうだろ? 生徒でも教師でもない警備隊の騎士が、なんで学園の中に居るんだ? まぁ任務なんだろうが、その内容をほいほい人に話せないだろう?」


タロール 「それは……」


ベアトリーチェ 「失踪事件の捜査に来ていらっしゃるんですよね?」


ヘレン 「まぁ、バレバレですわよね」


タロール 「むむ…まぁ、そうなんですが」


ベアトリーチェ 「彼は事件とは無関係ですよ、婦女暴行もしていません、私が保証します」


タロール 「……だが、彼女アルバ様が嘘をついているとは、私には思えないのですが……」


アルバはいつの間にかタロールの後ろに移動して泣き真似をしている。清楚な美少女がヨヨヨと静かに涙を流している。一見すれば確かに誰でも騙されそうな絵面ではあった。男の前では弱い女を演じて素を見せないというタイプなのだ。


リュー 「ウソ泣きだろ、簡単に騙されるなよ……どこの世界でも愚かな男が多いのは仕方ないのか?」


タロール 「貴様、無礼であろうが! 相手は子爵令嬢だぞ」


ベアトリーチェ 「タロール様、学園の中では身分は関係なく平等という事になっています」


タロール 「…知っているが。私もこの学園の卒業生なのでな」


まぁ、そうでしたの、という顔をするベアトリーチェ。


タロール 「だが、俺は今は学園の生徒ではない。学園の生徒は、学園内では平等とは言え、外部の貴族に対してはそれなりの態度が必要じゃないか?」


リュー 「……さきほど、男爵家の四男だと言ったような気がしたんだが?」


タロール 「それがどうした?」


リュー 「男爵家の四男って事は、男爵の息子ではあるが、男爵ではないって事だよな? 貴族家の息子であっても立場上は平民と変わらないんじゃないのか?」


ヘレン 「ああ、それは言っちゃ行けないやつ……」


タロール 「貴族家の家族は貴族ではない、平民と同じだと言うか!」


リュー 「それに、男爵という爵位は一代限りで継承できないと聞いたぞ。つまり、どっちにしても男爵の息子は将来は平民になる立場じゃないのか? それなのに、貴族である事にプライドを持っていたら、生きづらくないか?」


ベアトリーチェ 「りゅ、リュー…言い過ぎでは……」


リュー 「ああ、すまん。実力もないのに貴族だからって偉そうにする奴が嫌いでな、つい嫌味を言ってしまった。悪かった、傷ついたなら謝る」


タロール 「……私は警備隊に所属している……」


リュー 「?」


タロール 「警備隊に所属した者は、全員準騎士の爵位を授けられる事になっている。つまり、騎士だ! 平民とは違う!」


リュー 「ああ、騎士様、いや準騎士様だってわけか。それは申し訳ない事を言ったな。実は俺は敬語が使えない呪いに掛かっているのだ、口が悪いのは気にしないでくれると助かる」


だが、タロールは腰の剣を抜き、リューに向けた。


タロール 「私は事件の捜査に派遣されている。失踪した生徒の中には俺の弟も含まれているのだ! 事件に関わりがある可能性があると聞いた以上、無視する事はできない。来てもらおうか!」


リュー 「…どこへ?」


タロール 「お前を事情聴取するための部屋にだよ」


リュー 「やれやれ、承諾したらどこに連れて行かれるのやら? だが断るよ。穏便に話を聞きたいというのなら、多少は付き合ってやってもいいが、高圧的に強制されるのではなぁ…」


タロール 「拒否するなら、力づくで連れて行く事になるが?」


リュー 「…できると思うのか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


言っておくが、私は剣術大会でいつも優勝していた。止めておいたほうがいいと思うぞ?


乞うご期待!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る