第578話 レスター受難

パガル 「たったとえっ! とっ隣の貴族だろうと! 貴族が平民に対して権力ちからを振るうのはいーんだよ!」


レスター 「それも嘘だよね? ヒムクラート家は、長年アレスコード家を敵視してきたって聞いたよ? アレスコード家は相手にしてなかったみたいだけど? でも、ヒムクラート家の人間が、自分の領地で好き勝手してるって聞いたら、さすがにどう思うかなぁ…?」


オイレン 「…やはりシミラは捕らえられたか……」


レスター 「シミラって?」


パガル 「…惚けやがって……」


レスターは本当に、夜中放火にやってきたシミラの事など知らなかったのだが。スケルトン兵達が処理した不審者の事を孤児院の子供達にいちいち伝える事はないので、知らないのは当然である。


だがパガル達は、レスターが、『シミラをアレスコード辺境伯に突き出されたくなかったら引け』と脅していると、勝手に勘違いしたのであった。


パガルは真っ赤になって怒っていたが、結局、それ以上は何も言えず。


オイレン 「…はっはっはっ大したガキだぜ。貴族を脅すとはなぁ! ここは俺たちの負けだ、一旦引いたほうがいいぜ、坊っちゃん?」


パガル 「ぐぅ・・・」


結果として、レスターは無事、パガルを引き下がらせる事に成功、パガルはすごすごとヒムクラート領へと帰る事となったのであった。ヒムクラート家は、今、アレスコード辺境伯と事を構えるわけにはいかないのである。


パガル 「くそっ! くそっ! くそっ! どうして俺が逃げなければならないんだ!」


アケル 「仕方ありません。ヒムクラートの領地を接収してアレスコードに与えるのではないかと噂がありますからな。今のところはそのような話は公には出ていない、噂に過ぎませんが、ここで下手に問題を起こせばどうなるか……」


アレスコードは、グリンガル侯爵と敵対し、圧力を掛けられても挫けずにエド王を支持し続けていた行動が評価され、子爵から辺境伯に大出世した。だが、爵位は上がったものの、現在までのところ、特に領地加増などの報奨は受けていないのである。


いずれ、なんらかの報酬が与えられるだろうと言われていたが、その最有力候補が、隣の領地でありグリンガル派であったヒムクラート子爵の領地なのであった。


アケル 「もし、父上であるヒムクラート子爵にアレスコードでパガル様が問題を起こしたと知れたら、真っ先にパガル様が切られる事になりますよ? 幸いにも挙兵が遅れてクーデターに参加できませんでしたので、なんとか誤魔化して難を逃れておりますが、ヒムクラート家がグリンガル派であった事は周知の事実。エド王の信頼の厚いアレスコードを下手に刺激してやぶ蛇にでもなったら…」


パガル 「だが、俺には時間がないんだよ。このまま結果が出せなければどっちにしても父上から切られる」


アケル 「切られると言っても、商売の結果が出なかった程度であれば温情は与えられると思いますよ。ですが、領地替えのきっかけを作ったとなったら…。先祖代々受け継がれてきた領地を失うとなったら、文字通り、父上に剣で斬られる事になりかねませんぞ?」


そう言われれば、パガルも大人しく従うしかないのであった。


アケル 「大丈夫です、ヒムクラートの人間が関わっていなければ問題ないわけですから、後はオイレンに任せましょう」


パガル 「オイレンに?」


アケル 「ええ。さすがに、脅されておめおめ引き下がったままとあっては、ヒムクラート家の沽券に関わりますからなぁ。あのクソガキ…、そして平民共には、貴族に逆らうとどうなるか、キッチリと分からせる必要があります」






そして…レスターがパガルを追い返してからら2日後の朝。


レスターはモリーに買い出しを頼まれ村の商店へと向かったのだが、店のある場所まで近道をしようと人目がない裏通りに入ったところ、背後から後頭部を殴られたのだ。


レスターは気絶したまま簀巻きにされ、荷物用馬車の荷台に載せられ村から連れ出された。着いた場所は、森の中のオイレン達のキャンプ地であった。(※魔境の森ではない。)そして、そこでレスターはオイレンとその部下達にリンチを受ける事になったのだ。


身体を縛られ抵抗できない状態で殴る蹴るの暴行を受けたレスター。


ただ、オイレンは命までは奪う気はなかった(アケルにも殺すなと言われていた)ので、部下達にも手加減するよう命じていた。


ただそれでも、部下達は仲間(シミラ)が消えた事について怒っていた事もあり、レスターにシミラがどうなったのか吐かせようと暴行を繰り返した。だが、レスターはシミラの事など一切知らないので何も答えようがない。


そして、一昼夜監禁暴行を受けた後、レスターは村に戻された。


オイレン達はそのまま村の宿屋へと戻っていく。何人かは森の中でキャンプ、何人かは村の宿を拠点にして、マンドラゴラの情報を探るよう指示されていたのだ。


デタル 「おい、分かってんだろうな?」


オイレンの部下の一人がレスターを乱暴に突き飛ばした。


レスターは答えず、ヨロヨロと村の中へと歩いていく。そして、昨夜戻ってこなかったレスターを心配したアリサに発見されたのであった。


アリサ 「レスター! どこに行ってた?」


素早くレスターの身体をチェックしたアリサ。しかし、特に怪我をしている様子はなかった。


村に戻る前、オイレンは治療薬ポーションでレスターの怪我を完全に治してから解放したからである。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ランスロット 「ニヤリ」


乞うご期待!



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