第364話 ウイルス騒動の真相
執事 「リュージーン?! 暗部に監視させていたという? …なるほど、侯爵様は、聖女ではなく、最初からあの者が目的だったのですね?」
侯爵 「そういう事だ。して、どうだ?」
執事 「ただの無礼者にしか見えませんでしたが…」
侯爵 「…カロンとペネローラに聞いている」
カロン 「正直に申しますが、態度がデカかったのは大した度胸ですが、何の力もない、ただの平民のようにしか見えませんでしたね。手もなく捻れそうでしたが? まぁ、あんなゴミのような魔力しか持たずに、強大な魔力を持つ侯爵の前であの態度がとれるのは、逆に得体の知れない不気味さは感じましたが」
執事 「身の程がまったく分からない、ただの大間抜けという可能性も」
カロン 「その可能性も確かにあるがな……」
侯爵 「お前はどうだ、ペネローラ? 奴はスラムに向かわせた魔導兵団をアッサリ蹂躙してみせたらしいぞ? 勝てるか?」
ペネローラ 「鑑定してみても、レベルも極端に低く、魔力もほとんどナシという結果しか出ませんでした。ただ…収納魔法には驚きましたが」
カロン 「収納の魔道具を使っていたのでは?」
ペネローラ 「いいえ。そう見せかけようとしていた素振りもありましたが、中途半端でしたね。魔道具だって、それなりの魔力がなければ使えないですし。収納魔法ともなると、賢者クラスの膨大な魔力がなければ使えないはず…」
侯爵 「つまり、鑑定結果は隠蔽されているという事か? 監視させていた暗部の報告によると、奴は【転移】まで使うらしい」
カロン 「空間魔法の使い手、と言う事ですか……もしそれが本当なら、【伝説級】という事になりますが」
侯爵 「カロン、勝てそうか?」
カロン 「正直、なんとも言えません。空間魔法を使う相手とは戦った事がありませんので」
ペネローラ 「無理だと思います」
カロンが『なにを?』という顔でペネローラを見たが気にせずペネローラは続けた。
ペネローラ 「先日、パラガンの街で、とてつもなく膨大な魔力が発せられたのを感じました。(※リューがスラムを浄化した時の事。)
侯爵 「グリンガル侯爵家ナンバーワンの騎士と魔道士でも勝てんか? そうか。奴がエド王につくとなると、やっかいだな。少し、計画は延期する必要があるかもしれんか」
オリゴール 「いえ、暗部の報告によると、奴は必ずしも、エド王の部下というわけではないようです。利害関係が一致しているだけ。エド王がうまく奴を利用していると言う事かと」
侯爵 「…先程も金を見て目の色が変わっておったしな。利害で動くのならば、うまくすれば、こちらに引き入れる事も可能か」
オリゴール 「引き続き、暗部を使って奴の弱みを探らせます。家族でも居れば人質に取って従わせられるのですが」
侯爵 「空間転移を使う相手に人質など通用するのか?」
オリゴール 「いかに転移を使う相手であっても、場所が分からなければ救出できないでしょう。それに、表向きは合法な方法、つまり借金を負わせるなど、やりようは色々とあるものです」
侯爵 「ふん、任せる。うまくやれ」
オリゴール 「御意。ところで、フリツバッハを連れ帰っておりますが、どうしますか? それと、計画のほうは……?」
侯爵 「あんのバカチンはどこに居る?」
オリゴール 「地下牢にブチ込んでおきました」
侯爵 「そうか。計画は中止だ! 全ての証拠は焼却しておけ! まったく、くだらん猿知恵に乗せてくれおって。あやうく息子まで亡くすところだったのだぞ。フリツバッハは……」
侯爵は親指で首を掻っ切るような仕草をした。
オリゴール 「は、直ちに……」
* * * * *
侯爵家の地下牢に入れられていた男、名はフリツバッハと言った。実は地球からの転移者であり、地球では某国の軍事研究所で生物兵器・化学兵器の研究をしていた男である。
地球では、戦争で使う化学兵器を作り出し、フリツバッハは勝利に貢献した英雄となるはずであった。だが、なんとフリツバッハの所属していた国が戦争に負けてしまったのである。フリツバッハは逆に、悪魔の兵器を発明した者として汚名を着せられ、やがて行方不明となったのだった。
実は、もはやこれまでと自殺しようとした時、フリツバッハは不思議な光に包まれ、この世界に転移してきたのだ。そして、フリツバッハはこの国で、地球の知識を利用して再起を図ることにしたのであった。
そう、先だってのパラガンのスラムで発生した疫病の原因となったウイルスを作ったのはこのフリツバッハである。
フリツバッハは地球での知識にこの世界の魔法の知識を合わせて、新たな生物兵器を作り出したのだ。
この世界には治癒魔法という地球には存在しない奇跡のような治療法がある。そのため医学はあまり発達していない。仮に病原体を兵器として撒き散らしたとしても
これを持って、グリンガル侯爵に自分を雇うように持ちかけた。話を聞いたグリンガル侯爵はこの生物兵器が戦争や王族の抹殺に使えるのではないかと考え、フリツバッハを雇い、研究に金を出してやったのだ。
フリツバッハが言うには、病原体を無効化してしまう “ワクチン” なるものを開発できるとの事であった。つまり、敵の陣地や暗殺したい相手の家にこの目に見えない微細な魔法生物をバラ撒き、相手が死んだ後にワクチンで無効化してしまえばよいと。
フリツバッハのワクチンの開発は既に最終段階であり、どこかの街のスラムを最期の実験場に使おうと考えた。自信のあったフリツバッハはよりによって王都の隣町、パラガンを選んだのであった。
事後承諾で侯爵に説明をしたフリツバッハ。絶対安全だと自信満々に侯爵に説明した。万が一、最悪の場合でもスラムが滅びるだけで済む、と。
だが、フリツバッハの予想外の出来事が起きた。
フリツバッハの報告を受け、侯爵はスラムを焼却して実験を終わらせる決断をした。だが、そんな事情を知らない侯爵の息子、ジャスティンが、正義感を発揮しスラムに出入りし、ウイルスを拡散してしまったのだ。侯爵のところには息子のジャスティンが感染し、死は避けられないという報告が上がった。
たまたま街を訪れたリュージーン達のおかげでウイルスは抹殺する事ができたのだが。
フリツバッハは魔法に詳しくなかったため、ヒールとは別にクリーンという魔法がある事についてはよく知らなかったのであった。
実験が上手く行ったら、最初の攻撃目標はエドワード王にする予定だったのだが、侯爵はこの計画・研究はすべて封印して使わない事と決断。(そもそもクリーンでウイルスが消えてしまうのだから兵器としてはもはや意味がない。)
逃亡しようとしたフリツバッハは侯爵に捕らえられ、秘密裏に処刑されたのであった。
フリツバッハ 「ふふっ、また失敗してしまったか。だが、また異世界転移が起きるかも知れない。そうしたら、次の世界では、今度こそ成功させてみせるぞ……」
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
Sランク認定のため再び冒険者ギルドを訪れたリュー達だが、認定はすんなりとは行かないようであった
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます