第365話 Sランクを認定できる者が居ない?

王都までリュー達と一緒に来たミィであったが、王都に着いたところでリュー達とは別れ、別行動となっていた。


『王都に行く用事があるから乗せてくれ』という建前であったのだから仕方がない。


隷属の首輪の力で、任務については忘れリューに惚れ込んでいると思い込んでいたミィであるが、リュー達から離れた事で任務を思い出す。


ミィは指定されていた宿へ向かい、ゴードンと合流、ここまでの報告を行う。


ミィ 「ターゲットについて分かった情報は以上です」


ゴードン 「それで……どうなんだ?」


ミィ 「…? どうとは?」


ゴードン 「ヤツとは? 関係は? 進行したのか?」


ミィ 「関係、ですか? まぁ、出会った時よりは、少しは親しくなれたんじゃないかと思いますが」


ゴードン 「少し? それはどれくらいなんだ? 恋人にはなれたのか?」


ミィ 「恋人には、まだちょっと遠いでしょうか…」


ゴードン 「肉体関係は? 奴と寝たのか?」


ミィ 「流石に肉体関係とかはまだまだ難しいかと」


ゴードン 「そうか……」


ミィに、最終的には恋人になって肉体関係を持てと命じていたゴードンであったが、まだ肉体関係を持っていないと聞いて、ほっとするのであった。実は、ゴードンはミィに溺れはじめており、ミィをリュージーンに渡す事に抵抗を感じ始めていたのだ。


ミィは身体を重ねようとも奴隷として命令に従っているだけで、ゴードンに対して愛情など一切ないのであるが……。


ゴードン 「こっちへ来い」


ゴードンはミィをベッドに押し倒した。


ミィ 「ちょ、今日は駄目です、これからまた、ターゲットに会う約束をしているので! もう! すぐ! 行かないと!」


ゴードン 「……くっ、そうか……仕方がないな」


実はそんな約束はしていなかったのだが。屁理屈のようだが、嘘をつくなとは命じられていないので、これはギリギリセーフの行動であった。嘘をつかないよう命じなかったゴードンのミスである。


それに、これから本当にリューに会いに行くつもりであれば、完全な嘘というわけでもない。任務遂行が奴隷ギルドの奴隷としての最重要課題であって、エージェントの欲求のはけ口になる事は任務ではないので、優先度は高くはないのだ。


ゴードン 「じゃぁ今夜また報告に来い!」


ミィ 「こっ、今夜は遅くなるし、ターゲットに疑われるので無理です」


ゴードン 「じゃぁ明日でもいい! 近日中に来い!」


嘘をついてその日はなんとか逃げる事に成功したミィ。とは言え、いつまでも逃げ続ける事はできないだろう。それを思うと虚しくなるのであったが。


とりあえず、嘘を本当にするためにも、任務を遂行するしかない。


ミィ (でも、これ以上、どうやってリューとの関係を深められる?)


王都まで送ってくれという理由はもう終わってしまった。今後、どんな理由でリューに近づこうか……


エージェントはいつもミィに “色仕掛け” を期待するのだが、ミィは別に色気を武器に男を誑かすのが得意なわけではないのだ。美少女であるだけで鼻の下を伸ばしてグイグイ近づいてくる相手ならまだしも、リューの反応は今ひとつであった。(まったく脈がないというわけでもなさそうだが……)シャイ? な相手にこれからどうすればいいのかミィにはよく分からない。


以前、ゴードンは、


「お前は冒険者だろう? 一緒にパーティを組みたいとかなんとか言って、押しかけたらどうだ?」


などと言っていた。ダメ元でやってみる手はあるか。


そう言えばリューはランクアップ試験のために王都に来たはず。リューが泊まっている宿は分かっているが、別れたばかりでまた押しかけるのも不自然である。だが、冒険者ギルドに行けば、自然に会えるかも知れない。とりあえずミィは、冒険者ギルドへ行ってみる事にした。


受付嬢 「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件で?」


ミィ 「ここに、リュージーンという冒険者がランクアップ試験を受けに来なかった?」


受付嬢 「あなたは?」


ミィ 「私はミィ、Cランクよ」


ミィはギルドカードを受付嬢に提示しながら言った。


ミィ 「リューとは知り合いなんだ、ランクアップ試験を受けると言っていたから、見学したいと思って」


受付嬢 「申し訳有りませんが、他の冒険者の方のランクアップ試験の予定等については、明かす事はできない規則になっておりまして」


ミィ 「そう、それはそうよね。分かった、ありがとう。アタシ、彼とパーティを組みたいと思ってるの。見掛けたら教えてくれる?」


受付嬢 「もし見掛けたら、伝言をお伝えするようにしましょうか?」


ミィ 「ああ、そうね。いえ、パーティの事は言わないでくれる? 自分の口でちゃんと言いたいの、大事な事だから。ミィが話がしたいと言ってたとだけ、伝言してくれれば」


受付嬢 「分かりました、伝えておきますね」


ミィ 「うん、お願いね。ありがとう…」




  * * * * *




翌日。リューは再び冒険者ギルドに顔を出してみた。今日はリューとスケルトン三人組の他にヴェラも一緒である。(モリーは子供たちと街の観光に行かせた。特に何も起きないと思うが、念の為スケルトン兵士達に影から護衛させている。何か大きな問題が生じた時はランスロットに即連絡が入る事になっている。)


受付嬢に名前を告げると、リュー達はすぐにギルドマスターの部屋に案内された。


ギルドマスター・ユーセイとサブマスターのウテナは、昨日のうちに再び中央本部に出向き、報告をあげ、相談してきてくれたと言う。


だが、Sランクを認定できる者が居ないという結論は変わらなかったそうだ。Sランク以上の冒険者はこの世界では希少なのである。どこかから呼ぶにしても、なかなかすぐにというわけにも行かないのだそうだ。


ランスロット 「では、Sランクはともかくとして、とりあえずAランクの認定をして頂けませんかな?」


ユーセイ 「いや、魔力測定の結果や、王族からの推薦状等を考慮し検討した結果、やはりSランク認定が妥当だという結論にはなっているのだ。そこで、ある特別な冒険者に確認してもらう事で、Sランク認定が許可される事になった」


リュー 「特別な冒険者?」


ユーセイ 「ああ、ランクはAなんだが、実力はSランク以上と皆が認める冒険者が居てな。しばらく王都を離れていたのだが、先日帰ってきたそうだ。連絡はしてあるので、今日あたりギルドに顔を出してくれるはずだが…」


そこに、扉をノックする音がした。


ユーセイ 「お、噂をすれば、到着したようだな? 通してくれ!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


『竜人とは珍しい。長く生きているが、一度しか会ったことがないぞ』


乞うご期待!


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