第49話 ダンジョン実地研修
冒険者とは、読んで字のごとく、「危険を冒しながらも一攫千金の夢を追う者達」であるが、具体的には、ダンジョンに潜ってモンスターを倒し、ダンジョンからアイテムや素材を持ち帰る事が主な仕事である。(他にもダンジョンから出てきたモンスターの討伐依頼や護衛任務、時には雑用的な仕事を引受ける事もあるが。)
ダンジョンに潜るために知っておくべき事は意外と多い。
どのような装備が必要か?
何を準備していけばよいか?
ダンジョンに最適なパーティ構成は?
ダンジョンの特徴、ギミックや罠、ダンジョンに現れるであろう基本的な魔物の種類と特性、弱点
ミムル以外の場所にあるダンジョンについての情報
世界にある特殊なダンジョンの事例
情報収集の重要性
冒険者新人研修の参加者は、皆熱心にメモをとっている。
まぁ中にはメモも取らず退屈そうに欠伸しているギャビンのような者も居るのは、どこの世界でも同じであるが。。。
* * * *
そして、座学による研修が終わり、いよいよダンジョンに潜っての実地研修が始まる。これが終われば研修は終わりである。
参加者達で研修用の臨時パーティを組み、指導教官役の元冒険者とともにダンジョンに潜る。
あくまで研修なので、3階層程度潜って帰ってくる予定である。
リューは、初日に声を掛けてきた女の子たち、サリ・メグ・ナオミの三人に声を掛けられ、パーティを組む事となった。
彼女たちは既に三人で「プリプリレイディズ」というパーティを組んでいたのだが、研修用パーティは最低四人以上推奨との事だったので、リューに声をかけたのだ。
リュー達のパーティの指導教官にはレイナードが付く事になった。
リューによって失った足を取り戻した“剣聖”レイナードは、既に全盛期の力を取り戻しつつあった。
リューとレイナード二人揃うのは少々過剰戦力なのだが、まずはリュー達のパーティが最初にダンジョンに潜り、問題ないか確認する意味もあるのだった。
* * * *
実地研修第一陣、リュー達のパーティがクエストに出発である。
まずは受付に行き、研修用にゴブリンの討伐依頼を受ける。
ゴブリンの討伐依頼は常設依頼で、ゴブリンを倒したあと、事後報告で受注処理でも構わないのだが、研修なのでちゃんと依頼を受けるところから行う。
そして、装備の確認と、食料等、物資の買い出しに向かう。
研修とは言え、今回も通常の依頼とまったく同じ扱いであるので、特にギルドから金銭的な補助などはない。冒険者の準備は全て自力・自前で行うのは当然の事なのだから仕方がない。
ただ、依頼の達成報酬と素材の買取も通常通り行われるので、戻ってくれば多少の収入にはなる予定である。
リューと“プリプリ”のメンバー達は、買い出しした食料やポーション、その他の準備品を銘銘のリュックに詰め込んでいく。
リューは収納魔法があるので、食料やその他準備品はいくらでも持っていけるのだが、今回はあくまで一般の新人冒険者として研修参加なので、リュックに詰められるだけの荷物で行くことにした。
リューの亜空間収納の中は時間が停止しているため、料理なども皿ごと出来立てで収納してしまえば、次に出すときにも出来立ての状態のままである。それこそ、料理は鍋ごと収納しておけば旅の途中でも普通に出来たて熱々の美味しい料理が食べられるのである。
だが、今回は、皆と一緒に携帯食を食べるのだ。これも経験である。
パーティのメンバーは銘々リュックに荷物を詰め込んだ。
今回のダンジョンアタックは長くとも2泊3日程度を予定しているので、それほど大荷物にはならないが、これが数週間という長丁場のアタックになると、持っていく物資も大量になる。
マジックバッグなどの収納を持たない冒険者だけで行くとなったら、ポーターを複数雇って大量の物資を輸送しながらと言う事になるので大変な事になるのだ。
もし、大容量の収納魔道具を持っている者が居れば、その者は非常に重宝される存在となるのである。
* * * *
準備ができたら一度解散。翌朝、街の東側の門の前に集合してダンジョンへ向かう事になった。
だが、翌朝リューが集合場所に行くと、何故かギャビンが居て、リューに向かって
「おう、名前忘れた、オマエ。俺様がこのパーティについていってやるから、お前は帰っていいぞ。」
などと言い出したのであった。
サリ 「はぁ、あなた、何言ってるの?!?!」
プリプリの三人も、突然現れての意味不明な発言に呆れるばかりだったが、ギャビンが「自分も一緒に行く」と言い張って聞かないので、結局、同行を許してしまった。(もちろんリューも一緒に行く。)
