第48話 リュージーン vs 剣聖
誰も居ない、夕刻の冒険者ギルド訓練場。
そこで木剣を構えて向かい合うリュージーンとレイナード。
レイナード「先程はまったく本気を出していなかったようだが……見せてくれる気になったか?」
リュー「残念ながら、能力をすべて明かす事はできない……が、どれだけ力を出せるかは、あなた次第かな。あなたもブランクがあるだろうが、俺も剣は素人なので、ちょうど良いでしょう」
リューの時間制御の能力は、リューの本気度に合わせて自動的・シームレスに発動してしまうのだが、リューはその能力を意図的に封印した上で手合わせを行う事にした。
そして、レイナードに打ちかかっていくリュー。
今度は手加減なしの全力―――竜人としての素の身体能力の全力投入である。神眼や時空魔法の補助は切ってあるが、それでも常人には見えない速度域の剣撃である。普通の剣士では受けられないだろう。
だが、レイナードはそれを受け流してみせた。
普通なら、それほど高速で振られた木剣同士がぶつかりあえば双方とも折れてしまう可能性が高いが、レイナードはその破壊力を瞬時に見極め、受ける剣の角度を斜めに変え、かつ体を移動しながら衝撃がまともに剣に掛からないようにして受け流して見せたのだ。
正直、リューは驚いた。この速度の剣撃を捌ける人間が居るとは思っていなかったのだ。
さすがは「剣聖」の称号を持つ者、おそらく冒険者であればSランク、あるいはSSランクという実力であろうか。
レイナードもまた驚いていた。
現役時代でも、これほどの速度の剣撃を受けた事はない。経験のある中で最も速いと言える剣撃であった。よくぞ反応できたと自分でも思う。
だが、体の調子はすこぶる良い。反応も良好。この速度域ならば、十分に対応できそうである。
何度か打ち合う二人。
だが、剣の素人であるリューと剣聖のレイナードの実力差が、徐々にあらわれ始めた。
徐々にリューが余裕をなくしていき、逆にレイナードは余裕を持ち始める。
体が温まってきたのか、さらに本気を出し始めるレイナード。剣撃はどんどん激しくなっていき、ついにはリューの木剣は打ち折られてしまった。
リューには剣が折られないように受け流すというような技術はないのだから折られてしまうのは仕方がないだろう。
だが、レイナードの木剣にも同じ衝撃が加わっているはず。同じ材質の木剣なのだから、片側だけ折れて片側が無事というのは不思議である。だが、レイナードの剣は折れていない。折れないような打ち方があるのだろうか?
実は、これが正しい剣の振り方を知っている者と知らない者の差、刃筋がきちんと立っているかどうかの違いであった。
厳密に解説するならば、木剣というのは大雑把に言えば薄い板状の木材である。つまり、長手方向には強いが、横方向には弱くなるのである。レイナードの剣は強い方向に完全に一致した当て方をしていたが、リューの剣の当て方は、僅かに刃が斜めに傾いていたのだ。その違いが何度も打ち合っていくうちに出たのである。
剣はなくなってしまったが、まだ十分満足していない二人は、訓練場にあった鋼鉄製の模擬剣を取った。刃は潰してキレないようにはしてあるが、鋼鉄製なので木よりははるかに頑丈である。
再び打ち合う二人。
レイナードは数十年ぶりに若返り、剣を振るう楽しさを味わっていた。
リューもまた、この世界に来て、初めて自分の与えられた肉体の全力を発揮していた。自分のイメージを追い越すように軽快に動く竜人の肉体に、リュー自身が驚き、そして楽しんでいた。
だが、やはり技量の差は大きく、そう簡単には埋まらない。ついにリューはレイナードに一本取られてしまう。
レイナードの剣がリューの胴を薙いだ。
白熱し過ぎて手加減できずに打ち込んでしまい、しまったと思ったレイナードであったが、リューは体の周囲に次元障壁を展開していたので無傷であった。
リュー「さすがですね」
レイナード「魔法障壁の鎧を纏っているのか?」
ならば全力をぶつけられそうだと言うレイナード。それに対して、リューは、もう1段ギアを上げると宣言する。先程までのは、竜人レベル1、次は、レベル2に切替である。
リューのスピードがさらに上がる。レイナードの先程までの余裕がなくなる。だが、さすがに剣聖である。互角の展開というところか。
レイナードもまた、手加減を止めて全力を出している。今度は極意技を次々出して対抗する。レイナードにとって、極意技は極め技でもあった。これまで、一撃以上、連続で極意技を受けられるような相手はいなかった。だが、リューに対しては極意技を連続で繰り出し続けてやっと互角というレベルである。
