第467話 伯爵からの依頼
翌日、リューは再び伯爵の屋敷を訪れていた。伯爵に呼び出されたのである。
執事に案内され、伯爵の執務室に向かう途中、廊下でライーダにばったり会ってしまう。
ライーダ 「あら、昨日の無能な探偵じゃない。何かまだ用が?」
執事 「旦那さまがお呼びになられたのです、ライーダ様とは関係ございません」
ライーダ 「ふん、相変わらずの態度ね。見てらっしゃい、そのうち……」
睨みつけるライーダを無視して執事は行ってしまったので、リューも慌てて後を追った。
* * * * *
伯爵 「済まなかったね、また来てもらって。実は、調査を頼みたい事があってね。妻のライーダについてなんだが…
…君はどう思った?」
リュー 「…どう? とは……?」
伯爵 「若いだろう? よく親子と間違えられる。いい歳をして、あんな若い娘を嫁に貰って、好きものだとでも思ったか?」
リュー 「別にそんな事は。愛があれば歳の差ナンテ関係無インジャナイデスカネ?」
伯爵 「愛があれば、な……。アレも、口では私を愛しているなどと言う。だが、態度を見ればそうではない事は瞭然だ。手を触れるのも嫌がるのだからな。まぁ仕方がない、なにせ、結婚の条件が、寝室も別、口づけもしない、一切身体に触れないというものだったのだから…」
リュー 「へ? そんな条件、結婚していると言えないような…?」
伯爵 「なぜそんな条件の結婚をしたのかって?
…儂は長いこと独身でな。一生独身でもいいかとも思っていたのだが。
実は先日、父が亡くなってな。父はもう九十を超えていたのだが、死ぬ前に言ったのだよ。人生、やりたい事を全部やっておいたほうがいい、冒険したほうがいいとな。
九十まで生きてみて、人生を振り返って見ると、後悔は、すべて “もっと冒険すれば良かった” “もっと色々な事に挑戦すればよかった” という事だったと、私に語ったのだ。
それを聞いてな。私ももっと色々な事を経験してみたくなったのだ。ついでに、結婚も、一度くらいしてもいいかと思ったのだよ」
伯爵はニヤリと笑いながら言った。
伯爵 「アレに愛がないのも、裏で何か邪な事を考えているのも最初から分かっていた。だが、人生最後に、そういうゲームも面白いかと思ってな、使用人たちが止めるのも効かず、結婚した、というわけだ」
リュー 「はぁ……」
伯爵 「愛がない、むしろ自分を嫌っている若い女を、果たして自分が振り向かせる事ができるか? というゲームだ。
伯爵の仕事、領地の運営や国の政に関する事については、積極的にこなしてきたし、十分貢献してきたと思う。
だが、仕事に精を出しすぎた分、自分の私生活については何もしてこなかったのでな。
私の人生もあとは隠居生活が待っているだけだ。ならば、今度は人生のゲームも少しは楽しんでみようかと思ったのだよ。
まぁ、この歳まで貴族社会で生きてきて、男女の間に真実の愛などない事も分かっているが。
私は若い頃から仕事に忙殺されていて、恋の駆け引きなどしたことがなかったからな。それをやり直してみたかったのだよ。
そうなると、年齢相応の相手ではつまらん。若い時にできなかった恋愛をするのだから、若い娘のほうがいい。歳はとったが、まだまだ気持ちは若いつもりだからな。
まぁそんな事言う爺は、若い娘から見れば気持ち悪いと思うだろうがな。
ところが、たまたまタイミングよく縁談が持ち込まれてな、しかも、先方の娘も妙に乗り気だったのだよ。まぁ下心はありありだったが、あえて乗ってみたというわけだ」
リュー 「だが、後悔した…、と?」
伯爵 「いや、後悔はしていない。それなりに楽しんでいるよ。しかし……
…ゲームは中断せざるを得ないようだ。
実は、先日、王に会ってな、重大な頼み事をされてしまったのだ」
リュー 「エドワード王と親しいのか?」
知っていてわざと聞くリュー。話に出してしまえば、今後堂々と話せるようになる。知らないはずの事を色々と知っているというのは、なかなか話しにくい。
伯爵 「ああ、彼の事は生まれた時からずっと支援してきた間柄なのだよ」
執事 「旦那様? 怪しげな男にあまりそういうお話はされないほうが…」
伯爵 「構わん。仕事を依頼するのだ、情報は正しく知っていて貰わないと困る」
執事 「ですが、この男は……
このような得体の知れない者に、伯爵家の内情や王との関係などを話すのは、危険ではないかと」
執事の妙な言い方が気になって、執事の心を覗いたリューは、昨日の首輪を拾ったフリをした件がバレていて、執事にかなり怪しまれているのを知り、少し焦るのだった。
だが、伯爵は全然気にしていない様子であった。
伯爵 「大丈夫だ。実はな、この者を紹介してくれたのはエド王なのだよ」
執事 「え?!」
伯爵 「実は、エド王に内政を助けてくれと依頼されてな。王もこれから大変であろうからな、力になりたいと思う。そんなわけで、隠居して遊んでもおれんので、ライーダについては、早急に決着を付ける事にした」
執事 「…あの女を追い出すのは我々としても大賛成ですが」
伯爵 「彼の事はエド王から色々と聞いている、信用して良い。それとも、王の言う事が信用できないと?」
執事 「いえ、そのような事は……差し出がましいことを言ってしまい、申し訳有りませんでした」
伯爵 「話は戻るが……リュージーン。王はリューと呼んでいたな、私もそう呼んでいいか? 実はな、アレの浮気調査を頼みたいのだ」
リュー 「浮気、ですか…」
昨日ライーダの心の中を覗いて浮気しているのを知っていたリューであったが、まさかその調査を伯爵から依頼されるとは思っていなかった。
伯爵 「お恥ずかしい話だがね。アレが浮気しいてるのは間違いない。それだけじゃない、どうも、この伯爵家を乗っ取ろうと、色々と影で画策しているようでな。儂に毒を盛ろうとしたりもしていたようだ。殺しはしないが廃人状態にして家を牛耳ろうというわけだ。だが……我が家の使用人が優秀だからか、いまのところ、すべて失敗に終わっているようだが」
執事 「やり方が稚拙過ぎましたからな。
しかし、伯爵がその気になって頂けたのは僥倖にございます。あの女を追い出しましょう。
なんなら、殺人容疑であの女を告発しましょう。我々が証言致します。証拠が必要であれば、伯爵家直属の諜報部隊に任せましょう。
何も、このような、礼儀もなっていないような怪しい者に頼まずとも、我々にお任せ下さい」
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次回予告
ライーダの心の沼深くへとダイブ!
乞うご期待!
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