「しょうがねぇ、オマエ(リュー)も一緒に連れてってやってもいいが、自分が前衛をやるからオマエは何もしなくていいぞ。下がって黙って見ていろ。いいか、俺がいいと言うまでお前は手を出すんじゃねぇぞ?」
などとギャビンは言っていた。
リューは元々戦闘には積極的に参加する気はなかったので―――リューが普通に戦闘に参加したら他のメンバーの出番が一切なくなってしまうだろう―――ちょうど良いから任せる事にした。
* * * *
ダンジョンまでは徒歩で十時間程度の距離である。急いでも到着は夕方になってしまう。
この日はダンジョンに入らず、一旦外で一泊休憩する予定なので急ぐ必要はなかったのだが、若く元気な冒険者の足だったので、八時間程度で到着してしまった。
以前は義足だった教官レイナードも、リューの時間逆行の魔法で足が生えたのみならず肉体も若返っているので、問題なく道程を踏破できていた。
レイナードは十数年ぶりとなるダンジョンアタックに、妙に嬉しそうであった。
― ― ― ― ― ― ― ―
※ちなみに、ミムルの東のダンジョンは、これまで単に「ミムルの東のダンジョン」としか言われていなかったのだが、正式に地竜巣窟(アースドラゴンズネスト)と名付けられたそうだ。
名前にドラゴンが入る事で、竜種の出るダンジョンとして注目を集め、冒険者が集まってくる事を狙ったのである。
命名者はギルドマスターのキャサリン。
既にギルド本部に申請書を出し、正式に登録を済ませたそうだ。
― ― ― ― ― ― ― ―
ダンジョンの入口に到着した一行は、近くの森の中で野営の準備をする。
ギャビンが、休憩などいらない、すぐにでもダンジョンに入ろうと騒ぎ立てているが、勝手に押しかけ無理やりついてきて何を言っているのかとサリ・メグ・ナオミも呆れている。
休憩は重要である。ダンジョンに入ったら、いきなり戦闘が始まって、そのまま休む間もないという事もありうるのだ。
ダンジョンの中で休憩が取れる場所は少ない。
休憩がとれる状況があるなら、体力がまだ残っていても休憩を取るべき、決して無理してはいけないと研修でもちゃんと教えていた。……真面目に聞いていたなら理解しているはずなのだが。
ギャビンの同行を許したのは失敗であったか。この先、粗忽な行動で色々やらかしそうな気がする。悪い予感を禁じ得ない一同はため息をつくのであった。
サリに「行きたければ一人で勝手に行け、自分たちは休む。」と言われ、ギャビンも諦めた。
おそらく、ギャビンは女の子達の前で“いいところ”を見せたくてついて来たのだろうから、一人でダンジョンに潜っても意味はないのである。
ギャビンは研修初日からずっとプリプリの三人の周囲を彷徨いていたが、純粋に“女好き”なだけであるようだ。それは神眼を強く発動しなくてもリューにも十分に伝わってきていたのだ。
ただ、なんでそんなに女に飢えているのか、それはリューには理解できなかったが。。。
実はリューは、外見は人間とまったく同じだが、要求した能力を実現するために人とは違う生物(竜人)に種属チェンジされてしまっている。そのため、性的な欲求はあまり強くは感じなくなっているのであった。前世は地球の人間であったが、その時もそれほど性欲が強いタイプではなかった事もあり、感覚としてよく分からないのであったが、そう言えば周囲に妙に女好きな性欲の強い男がたまに居たなという知識を引っ張り出して、若い男なんてそんなものかと無理やり納得するしかないのであった。
* * * *
夜間は交代で見張りに立つ。
とは言っても、リューがダンジョンから魔物が外に出るのを禁じているので、最近は至って安全になっており、野生動物に襲われるのを警戒する程度の状況であったが、あくまで研修である、他のダンジョンに行けば当然危険な状況が当たり前にあるのだから、研修として、見張りは全員参加の交代制できちんと行った。(教官であるレイナードは除く。)
* * * *
翌朝、夜明けとともにダンジョン突入の準備を始めた。
実は、ダンジョンの中は洞窟なので外界の昼夜は関係ない。ダンジョン内の壁には常に光を放つ成分が含まれている事が多く、十分に休憩が取れた時点で、突入してしまって問題ないのであるが、準備がしにくい事もあり、明るくなってからのスタートとなった。
突入前に、まずは陣形の確認。
プリプリの三人は、サリのクラス(職能)は「剣士」、メグは「魔法使い」、ナオミは「神官」だそうだ。
魔法使いは攻撃魔法、神官は回復魔法や聖属性魔法が得意な職業である。当然サリが前衛、メグとナオミが後衛となる。
