第50話 ダンジョン撤退

どうも、ダンジョンの様子がおかしい。

 

まだダンジョン1階層目であるにも関わらず、モンスターの出現率と出現数が多過ぎるのである。

 

それでもオーク軍団までは前の四人だけで仕留められていたのを見れば、この四人はかなり優秀であると言えた。

 

だが、オークロードが出てきたところで空気が変わった。E~Fランクの冒険者にオークロードはやや荷が重い相手である。

 

リュー 「手伝おうか?」

 

メグ 「お願「いらねぇ!!」」

 

メグの声をギャビンが遮る。ギャビンが何故そうまで意地になるのかリューには理解できないのだったが。

 

それでも最初のオークロードをギャビンは苦戦しながらも倒してみせた。かなり優秀と言える。

 

だが、次の瞬間、オークロードが十匹、手下のオーク軍団数十匹を引き連れて出てきた。

 

声も出ず、呆然としているギャビン達。

 

この時点で限界と判断し、リューが前に出た。そして次の瞬間には、パーティの前にいたオーク、オークロードの首は全て斬り落とされていた。

 

サリ 「え?」

 

メグ 「今の、何?」

 

リューは、皆に分かりやすいようにゆっくりめに動いて剣でオーク達の首を刈ったのだが、それでもレイナード以外にはあまりよく見えなかったのであった。

 

かろうじて、剣を持ったリューが前に立っていた事から、リューがやったのだと推測できたようであったが。

 

さらに、続けて魔物が襲いかかってこようとするが、リューが次元障壁のバリアをパーティの周囲に張り巡らせて押し留めた。

 

リュー 「限界だろう、それに何かおかしい。引き返すぞ!」

 

ギャビン 「うるせぇ、偉そうに指示するな! 俺はまだ行ける!」

 

リュー 「他のメンバーは限界のようだぞ? お前一人で行くなら勝手にしろ。」

 

そう言われ、仲間の様子を見るギャビン。

 

リューのバリアのおかげでやっと一息つけたメグとナオミは、膝を着き、リュックからマジックポーションを取り出し飲んでいた。

 

サリもポーションを取り出して飲みながら、ギャビンにもポーションを一本差し出してきた。

 

レイナード 「撤退したほうがいい、ちょっと初心者には荷が重いダンジョンであるようだ。」

 

ギャビン 「畜生……。てかなんなんだオマエ? 実力を隠していたのか?」

 

リュー 「別に隠していたつもりはないんだがな。パーティのメンバーが優秀すぎて出番がなかっただけだよ。」

 

ナオミ 「リ、リューが居れば、もっと奥に進めるんじゃないの?」

 

レイナード 「これはあくまで研修だ。お前たちが倒せない魔物をリューが一人で片付けながら奥に連れて行ってもらっても意味がないだろう?」

 

 

   *  *  *  *

 

 

撤退を開始した一行。

 

レイナードが先頭、殿(シンガリ)はリューで、もと来た道を引き返す。

 

それほど複雑な迷路でもなかったので道に迷うことはなかったが、帰りはさらに出てくる魔物の数が多い。

 

まるでダンジョン全体がモンスターハウスになっているかのようである。

 

帰り道に立ち塞がる魔物達を、レイナードがすべて倒しながら進む。

 

研修なのだから、たまには、打ち漏らしたフリをして後ろに送ってギャビン達に処理させればいいのにとリューは思ったが、そんな気遣いはレイナードにはないようである。

 

本当は指導員は手を出さないはずであったが、異常事態からの脱出なのでやむを得ないだろう。ただの研修である、ダンジョン研修の結果で合否が出るという話でもない。

 

レイナードが妙に嬉しそうな顔で暴れているように見えるが、リューは気のせいという事にしておいた。

 

後ろからも大量の魔物が追ってきていたが、リューが後方に次元障壁を張っているので攻撃を受けることはない。そうしてダンジョン出口に近づいて行くにつれ、魔物たちは散り散りに姿を消していった。

 

本当は、リューならば全員を転移でダンジョンの外に脱出させる事も可能である。あるいは、障壁を展開したまま一切交戦する事なくダンジョンを出る事や、あるいはダンジョン内の魔物を一掃してしまう事なども可能であったが。

 

だが、レイナードが久々のダンジョンで暴れたがっているのがリューには分かっていたのと、せっかくの研修なので、ダンジョンから撤退するところまでちゃんと体験するという意味で、普通に歩いて出ることにしたのであった。

 

    ・

    ・

    ・

    ・

    ・

 

― ― ― ― ― ― ― ―

ダンジョン出口に向かって進んでいく一行

 

だが、ダンジョンに入る前の悪い予感が的中する。ギャビンがやらかしたのである。

 

ダンジョンの出口がやっと見えたところで、通路の壁に扉があるのをギャビンが見つけた。入ってくる時にはこの扉はなかったので、出る時にしか出現しないのかも知れない。

 

出口が近くなり、またレイナードが魔物を全て倒してしまうので手持ち無沙汰であった事もあるのだろう、ギャビンは止める間もなく扉を開けて中に入ってしまったのであった。

 

だが

 

入ってすぐの床が落とし穴になっていた。

 

間抜けな悲鳴を上げながら落ちていくギャビン。

 

サリ達が部屋の中を覗いてみると、中は小部屋になっており奥に宝箱が置いてあるのが見えた。

 

宝箱に目がくらんで中に不用意に入ると落とし穴に落ちてしまう仕組みである。と言っても慎重に行動していればそうそう引っかかる罠ではないが、ギャビンは見事に嵌ってしまった。

 

リューは即座に神眼で落ちた先を確認する。

 

どうやら小部屋の下にもうひとつ部屋があり、ギャビンはそこに落ちただけのようであった。

 

だが、その部屋の中に無数のモンスターが居るようである。

 

ギャビンを見捨てるわけにもいかないので、リューはギャビンを助けるため、即座に転移で下階の部屋の中に移動したのであった。

 

 

   *  *  *  *

 

 

ギャビンが落ちた部屋の中

 

ギャビンを取り囲む無数のモンスターは、大量のオーガであった。

 

オーガは一匹でも危険度ランクBの魔物である。それが大量に居る。

 

ダンジョン出口を前にして、オーガの大群が出てくるなど、冒険者を皆殺しにして絶対出さないつもりであるかのような凶悪な罠であった。

 

だが、なんだか様子がおかしい。

 

オーガ達は、部屋の中央を広く開けるように壁に寄って立っていた。そしてその中央の広場で、二体のオーガが殴り合っている。

 

まるで地下ファイトクラブである。

 

なんなのだ、ここは???

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

オーガの群れの中に落ちてしまったギャビンとリュー。

オーガ相手にギャビンは歯が立たない。

オーガと戦うリュー、その時ギャビンは?

 

乞うご期待!

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る