時折、避けきれなかったレイナードの剣を身体に受けてしまうリューであったが、次元障壁の鎧のおかげでなんともない。(それもレイナードにとっては信じられない事なのだが。)
相手の剣を避けきれない事が分かり、さらにリューのギアが上がる。レベル3。ついに、リューの速度がレイナードを上回り始める。極意技も力ずくで打ち破るようになり、ついに……
二人の剣が折れてしまった。
鋼鉄製の剣でも二人の激しい打ち合いに耐えられなくなってしまったようだ。最初のうちは、レイナードは自分の剣に負担をかけないように上手く捌いていたのだが、リューの攻撃がレベル3にまでなって、ついにその余裕がなくなり、まともにぶつけ合うようになってしまったのであった。
流石に二人とも疲れてきていた。そろそろ終わりにすべき頃合いであろう。
リュー「さすがです、とうとう、一本もとれなかった」
リューは何度もレイナードの剣を身体で受け止めていたが、リューの剣はついにレイナードの届く事はなかった。レイナードは魔法障壁の鎧を纏っていないのだから、当たっていたら大変な事になってしまっただろうから、レイナードは冷や汗ものだったのだが。
(仮にリューの剣が当たってレイナードが大怪我しても、リューが時間を巻き戻して治療してしまうので問題はないのであったが。)
レイ「だが、まだまだ君の“ギア”は上げられるんだろう? それに、“能力”とやらも隠したままだと言った。ちなみに、その能力を開放するとどうなるのだい?」
少し考えてから、リューはもう一度、別の剣を取って構えた。
リュー「一瞬だけ、俺が持っている能力を見せましょう」
レイナードも構える。
リューの集中が高まっていく。それにつれ、リューが時間の流れから逸脱していく。
ただならぬリューの雰囲気にレイナードも全神経を集中して待ち構える。
だが次の瞬間、リューはレイナードの背後に居て、レイナードの首に剣を突きつけた状態であった。
リューの時間を操る能力が最高に高まった時、時間は停止する。いかに剣聖と言えど、止まった時間の中で振るわれる剣を躱す事などできはしない。
何が起きたのか理解できないレナード。
レイ「……超スピード? まったく反応できないほどの? ……いや、違うな」
リュー「秘密です」
とリューは笑った。
レイ「伝説にある最上位のドラゴンは、時間と空間を操る能力を持つものが居る、そんな話を聞いたことがあるが……そうか!私の肉体が若返ったのも?」
リュー「驚きました、そこまで見抜かれるとは。俺は、実は、時空間を操る能力があるのですよ」
・
・
・
・
・
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
所要で出かけていたキャサリンが冒険者ギルドに戻ってきた。
既に日は落ち、ギルド職員もバーの運営スタッフ以外は全員帰宅していた。
執務室に入ろうとしたところ、キャサリンは訓練場に人の気配があるのに気づいた。覗いてみると……
…レイナードとリューが木剣を振っていた。
レイナード「違う、こうだこう!」
ブン!
リュー「こう?!」
ブン!
レイナード「うーん、大分良くはなってきたが。あとは、地道に修練を積み重ねて身体に染み込ませていくしかないだろうなぁ」
キャサリン「居残り練習?」
レイナード「おお、キャサリン、おかえり」
リュー「剣聖の技を盗もうと思ってな」(笑)
レイナード「キャサリン! 驚いたぞ、お前の言った通りだった、コイツは俺より強い! にも関わらず、剣に関してはまったくのドシロウトなのだ。基本からやりなおさんとダメなんだ! どうなっている?!」
レイナードが楽しそうに笑った。
キャサリン「……ってレイナード? 足はどうしたの?! それになんだか若返っているような……」
リュー「足は剣聖の気合で治したらしいぞ」
キャサリン「いやいやいや、いくらなんでも、気合で足は生えないでしょ」
レイナード「リューが治してくれた、何年ぶりかで本気で剣を振ったよ」
キャサリン「……リュージーン。アナタ、そんなとんでもない能力まで隠し持っていたのね……」
リューとレイナードに送られるキャサリンのジト目。。。
キャサリン「まぁ、いいでしょう!剣聖レイナードの復活ね、ギルドにとっては明るいニュースだわ!」
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
リューは研修で新人たちとパーティを組みダンジョンに潜る。
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます