第577話 まずいぞ?!

村の住人も完全に寝静まった深夜。シミラはそっと宿を抜け出し、孤児院に向かった。


村には街灯などない。曇り空の夜ともなれば、完全に闇の中であった。だが、シミラは灯りも持たずに迷いもなく村の中を進んでいく。実はシミラには【夜目】というスキルがあり、暗闇の中でも目が見えるのだ。(オイレンがシミラを指名したのはそのためであった。)


やがて、孤児院の門まで辿り着いたシミラ。だが当然、門は閉ざされている。


シミラ 「当たり前か。叩いて開けてもらうわけにも行かねぇし……まぁ、塀でもいいって言ってたし、ここでいいか」


シミラは懐から油を取り出すと門に掛けた。そして、火起こしの魔道具を取り出したが、その時、肩をポンポンと叩かれる。


シミラ 「ん?」


シミラが振り返ると……そこには誰も居ない。


シミラ 「気のせいか?」


再び門に火をつけようとするシミラだったが、また肩を叩かれる。


だが、シミラが振り返ると、やはり誰も居ない。


再び門のほうに向いた時、シミラの前には、白い骸骨が立っていた。


シミラ 「おおう! ビックリしたなぁおい…」


もちろん、立っていたのはリューの土地を警備しているスケルトン兵士である。


シミラ 「うーん…、こんなところに骸骨が見える…。親分には大丈夫って言ったけど、さすがに飲みすぎたかなぁ…」


酔ったせいで幻覚を見ているわけではないが、深夜に骸骨を見てもシミラがそれほど恐怖を感じなかったのは、やはり酔っていたおかげであった。


実は、シミラが敷地に近づいて来た時にはスケルトン兵士は既に気付いており、後を尾けて見張っていたのだ。(スケルトン兵もまた、闇夜でも目が見える。)


シミラ 「さっさと仕事して帰って寝よう」


だが、今度は骸骨に手首を掴まれて火付けの魔道具を門に近づける事ができない。


シミラ 「おい、邪魔すんな? はぁなぁせよぉ~仕事ができねぇだろう?」


だが、そのままシミラはスケルトンの亜空間に引きずり込まれて消えていったのであった。




  * * * * *




パガルは平民の子供など、少し脅せばすぐに喋るだろうと思っていた。ましてや金も払うと言っているのだ、アメとムチ、両方与えているのだから、すぐにでもレスターは情報を喋るだろうと予想した。


そして、レスターが翌日すぐにパガルの居る宿を訪ねて来た時は、やはりとほくそ笑んだ。


昨晩、脅しの火付けを行うとオイレンが言っていたのを聞いていたので、ビビって駆け込んできたのだと思った。


だが、レスターの返答はパガルの予想と反し、昨日と変わらず情報を教えるのは断るというものであった。


パガル 「昨日、親切にオイレンが警告してやったのに、理解できなかったのか? 次は小火ボヤじゃ済まんぞ?」


レスター 「?」


オイレン 「あ、いや、それがだな…」


オイレンが気まずそうにパガルに近づき、何か耳打ちをした。


パガル 「何だと……?」


昨夜送り込んだ部下が戻ってこなかった事をパガルに告げたオイレン。


シミラが朝になっても戻ってこなかったため、オイレンは別の部下に孤児院の様子を見に行かせたのだが、孤児院は無傷。特に騒ぎが起きている気配はなかったとの事であった。


パガル 「冒険者に見つかって殺られたか……? まさか、生け捕りにされて衛兵に突き出されたなんて事はないだろうな? だとしたらまずいぞ!」


オイレン 「いや、衛兵の詰所と冒険者ギルドの様子も探らせたが平穏そのもの、特に不審者が突き出された様子はなかったそうだ。おそらくシミラは消されたんだろう…」


ヒソヒソ話を続けるパガルとオイレンに痺れを切らしたレスターが声をかけた。


レスター 「…もういいかな? 答えは伝えたから。もう帰るよ」


パガル 「はっ…待て!」


レスター 「まだなにか?」


パガル 「お前…貴族相手にそんな態度をとって、タダで済むと思ってるのか? 昨日も言ったがな、貴族の権力をもってすれば…」


レスター 「…それ、嘘だよね」


パガル 「何?」


レスター 「だってここはアレスコード辺境伯の領地だよ? 自分の領地でもないのに権力をふるうなんてできるの?」


パガル達は、相手は子供、貴族の力関係など理解できないだろうと侮って脅していたのだが、実はトナリ村の孤児院では子供達に英才教育を施している。なにせ、孤児院のオーナーと運営者が日本の学校教育を経験した記憶のあるリューとヴェラなのだ。さらに、他の街の貧しい孤児院とは違い、子供達が働く必要もない。毎日授業を行い、十二分な知識を身につけていたのだ。


当然、レスターもここがどの貴族の領地であるかくらいは知っていたのである。


そして、レスターが言った事は図星であった。


トナリ村は、パガルの実家であるヒムクラート子爵家の領地ではない。今や辺境伯まで出世したアレスコード家の領地である。


他の(ましてや格上の)貴族の領地で権力をふるうなど、実は少々無理のある話であったのだ。


しかも、相手は長年、実家のヒムクラート家とライバル関係にあったアレスコード家である。もしこの事がアレスコード辺境伯の耳に入ったなら、まずい事になる。


しかも、アレスコードの出世についてヒムクラート家はかなり神経を尖らせていた。そのアレスコード家とトラブルを起こしたと実家に知られれば、パガルの立場が悪くなる可能性も高いのであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


レスター受難


乞うご期待!


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