第362話 金塊いっぱい貰ったよ

侯爵 「…ジャスティンの治療をした事か。それは対価を払うのは当然だな」


リュー 「それだけじゃない、街を救った件もある。ジャスティンが払うと言っていたのだ、父親の侯爵様なら払ってくれるだろう? 息子が書いた借用書もあるぞ」


リューはジャスティンが書いた借用書を取り出してヒラヒラとふって見せた。


執事 「客人とはいえ、言葉遣いに気をつけるがよい。本来ならば、平民が貴族の前で許可なく勝手に発言する事自体、処罰されて当然の行動なのだぞ?」


リュー 「ああ、すまんな、俺は敬語が使えない呪いに掛かってるんだ、言葉遣いは気にしないでくれると助かる」


執事 「そんな呪い、聞いた事ないわ」


侯爵 「ああ、構わん、平民の無作法をいちいち気にしていたらキリがないじゃろう。して、借用書と言ったか? ジャスティンが書いたのか? 見せてみろ」


侯爵に促され執事がリューから借用書を受け取り確認するが、内容を見て目を剥いた。


執事 「こっこんな! 気は確かか?!」


リュー 「ジャスティンの署名があるだろう?」


侯爵 「どうした、見せてみろ」


執事 「こんなバカげた金額、ボッタクリにも程がありましょう。ジャスティン様も何を考えているのか……」


執事がブツブツ言いながら侯爵のところへ持っていく。


侯爵 「……ほう、金貨一万五千枚か。ふっかけたな」


執事 「ジャスティン様の治療費だけならばこれほどの金額にはならんだろうが?」


リュー 「それでも格安設定なんだがな? あ、これ内訳書ね」


もう一枚、明細書を取り出して渡すリュー。


リュー 「色々正確な数字が分からんところもあるから、最低料金設定でざっくり計算してある」


内訳は


――――――――――――――

ジャスティン治療費:金貨百枚

ジャスティン除染費:金貨百枚

スラムの住人の治療費:合計金貨五百枚

(一人金貨一枚×五百人)

スラム全体の除染費:金貨五千枚

疫病の除染・根絶方法指導料:金貨一万枚

出張費:金貨十枚


小計:金貨一万五千七百十枚


出精値引:金貨七百十枚


合計:金貨一万五千枚

――――――――――――――


執事 「スラムの除染費? なんだそれは? それになんだこの、除染指導料というのは?」


リュー 「さっきも言ったろ? 疫病の元をスラムから消し去ってやった費用、そして、疫病の元を消す方法の指導料だ。今後、二度と疫病に悩まされることはなくなるんだ、破格だと思うが? 街ひとつを潰す可能性すらもあった事を考えれば、安すぎるくらいだろう?」


侯爵 「……確かにな。いいだろう、息子の恩人でもある事だ、払ってやろう。持って来い」


執事 「…御意」


   ・

   ・

   ・


目の前に積まれた金のインゴット


正直、それだけの金額を即時用意できると思わなかったのでリューも驚いた。さすがは侯爵であるというところか。


リュー 「まいどあり~。これで貸し借りなしって事で」


執事 「ちょっと低姿勢になったな…」


リューが借用書の返済確認蘭に魔力を流しながら署名をすると、借用書自体が魔法の炎によって燃え上がり消滅した。


侯爵 「ふん、金を貰って仕事をしただけだと言うのならば、儂は頭を下げ損であったか。まぁよい、また何かあった時には依頼を受けてくれるか?」


リュー 「話は聞きまっせ、その都度ご相談という事で」


侯爵 「金を払えば動いてくれるというのであれば、話が早い。困るのは、妙な信念を持っていて金で動かん連中だ」


リュー 「なんでも引き受けるとは言ってませんぜ旦那ぁ? 内容次第でんなぁ」


侯爵 「多少の無理は金を積み上げればなんとでもなるものだ」


リュー 「まぁ……人生の半分くらいの問題は金で解決できるからな」


侯爵 「半分どころか、ほとんど解決できるじゃろうさ。中途半端な金額だから駄目なのだ。膨大な財力があれば、不可能な事はほとんどなくなる」


リュー 「……だが、そのためには、金がいくらあっても足りなくなるんじゃないか?」


侯爵 「そうじゃ。だから、領地を広げる。足りない分は奪えばよいのだ。自国の利益のためには他国から奪う。そうやって奪い合って人間はやってきたのだ。それをエド王めが、戦争をしたくないなどと……」


リュー 「ああ、それそれ。噂で聞くところによると、侯爵サマは、エド王の事を嫌っているとか?」


侯爵 「別に好きでも嫌いでもないわ。だが、我が国が大きくなってきたのは、強大な力を持って周辺の国を併合してきたからだ。その結果として、国は豊かになり、ますます強大になってきたのだ。それを、戦いたくない、などと」


ヴェラ 「でも、戦争をすれば民が苦しむ事になるのでは?」


侯爵 「守るだけで良い、戦争はしたくないなどと甘い事を言っていれば、逆に他国から侵略される事になる。攻撃の姿勢を保つ事、それが国を守る事に繋がるというのに、それが分からんようでは困ると言っているのだ」


リュー 「他国の領土を奪ってきたのなら、その分、多くの恨みも買う事になるのではないか?」


侯爵 「恨みを抱くのはその土地を収めていた貴族だけだ。そんな連中も、我々に従ったほうが美味しい思いができるとなればすぐに手のひらを返す。平民は、それこそ上が誰であろうと関係ないものだ。弱い国で怯えながら暮らすより、強い国の一部になって繁栄していけるなら、文句などないのが民衆というものだ」


リュー 「中には絶対に靡かない者達もいるのでは?」


侯爵 「そういう連中は、根絶やしにしてしまえば良い事だ」


リュー 「世界征服でも目指してるって勢いだな。世界を統一して大帝国でも作る気か?」


侯爵 「分かっておるではないか。人間の国を統一して、一大帝国を作り上げる事こそ、先王陛下の夢だったのだ。それを、馬鹿息子が中止にすると言い出した。納得していない貴族ものは多い。エド王はいずれ……いやなんでもない。余計な事を喋りすぎたな。儂も忙しい、用が済んだのなら帰るがよい」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


何が正しいかは分からないさ


乞うご期待!



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