第360話 グリンガル侯爵からの招待状

帰っていくリュー達を見送りながら、ウテナはドッと疲労感を感じ、座り込んでしまった。


滝のように汗をかいていた。先程まではあまりの恐怖で冷や汗さえもでなかったのであった。


魔法使いのウテナは魔力への感度が他の人間よりはるかに敏感なのである。そして、先程体験した、あまりに膨大な魔力量は、かつてウテナが経験したことのない恐怖心を呼び起こしていた。


ウテナ (あ、あれは何……?


あれは……あの魔力は、人間じゃない……


いや、人間どころか魔物でもありえない量だった……)


純粋な魔力だけで、あれほどの恐怖を感じたのは初めてだった。


例えるならば、油断していたところに突然、荒れ狂う巨大な海の大きさ、深さ、破壊力、その全てのエネルギーを、一瞬にして肌で体感してしまったようだった。


大自然の巨大さに比べれば、人間など小さなものである。大自然の巨大さを感じてしまった時、人はその大きさに恐怖心を抱く事があるが、それを、狭い空間の中で一瞬で体験したようなものだったのである。


ウテナ (あれは……人のレベルじゃない、生き物の個体のレベルじゃない、まるで……


……災害?)


あれは、まともにぶつかってはいけない相手である。大自然の災害相手には、人間は対抗できるわけがない。ただ、生き残る努力をしながら、過ぎ去るのを待つのみである。


一人、真の意味でリューの危険性を正しく認識したウテナは、中央にはSランクを黙って認定して、試そうなどとしないようにと報告(警告)するのであった。


それと、もう一つ思い当たった事がある。中央本部に各支部のマスター・サブマスターが集められたのは、先日、とてつもなく膨大な魔力が検知された件もあったのだ。パラガンでリューがスラムを浄化した時の話であるが、隣街であるのにも関わらず、魔力の感度が敏感な何人かは、王都に居ながらそれを感知したのである。


隣町ほど離れた距離でありながら感じ取れるほどの魔力の迸りである、これ魔王でも降臨したのではないか? と報告が上がったのである。


だが、それが、リュージーンの仕業であったとしたら……推測ではあるが、おそらく間違いないであろう。ウテナはこれも中央に報告するのであった。




   * * * * *




宿に戻ったリュー達。


すると、ヴェラとモリーが困っていた。なんと、グリンガル侯爵から招待状が届いたというのである。


招待状だけならば良かったのだが、どうやらグリンガル侯爵の “使い” の貴族が、二人に今すぐに屋敷に来いと迫っているところであったのだ。


使いの貴族はミージ子爵と名乗った。


リュー 「随分な招待の仕方だな」


ミージ 「なんだ貴様は?」


リュー 「二人の護衛みたいなものだ」


ミージ 「護衛風情が、引っ込んでいるがいい。侯爵様の招待だ、すぐに対応するのは当然であろうが。侯爵様は忙しい方なのだ、時間を無駄にするな」


リュー 「こちらの都合も一切考えず、今すぐに来いというのは招待とは言わない、命令というんだ」


ミージ 「当然だ、貴族が平民を招待するというのだから、命令と同じだ」


リュー 「別に他に用があるわけではないが……そんな上から目線の横暴な命令に従いたくないなぁ。そう言っていたと侯爵に伝えるがいい」


ミージ 「貴様、無礼であろうが。こちらは子爵位を持つ貴族であるぞ。しかもグリンガル侯爵様の名代として来ているのだ。この場で手打ちにされたいか?」


リュー 「できるものならやってみるがいい。だがその瞬間からお前達は俺の敵となる。侯爵の名を出した上で手を出すのなら、グリンガル侯爵も敵として潰す。おまえのせいだぞ?」


いつの間にか現れたランスロット・パーシヴァル・エヴァンスがミージ子爵の周囲を囲むように立っていた。もしミージが剣に手を掛けようものなら、瞬殺されてしまうであろう。


突然現れた、骸骨の面を着けた異様な雰囲気の大男達を見てミージ子爵が少したじろぐ。あわや、ミージの手が剣の柄に伸びようとした時……


『おやめくださいミージ子爵。侯爵様はそのようにはおっしゃられてはいなかったはずです。』


ミージの脇に控えていた護衛と思われる騎士が口を挟んできたのだった。


騎士 「侯爵様の指示は、息子と街を救ってくださった聖女様にお礼が言いたいとの事だったはず。敵対的な態度をとるのは侯爵の意に反するでしょう」


リュー 「こちらの都合も考えずに無理やり呼びつけるのが、この国の貴族の礼の仕方なのか?」


騎士 「いや、それは侯爵様も本意ではないはずだ。招待状の中にもそのような事は書いていないはず」


ヴェラ 「招待状には、都合が良い日を知らせてくれと書いてあるわね」


ジト目でミージを見つめるリュー達。


ミージ 「こっ、それは建前というものだ! 貴族が招待したのだから即応じるのが平民の務めというものだろうが」


リュー 「招待状にそう書いてあるなら、そのまんまの意味だと思うけどな」


ミージ 「貴様! 貴様のその態度は、侯爵に報告するからな! どうなるか、覚悟シテオクガイイ!」


捨て台詞を残し、ミージ子爵は踵を返し去っていった。


リュー 「しかし、まさかグリンガル侯爵から招待があるとはな」


ヴェラ 「侯爵は、私達の事について、なんて聞いているのかしら?」


リュー 「息子が報告した程度の内容しか知らんのでは?」


ヴェラ 「でも、どうしようか。返事も聞かずに行ってしまったわね。また来るわよ、あれは」


リュー 「今度は逮捕する、とか行って騎士を連れてきそうなパターンだなぁ」(笑)


ランスロット 「その時は、全員返り討ちにしてやりましょうぞ」


パーシヴァル 「その上で屋敷に乗り込んで侯爵も潰してしまえば良い」


エヴァンス 「兵士達に後をつけるよう命じてある。動きがあればすぐに分かる」


リュー 「な、なんか、みんな、やる気満々だね……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


侯爵 「こんばかちんが!」


乞うご期待!



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