第211話 村長「正直スマンかった…」

ネリナに言われた通り、リューはセッタ村に向かっている。


転移で移動しようか、と一瞬考えたが、今はヴェラも一緒であるし、なるべく時空チートは遣わないで冒険者をしようと決めたのだから、馬で移動する事にした。別に、勇者の件はリューにとってそれほど重要な問題でもない。伯爵より先に王都に着いてしまっても問題がある、急ぐ必要はないだろう。(まぁ先に着いたら着いたで王都を観光して時間を潰していればいいのだろうが。)


リューが転移を使える事は、ヴェラは薄々感づいていそうだが、特に何も言わない。なんで彼女が自分についてくるのか、いまいちリューにはよく分からない。


恋愛感情……? は、ないように思う、お互いに。


まぁ、構わない、不思議とリューもヴェラと一緒に居ることはあまり違和感を感じないので、深く考えるのはやめる事にした。


勇者のほうも、何なら神眼と転移でとっ捕まえてしまう事もできるのだが……、ネリナが言っていた通り、捕らえた後拘束して王都まで護送する方法を考えるのが面倒なのでその案は却下となった。勇者自身が王都に向かっているのだから、放っておけばいい。


もちろん、リューとしても、勇者達を拘束しておく方法をいくつか考えたりはしてみたのだが……


例えば、次元障壁の檻に入れておけばどうか? だが聖剣の力で次元障壁を破壊できるなら逃げられてしまうだろう。次元障壁を手枷足枷のように使って拘束しておけば? 勇者はいちいち手を天に掲げて聖剣を生成していたようなので、手足を拘束してしまえば聖剣を生成できない可能性はあると思ったが、バイマークの冒険者ギルドでボコられて居た時、手を翳さなくても勇者の鎧を生成していた事を考えると、ポーズは関係なさそうだ。


亜空間の中に閉じ込めてしまったらどうか? それも次元を超える力を聖剣が持っているとしたら通用しないだろう。


一番いいのは、ずっと眠らせておく事か。だが、そんなスキルも技術もリューにはない。睡眠薬か麻酔薬をどこかで用意してもらえば可能かも知れないが、そんな時間はない。


だが、強力な睡眠薬のようなモノがこの世界にもあるなら、今度用意しておいてもいいかも知れない。転移で胃の中に直接放り込む事もできる。もしそれが液体なら、リューがその気になれば血液の中に直接それを送り込む事さえ可能だろう。頸動脈を止めるより長く相手を行動不能にできるのだから、考えてみたら、結構使い勝手が良い方法かも知れない。頸動脈ブロックで気絶させる事もできそうだが、一歩間違うと脳死させてしまう事になるので、間違って死んでしまっても良い相手にしか使えないのである。


結局、色々考えたが、やはり、決定打はないのであった。あとは、魔力分解で勇者の権能そのものを分解してしまう事はできないか? そればかりはやってみないと分からない。次に勇者と対決する機会があれば、試してみようと思うリューであった。




バイマークからセッタ村までは馬で半日という距離である。考え事をしている内にセッタ村に着いてしまった。


村に着いた二人は早速、一人ギルド出張所のスーザンを探す。それほど広い村でもないので、スーザンはすぐに見つかった。


リュー「勇者が何かまた問題を起こしたって?」


スーザン「ええ、村長を刺して、消えてしまったわ」


スーザンは事の顛末をリューに説明した。そして、事件の後半部分を、映像記録用の魔導具で撮影してあるので、王都に行くなら証拠として持っていくように言われた。その映像には、少女を暴行して殺した事を責められた勇者が村長を刺し、さらに理不尽に村人を皆殺しにしようと発言するシーンが記録されていたのだった。


勇者に刺された村長は、聖女によって治療され即死は免れたものの、聖女が治療を完了する前に転移で移動してしまったため、応急処置程度の状態で、結局その後危篤状態になってしまったと言う。


慌ててリューとヴェラが駆けつけた時には、村長はすでに事切れた後であった。ヴェラが慌てて治療しようとするが、さすがに、死んだ後では治癒魔法をいくら掛けても生き返りはしない。


リュー「代わろう」


そう言うとリューヴェラと代わり、村長に向けて手をかざした。村長の肉体の時を刺される前まで巻き戻す。村長は死んだ直後であったため、まだ幽体が完全に肉体と分離していない状態であった。その段階であれば、時間を巻き戻すことで生き返らせる事ができるのは以前確認済みである。


ヴェラ「あなた、死んだ人間を生き返らせる事までできるの?!」


リュー「さすがに死んだ人間を生き返らせる事は俺だってできんさ。まだ完全には死んでいなかったから、肉体を修復したら、戻っただけだよ」


ヴェラ「私の治癒魔法はもう効果がない状態だったわ」


リュー「俺のは治癒魔法ではないからな、物体の状態を元に戻すだけ」


そう言うと、リューは部屋に置いてあった空の花瓶を割り、再び元の状態に戻してみせた。


ヴェラ「…それ、とんでもない能力だと思うんだけど……」


リュー「内緒だぞ?」


村の看護婦も諦めて出ていった後だったので、部屋にはリューとヴェラ以外居ない状態だったので、誰にも見られてはいない。が直後にスーザンが部屋に入ってきた、危ないところであった。


その時、村長が目を覚ました。


村長「あ、れ? ワイ、助かったんか?」


スーザン「この二人が治癒魔法を使って助けてくれたのよ」


村長「自分ら……確かあん時の冒険者のガキ……」


リュー「体は完全に治っているはずだ、もう寝ている必要もないぞ。じゃぁ俺たちは行くぞ」


村長「待ちや……」


部屋を出ていこうとするリューとヴェラ。だが、村長がそれを止めた。


村長「わいは、どうやら勘違いしとったようやな……妻と娘を殺したんは冒険者やなかった、勇者やったんや。それなのに、わいはずっと、冒険者を目の敵にして、勇者に期待してた。ドアホやな、わいは。


それなのに、わいを助けてくれたんは冒険者の二人やった、しかもずっとわいが罵倒しとった二人や。先日村を救ってくれたんもバイマークの冒険者達やったな。おおきにな、そしてすまんかった。何を意地になっとったんか……この通りや、堪忍したってや……。


村ん人間達にも詫びなければあかんな、わいは村長をやめる、そして村を出ていくわ……」


リュー「村の事は村で勝手に話し合ってくれ。俺はこれから王都に行くんだ。アンタの妻と娘を殺したというその勇者を断罪するためにな。あんたの分もきっちり罪を上乗せしてやろう。他にも勇者に奪われた命は多いようだ。まともに裁かれれば、死刑は免れんだろう」


村長「ほんまか……!」


リュー「王がまともな人物なら、な。どうなるかはまだ分からんが、まぁ、期待せずに待ってるがいい」


リューとヴェラは王都を目指してすぐに村を発ったのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


王都に入場しようとしたリューは、いきなり衛兵に捕らえられてしまう


乞うご期待!



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