第363話 ま政治の事は王に任せておけ

リュー 「グリンガル侯爵、意外とまともな人物だったな。金払いもいいし」


ヴェラ 「まとも?! そうは思えなかったけど? 世界征服とか言ってたし」


リュー 「まともかどうかは、まとも・・・の定義次第だろ。


俺は国同士の争いに口を出す気はないが…


…侯爵みたいな “帝国主義” だって、正しいのか間違ってるのかは何とも言えんさ。


地球でも歴史上、たくさんの帝国が存在していたろ? 詳しくは知らないが、それらの帝国はみな、それなりに繁栄して、そこには幸せな生活もあったんじゃないか? 日本も皇帝エンペラーを擁する帝国だったし」


ヴェラ 「侵略は悪い事じゃないの?」


リュー 「侵略なら悪い事かもな。植民地支配で奴隷にされて圧政を強いられたら酷い話だな。だが…


逆に、圧政に苦しむ民を解放してやったら、その国の国民からは感謝されるんじゃないか? 国民の権利をちゃんと与えてもらい助けてフォローしてもらって共に繁栄していくというやり方なら?


まぁそれでも余計なお世話だって言う人間は必ず出てくるだろうけどな。


ただ、経済的には、細切れの小国に別れているのが幸せかどうかは分からん。


政治と経済の問題に関しては、地球でも “研究中” で、絶対的な正解は出てなかった。


俺も共和制が理想の政治体制とは思ってないし。

独裁国家が必ずしも悪いわけではない」


ヴェラ 「独裁国家はダメじゃないの?」


リュー 「独裁国家は、トップが優秀であれば一番理想的な状態だと言う説もあるんだよ。トップが馬鹿に変わると最低の制度になってしまうがな。


それに、実は民主主義は欠陥は多い。十人十色、人間の意見が完全に一致する事はないからな。大勢集まって話し合っても何も決まらない事も多い。なんとか落とし所を見い出せたとしても、譲れない意見の間を取った結果、おかしな結論に落ち着く事も多い。


赤か青、生き残るためにどちらか究極の選択をしなければならないという時。間をとって紫を選んで全員が滅亡したら元も子もない」


ヴェラ 「どちらも助かる方法を模索すべきでしょ」


リュー 「余裕があれば、な。話し合えばあうほど、全員に良い結論を求めるほど、言い争って時間が浪費されていくのが民主主義だからな。


時間が限られている危機的な状況がもしあったら、そうも言ってられんだろ」


ヴェラ 「そこは、サクッと多数決で決めればいいんじゃないの?」


リュー 「多数決で決めた事が、絶対正しいとも言い切れないからな。


知識が少なく私欲に流されがちな多くの民衆と、知識が豊富で先を読んだ少数の専門家の意見では、少数意見が正しい事は多々ある。ポピュリズムはあまり良い結果を生んでなかったろ?