サリと一緒にギャビンが前衛をやると張り切っている。ギャビンのクラスは「戦士」である。
ギャビンがリューのクラスを尋ねた。
リューは「クラスはない」と答えた。「専門のクラスはないが、何でもできる」とリューは言ったが、それを遮るようにギャビンが言った。
ギャビン 「噂は本当だったんだな! みんな、コイツの噂、知ってるか? 万年レベル1のGランクだったそうじゃないか。クラスも加護もなし、魔力もないから魔法も使えない。だから3年も薬草摘みしかできなかったんだってよ! それで薬草の先生やってたわけか!」
リュー 「ん?まぁ、だいたいそんな感じだがな。」
ギャビン 「大体Gってなんだよ、普通Fからスタートじゃねぇのか?!」
サリ 「リューはFランクでしょ?」
ギャビン 「最近ようやくFランクに合格したらしいぜ! それで、ダンジョンに挑戦するために研修を受けてるってわけだ! 三年居るからって偉そうな態度とってやがるが、実力はたいした事はないってことだよ!」
メグ 「あんただってFランクじゃないか。」
ギャビン 「俺はFランクでも実力はDランク並だ、ダンジョンにだって潜った経験がある! 三年も掛かってやっとFランクになったような奴とは違うんだよ!」
ギャビンは、リューはもう参加しなくていいと言い出す。
そうも行かないので、とりあえず、リューは後衛のそのまた後ろの最後尾に居て、背後から攻撃されるのを警戒するという事で落ち着いた。
リューは「危なくなったら手伝うぞ?」と言ったのだが「何もしなくていいから黙って見ていろ」と譲らないギャビン。
まぁ、元から四人でやるつもりだったのである。リューが抜けて代わりにギャビンが入る分には問題ないだろう。
女の子達もリューにクラスがないと聞いてちょっと不安になった部分があったので、性格はともかくとして、戦士のクラスを持っているギャビンと交代する事を了承した。
スカウト(斥候)あるいはシーフ(盗賊)が居ないパーティであるが、最初の2~3階層程度ならなんとかなるはずである。
ギャビンは、リューは絶対手を出すなと言い張るが、まぁ、いよいよ危ないとなったら見捨てるわけにもいかないのであるが。。。
* * * *
そして、ダンジョンに入った一行。
入ってすぐに3匹のゴブリンに遭遇したが、前衛の二人が一瞬で斬り伏せた。ゴブリン程度ならばサリとギャビンなら問題ないようである。
その後もポツポツとゴブリンが出現する程度で、余裕で撃破しながら一行はどんどん奥に進んでいった。
討伐証明部位と魔石を採集し、クエストは無事完了である。
自分の活躍を自慢しながら歩くギャビン。
後ろから
サリ達も心なしか、何も仕事をしないリューに残念そうな顔を見せている気がしたが、リューは特に気にする様子もなく、煽るような事を言われても怒ることもなく、素直に前の四人の活躍を褒めるのであった。
* * * *
だが、ダンジョン1階層目の中程を過ぎたあたりで、突然、様子が一変した。
魔物に遭遇する確率がどんどん高くなっていき、ついには休む間もなく連続して魔物と戦闘し続けるような状態になったのである。
出てくる魔物もゴブリン、コボルト、オークなど、どんどん種類が増えていく。上級種も混ざって現れ始める。
それでも魔物を撃破し続ける四人。
サリとギャビン二人の前衛が敵に突撃し、敵を倒し、時間を稼ぐ。ナオミはその後ろから防御魔法・支援魔法で補助、その間にメグが魔法の詠唱を完了し、強力な魔法を放っていく。
Fランクとしては、かなり優秀なパーティと言える。
リューは事前に全員のランクを神眼で確認していたが、
サリ:レベル11
メグ:レベル11
ナオミ:レベル12
という事だった。
そしてギャビンはレベル15であった。Dランク相当というのは言い過ぎであったが、Fランクとしては、全員かなり優秀と言えるレベルである。口だけではなくそれなりの実力があるようだ。
だが、休む間もなく連続での戦い、さらに出現する魔物の数もレベルもどんどん上がっていく状況では、徐々に苦戦を強いられるようになってしまう。
そしてついに、オークロードが登場するに至って限界を迎えてしまうのであった。
F~Eランクの冒険者にとっては、オークロードはやや荷が重い相手であった。。。
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
ダンジョンを脱出するパーティ、しかし、もうすぐ出口というところでギャビンがやらかす?!
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます