第361話 グリンガル侯爵に会ってみた

グリンガル侯爵 「こんばかちんが! 相手は息子と街を救ってくれた恩人であると言ったであろうが! 丁重・・に招くようにと命じたはずじゃぞ!」


屋敷戻り、グリンガル侯爵にリュー達の無礼な態度について憤りながら報告したミージ子爵であったが、侯爵は同行した騎士にも事情を確認した後、逆にミージを叱りつけたのであった。


ミージ 「もっ、申し訳ありません、聖女とは言え相手は平民、お忙しい侯爵様を煩わせないように少しだけ急かしてしまいました…」


侯爵 「ふん、まぁ、侯爵に招待されたとあれば、喜んですぐに駆けつけるのが普通ではあるがな。しかしまぁ、相手は平民。多少礼儀に疎くても、目くじら立てるほど儂は狭量でもないつもりじゃ。して、いつ参ると申していた?」


ミージ 「え?」


侯爵 「聖女はいつなら来られると言っておったのじゃ?」


ミージ 「…聞いておりません。答えませんでした」


侯爵 「答えなかった? 本当か?」


侯爵はジロリとミージ子爵を睨んだ後、同行した騎士のほうに目線を送ると、騎士が答えた。


騎士 「ミージ子爵は答えを聞かずに拙速に飛び出てきてしまいましたので」


侯爵 「こんばかちんが……オリゴールがおらんから代わりに行かせてみれば、使いもまともにできんとはな」


ミージ 「す、すみません、すぐに聞いてまいります!」


侯爵 「もう良い、お前は行くな。カロン、お前が行って来い」


騎士(カロン) 「御意」





その日の夕方、再び騎士が宿を訪ねて来た。騎士カロンの態度は、ミージ子爵ほど上から目線でも強引でもなかった。(その態度は慇懃無礼ではあったのだが、自分が敬語を使わないリュージーンは、あまり人の態度や言葉遣いについては強く言える立場でもないので、あまり細かい事は気にしないようにしている。)


要件はもちろん、リュー達を、もとい、パラガンを救ってくれた “聖女” にグリンガル侯爵が礼を言いたいので、屋敷に招待したいという事である。


リューは、結局、その招待を受ける事にした。エド王やドロテア達と対立しているという反エド王派のトップだというグリンガル侯爵である。その顔を一度見ておくのも良いかと思ったのだ。


侯爵の招待は聖女二人、つまり、ヴェラとモリーという事なのだが、リューも一緒でなければ招待は受けないと言ったところ、カロンは渋々ながら了承した。


侯爵の予定も詰まっているため、後日となると再調整が必要になるのですぐに返事ができないという事だったが、今晩ならば侯爵は屋敷に居るというので、リューは早速今晩押しかける事にした。



   * * * * *



執事 「侯爵様、聖女様がお見えでございます」


侯爵 「おお、通せ」


執事 「応接間に待たせておりますが、執務室ここに通してしまって構わないのですか?」


侯爵 「ああ、悪いが儂も忙しいのでな。仕事をしながらでも構わんだろう?」


執事 「それが……おそらく護衛だと思いますが、冒険者風の男が一緒でして……。その者が一緒でなければ聖女二人は誰とも会わないと申しておりまして」


侯爵 「何? そうか構わん、男も一緒に通せ」


執事 「念の為、護衛の騎士を隣室に控えさせておきますので、何かあればいつでもお呼び下さい」


   ・

   ・

   ・


執事にグリンガル侯爵の執務室へと案内されたリュー達。


入室後、執事は退室せず、壁際に控えめに立つ。この執事、動きに隙がない。護衛も兼ねているのであろう。


侯爵 「そのほうらが聖女であるか? 仕事が忙しいのでな、こんな場所ですまんが」


一瞬、顔を見合わせたモリーとヴェラ。打ち合わせ通り、ヴェラが応対する。


ヴェラ 「お目にかかれて光栄です、グリンガル侯爵様。私達は【聖女】ではありませんが」


敬語が使えない事になっているリューは黙っているよう打ち合わせしてあった。


侯爵 「此度は、息子のジャスティンが世話になったようだな、命を救われたとか? 感謝する、この通りだ」


意外にも、侯爵は立ち上がり頭を下げた。貴族が、しかも王族を除く貴族の中では最高位となる侯爵が頭を下げるなど異例の事であるのだが。執事も少し驚いた顔をしている。


侯爵 「しかし、聖女ではないと? 非常に強力な治癒魔法が使えると聞いたが…、そのような者は、教会に聖女として囲われるのが普通ではないか?」


ヴェラ 「私は教会には所属しておりません。こちらのモリーも、シスターではありますが、聖女の認定は受けておりません」


侯爵 「ほう、高度な聖属性魔法を持ちながら教会とは無関係なのか、それは僥倖であるな。どうじゃ、そちらのシスターは難しいかもしれぬが―――お主、名はなんと?」


ヴェラ 「失礼いたしました、私はヴェラといいます。こちらに控えているのは弟のリューです」


侯爵 「ヴェラか。お主、儂のところで働かぬか? 高給高待遇を保証するぞ?」


ヴェラ 「遠慮しておきますわ」


即答するヴェラに執事の顔が引き攣った。


執事 「これ、無礼であるぞ! 閣下が雇ってくださるとおっしゃっているのだ、黙って受けるがよい」


この国では、平民が侯爵の申し出を断るなど通常は許されないのである。侯爵にそう言われたなら無理でもその命に従うのが当たり前なのである。


だが侯爵はあまり気にしていないようであった。


侯爵 「よい。無理は言うまい。なんでも、パラガンの街の流行病も解決する手段を教えてくれたというではないか。


最悪の場合、他の街に病が広がらぬように街全体を焼き払う事すら必要であったかも知れんのだ。我が領民の命の恩人でもあるのだ、感謝する。


褒美を与えねばならんな、何か欲しい物があれば言うが良い」


ヴェラ 「特に欲しいものはありません」


だが、そこにリューが口を挟んだ。


リュー 「いや! 治療費を払ってもらおうか」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


侯爵 「お前達、どう思った?」


乞うご期待!



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