だが、独裁者も間違った判断をしないとは言い切れない。そもそも絶対正しい判断なんて政治にはないからな。


結局、君主制も共和制も、どっちでも結果は一緒なんだよ」


ヴェラ 「私は日本人だったから、君主制よりは話し合って決めるのがいいんじゃないかって思ってしまうけど」


リュー 「だが、すべての人間が幸せというのを実現するのは不可能だろ? どうしたって不満を抱く者は居るからな。


なら、とりあえず、より多くの人間が幸せになれる選択をしましょうってのが民主主義なわけで。それだと、どうしても一定数は不幸な人間が出続ける事になるわけで」


ヴェラ 「…共産主義なら?」


リュー 「…まぁそれも無理だよな。だって、共産主義ってのは、全員で貧乏になりましょうって考え方だからな。


怠け者にはありがたい制度なんだが、人より多く働いた者には不満が溜まるだろ? 結果、働き者は逃げ出し、怠け者だけが残り、結局破綻する。


怠け者がみんなで貧しさを共有して全員納得、ならいいんだが、文句だけ言う人間は必ず出てくるしな。


働き者が集まって競い合っていくほうが、まだ建設的、健康的な気もする。ただ、それはそれで、一歩間違うと弱肉強食の荒んだ競争社会になってしまう」


ヴェラ 「下は社会保障をしつつ、上は競争主義も認める、日本はそんな感じを目指してたわよね」


リュー 「まぁ、何主義だろうが関係ないと思うんだよ、俺は。


一部の人間が満足して一部の人間が不満を抱える社会か、全員が均等に不満を抱える社会か? どっちも大差ない。


結局、すべての人間が生きられる食べ物とエネルギーを生み出せる技術がないと、人間が際限なく増えて全員幸せになるってのは無理な話なんだと思う」


モリー 「う~ん……お二人の言ってる事が、難しくて、ついていけない…」


リュー 「ああ、分かりやすく言うと、例えば、教会には孤児院が併設されている事が多いだろう?」


モリー 「はい、私の居た教会も孤児たちを育てていました」


リュー 「だが、孤児たちが二十人居るのに、食べ物が十人分しかなかったらどうする?」


モリー 「それは……なんとかして食べ物を調達する方法を考えます。近隣の家に恵んでもらうとか、領主様にお願いに行くとか」


リュー 「街の人も、領主さえも貧しくて、自分が食べる分以外には食料を持っていなかったら?」


モリー 「…神に祈ります」


リュー 「…祈るのはともかくとして。食べ物が調達できなかったら、孤児は半人前ずつ食べて、それで我慢するしかないだろうな。


だが、十人殺して十人が十分に食べるという手もある。


あるいは、隣の家から食べ物を奪ってくるとかな」


モリー 「そんな事…!」


リュー 「架空の話だよ。要するに、食べ物を調達する方法があれば良いわけだ。問題はその方法。生産するのか、あるいは、奪ってくるのか?


あるいは人間を減らすのか。十人しか生きられないなら、十人以上人間を増やさない、という考え方もある。もし増えてしまったら減らすしかない。


孤児院なら、孤児が居ても定員いっぱいだから受け入れられません、となるだろう?」


モリー 「確かにそういう悩みはいつもあります」


リュー 「国同士に置き換えても同じなんだよ。足りない食料を生産できないなら、他国から奪うか、人口を減らすか、皆で我慢するか。


戦争は、奪うと同時に適度に人口を調整する効果もあるわけだな」


モリー 「足りなくなったら隣から奪えばいいっていうのは、間違ってる気がします。皆で分け合えばいいのに…」


リュー 「孤児院では、畑を作ったりするだろう?」


モリー 「はい、教会の敷地の中に。子供達に手伝ってもらって。ただ、うまく作れなかった時は食べ物が足りなくなってしまって、援助を受ける必要がありましたが」


リュー 「つまり、教会の畑で食べ物をもっとたくさん作れれば問題は解決だろう? そのための技術を磨き、畑を豊かにしていく事が一つの解決方法なのさ。余るほど生産できれば、人間を減らす必要も奪う必要もない」


モリー 「なるほど!」


ヴェラ 「エド王は、戦争をやめて国内の畑を増やそうって考えね」


モリー 「それは素晴らしい事ですね!」


リュー 「だが、限界もある。果たしてどこまでやれるかな……


それに、近隣と戦争を繰り返して来た経緯があるなら、当然防衛のための軍事力も手を抜けないだろう。戦争は、こちらからするばかりではないからな。他国が攻めてきたら、戦争したくないなどとは言ってられない。侯爵の言うように、守るだけでは守りきれないという側面があるのも事実だ。


なかなか大変だな、エド王は。


まぁ、仮に上手く行っても、難しいのは、人間の幸せってのは、衣食住だけじゃないって事。


どんなに恵まれた状況であっても、他人と自分が同じ横並びでは絶対に許せない、って人間が居る。


まぁ、そういう人種は、戦争がなくても、何かにつけて他人と比較しては上だ下だと優劣を付けたがるんだよな」


ヴェラ 「ああ、居るわね、マウント好きな人種」(笑)


リュー 「衣食住が満たされれば、違う部分で争い始める。絶対に全員満足はない。人間が居る限り、争いはなくならないんだろうと思うよ……


まぁ、政治の事は、王に任せておけばいいさ。


…ところで、まさか大量の金塊インゴットが出てくるとは思わなかった。どうするかな?」


モリー 「あんな、たくさんの金塊は生まれて初めて見ました」


リュー 「俺もだよ」


ヴェラ 「商業ギルドにでも行って、両替してもらわないと、金塊のままでは使えないわよね……」


リュー 「まぁ、普段使う金には困ってないから、そのうち機会があったら金貨に替えてもらおう」




   * * * * *




一方、リュー達が帰った後の侯爵の執務室。


執事 「侯爵様、よろしかったのですか? あのような無礼を赦して」


その時、侯爵の執務室のドアがノックされた。


オリゴール 「ただいま戻りました」


侯爵 「戻ったか」


オリゴール 「遅くなって申し訳有りません、それで、どうでした、奴は?」


執事 「?」


侯爵 「奴は収納魔法を使っていた。報告のとおりだな。」


(リューは出された金塊を亜空間に収納してみせたのだ。一応、バッグに入れるフリはしたのだが、重たい金塊がかなりの量である、誤魔化せてはいなかったのであった。)


侯爵 「カロン、ペネローラ!」


カロン 「侯爵様、お呼びですか?」


隣室に繋がる扉が開き、騎士カロンと、もうひとり、ペネローラという女の魔法使いが入ってきた。


侯爵 「お前達、見ていたな? あれがリュージーンだ。どう思った?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


グリンガル侯爵の裏側(真相)


乞うご期待!


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