第500話 雑魚キャラの叫び

リュー 「祝、五百話!」


タロール 「なんだ急に?」


リュー 「いや、なんでもないデス……」






※前回からの続き

― ― ― ― ― ― ―

タロール 「おまえこそ、丸腰でどうする気だ? 手足の筋を切って動けないようにしてから取り調べしてもいいんだぞ? なに安心しろ、怪我はちゃんと治してやる、事情聴取が終わった後でな」


リュー 「やれやれ、それが街の治安を守る騎士様の言う事かね?」


ベアトリーチェ 「タロールさん! ここは学園内の女子寮ですよ、貴族家の令嬢が何人も居る室内で剣を抜くのはどうかと思いますが?」


タロール 「…これは申し訳ありません、たかが平民、素手でどうにかできなければいけませんね」


タロールは剣を収めたのだが……


タロール 「…! どこから!?」


ゆっくりと立ち上がったリューの手には、いつのまにか金属製の模擬剣が握られていたのだ。


だが、剣を収めたタロールを見て、リューも慌てて模擬剣を消した。


タロール 「お前……、平民のくせに収納の魔道具マジックバッグを持っているのか…俺だってまだ持ってないのに。というか、学園内で生徒が武器を持ち歩くのは禁止されているはずだが?」


リュー 「刃がついてない模擬剣だから問題ないだろう? というか、武器を持っていないと思って剣を抜いて威圧したのか、本当にしょうもない、騎士道に反する男のようだな」


タロール 「…うるさい。たとえ武器があったとしても、騎士に勝てると思ってるのか?」


リュー 「試してみたらどうだ? ここがまずいなら、別の場所に移動するか?」


タロール 「言っておくが、学園在学中に私は校内剣術大会でいつも優勝していた。止めておいたほうがいいと思うぞ?」


リュー 「やめておいたほうがいい、という言葉はそっくりお返ししようか。怪我しても俺は知らんぞ?」


そう言った後、リューが威圧を放つ。叫んではいないが、声を出さずともそれは竜の咆哮ドラゴンロアに匹敵するような威勢を放っていた。


タロール 「…くっ、お前…何者だ?! たかが生徒がこの威圧感、ますます怪しいやつ!」


リュー 「おっと、殺気を消して……と。剣は無心に振らないとな」


ふっとリューの威圧感が消える。その瞬間、硬直してしまっていたタロールの肉体が軽くなる。


タロール 「できたら生徒を傷つけたくはなかったが、どうにもお前は怪しすぎる!」


タロールが再び剣を抜いた。


ベアトリーチェ 「タロールさん!」


タロール 「…ここではまずい、表に出ろ……」


タロールはベアトリーチェに睨まれて剣を収め、外に出た。


結局、外でやると騒ぎになるということで、また、学校の訓練場に戻ってきたリューとタロール。


タロールも移動の間に頭が冷えたのか、さすがに真剣はやめて、訓練場に置いてある木剣を握った。


学生時代は剣術では負けなしだったタロールである、少し胸を貸してやろうという程度のつもりであった。


だが……


タロールが斬り掛かってくる。腕に自信があると言うだけあって、まぁまぁの太刀筋である。並の騎士の中では、というところだが。


タロールの剣はあっさりとリューに受け止められてしまう。木がぶつかり合ってカンと乾いた音が響く。


さらに数合、打ち合う二人。否、打ち込むタロールに対し、リューは受けに徹しているだけであった。


竜人の身体能力を持って、【剣聖】レイナードに始まり、二刀流の元Sランク冒険者イライラ、そして悠久の時をかけて剣技を磨いてきたランスロットに鍛えてもらってきたリューである。下級騎士の中で多少腕が立つ程度の人間では、もはや相手にならないのであった。


リューにとっては余裕で遊んでいるだけ。時空間に干渉するような奥の手スキルも使っていない、素の実力である。


だが、攻撃がすべて防がれてしまい、焦り始めるタロール。徐々に攻撃が荒くなっていく。


それを見て、リューが上から振り下ろされるタロールの剣を力任せに横薙ぎに払った。


パンと乾いた音がして、タロールの剣が折れる。

同時にリューの剣も折れていたが。


リュー 「俺が本気で振ると、木製の剣では持たないんだよな…だから、これを使ってる」


リューがマイ模擬剣を取り出して見せる。


タロール 「…その模擬剣、金属製か」


リュー 「ああ、この世で一番硬くて重い金属でできている。これでやってみるか? アンタはその腰に差している剣を使えばいい」


タロール 「…かなり重そうだが、そんなもの振り回せるのか? 重くなれば剣の取り回しが鈍るだけだぞ」


リュー 「そうか? ほれ」


リューが苦もなく剣を振りかぶり、タロールに向かってゆっくりと振り下ろしてみせた。慌てて剣を抜きそれを受け止めるタロールだったが、その重さに驚愕する。


タロールが剣を抜いたので、試合再開と判断し、リューが攻め始める。


リュー 「ほれほれほれ」


キンキンキンキン


連続でタロールに攻撃を仕掛けるリュー。徐々に攻撃の速度が上がっていき、受け止めるので精一杯になっていくタロール。


タロール 「…くそ、舐めるな! バイロン流剣術奥義、サザナミ!」


タロールはリューの剣を受け流すと同時に即座に反撃してきた。受け流しながら剣を引き、次の剣撃の準備を終え即座に反撃に移る、攻防一体の技のようだ。


リュー (似たような技を日本のネットチューブで見た事があるなぁ、確か柳生新陰流の技だったか?)


だが、リューを仕留めるのには拙い技術であった。リューは一歩引きながら攻撃を薙ぎ払う。狙ったのは再びタロールの剣である。強烈な打撃がタロールの剣の腹を襲う。するとタロールの剣はその衝撃に耐えきれず、パキンという音とともに折れてしまったのであった……。


タロール 「うお! 家を出る時に親父殿に貰った家宝の剣がぁっ…!」


森の中やダンジョンの中ならいざしらず、街の中、ましてや学校の中では、なるべく人を殺さないようにしたほうがいいかなぁと思っていたリューであるが、ムカつく奴には少々痛い目をみせてやりたいとも思う。そこでふと目をつけたのがタロールの高そうな剣であった。折ってやったらそうとう痛手なのではなかろうか? とリューは意地悪く思って狙ったのだが、どうやら狙いは当たったようだ。


つと、タロールの喉元にリューの剣が突きつけられる。


タロール 「くっ、バカな……在学中から一度も誰にも負けた事のない私が負けるなんて……」


リュー 「井の中の蛙ってやつだな。我流もいいが、もっといい師匠についたほうがいいぞ」


タロール 「…我流ではない、バイロン家の剣術だ。この剣術で親父殿は戦場で活躍してきたのだぞ」


リュー 「じゃぁお前の精進が足りなかったんだな」


タロール 「くっ……お、覚えておれ!」


タロールはそう叫ぶと走り去っていった。


アルバ 「あ、ちょっと! どこいくのよ!」


アルバもタロールを追いかけて立ち去った。もうベアトリーチェの従者をする気はなくなったんだろうか……? ふとリューがベアトリーチェを見ると、彼女もため息をついて首を振っていた。


ヘレン 「あら、戻ってきたようですよ…?」


見るとタロールが戻ってきて、折れた剣身を拾い上げると、また走り去っていった。


『このままでは済まさないからな!』


という捨て台詞を残して。


リュー 「雑魚キャラかよ……


…てか、あんな態度で、警備隊の騎士が務まるのか?」


ベアトリーチェ 「ちょっと不安ですね……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


捜査開始

あっさりと行方不明者を発見するリュー


乞うご期待!


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