第576話 破落戸のやり方

アケル 「感謝する事です」


レスター 「?」


アケル 「ランクの高い冒険者と言っても、そのリュージーンという冒険者はただの平民だというではないですか? 平民ならば、貴族に命じられたなら、無償で情報を提供するのが本来当然なのです。それなのに報酬を下さるというのだから、とても良い話なのですよ?」


思わず『何いってんだコイツ?』という顔で見てしまうレスター。


アケル 「なんです…?


言っておきますが、貴族に逆らっても良い事など何もありませんよ? 貴族の権力ちからを持ってすれば、あなたの孤児院など、潰す事など造作もない事なのですよ? それを考慮に入れた上で、よく考える事です」


パガル 「おいおい余り脅すような物言いをするなよ。かわいそうに、少年がビビっているじゃないか」


レスター 「別にビビってなんかいないさ」


オイレン 「ああそうだな、ビビってはいないようだ」


アケル 「オイレン、黙っていろと言ったはずですが?」


オイレン 「いやぁ、ビビってないのが問題なのさ。確かに少年は、多少の緊張はあるようだが、比較的落ち着いた態度に見える。大したもんだ。だがそれは…


度胸があるというより、もしかしたら世間知らずなだけかもしれんぞ? だとしたら、執事さんが言ってる事を、ちゃんと理解してねぇ可能性があると思ってな。


おい、ガキ、マンドラゴラを納品している冒険者というのは、お前の孤児院のオーナーでもあるそうじゃないか? なに、それくらいはこっちでも調べはついてんだよ。場所も分かっている。


いいか、例えばだ。ある日突然、孤児院が火事になり、孤児達は全員路頭に迷う事になる、なんて事も、ないとは言い切れないんだぜ?」


そう言いながら凄みを効かせるオイレンだったが、やはりレスターにそれほどビビった様子はない。


レスター 「放火するって言うのか? そんな事、できるわけがないさ」


孤児院を含むリューの敷地はスケルトンの兵士が二十四時間警備しているのだ。そこに放火など許すはずがない。


オイレン 「ああ? ただのたとえ話だよ。俺達はそんな事はしねぇ、だから逆恨みはやめてくれよ? もし本当に火事が起きたとしても、犯人は、俺達じゃねぇ、別の誰かさ。


まぁ問題はそこじゃねぇ、いいか、憶えておけ。お前が『火事は放火だ、犯人は俺達が怪しい』と衛兵に訴えても、衛兵は対応してくれねぇって事をだ。


なぜかって? 貴族が関わっているからだよ。貴族が相手と聞けば、衛兵も見て見ぬふりをするしかなくなっちまう。貴族ってのはそういう権力ちからを持ってる相手だって事だ」


パガル 「なに、お前はコソッと場所を教えてくれればいいだけなんだよ、その冒険者にも、お前が言ったなんてバレやしないって。それに、教えてくれたらお前に金貨10枚やるぞ? どうだ? 孤児院の子供にとっちゃ、見た事もない大金だろう? その金が全てお前一人のモノになるんだぜ?」


マンドラゴラは金貨数十枚から数百枚で取引されるのを知っているレスターにとってはふざけた金額の提示なのだが、パガルは相手は子供だと思って分からないと思っているのであった。


レスター 「…僕の答えは決まってる」


パガル 「まぁそう結論を急ぐなって。すぐに返答しろとは言わない、よく考えて、また後ほど、返事を聞かせてくれたまえ…」


    ・

    ・

    ・


レスターを解放した後、オイレンも追い出し、パガルがアケルに言った。


パガル 「あんなガキ相手にしてないで、その冒険者に直接圧力掛けたほうが早いんじゃないのか? 平民なんだろ? 貴族の権力をちらつかせりゃぁ…」


アケル 「いいえ、相手は高ランク冒険者です。もしかしたら他の貴族とのつながりパイプを持っているかも知れません。ここ・・はヒムクラート家の権力が及びにくい場所ですから、無用なリスクは避けるべきでしょう。


マンドラゴラの植生地の場所さえ聞き出せれば、あとは先にこちらで収穫してしまえば良い事なのですから。もともと野にあるモノ、誰のモノというわけでもない、早いもの勝ちなのですから」




  * * * * *




その日の夜。オイレンは自分の部下達と酒を飲んでいたが、部下の一人、シミラを呼んで言った。


オイレン 「おい、お前、これから孤児院に行って火を着けてこい」


シミラ 「へ? これからですかい? いきなり? ガキの返事を待つんじゃねぇんで?」


オイレン 「バカヤロウ、脅しだよ脅し。あのガキ、俺達にはできっこねぇって言いやがったからな。本気だって事を見せてやらねぇとなぁ」


シミラ 「脅しって事は、本当には着けないんですね?」


オイレン 「ばか、火は着けろよ、ちゃんと! だがまぁ、母屋は避けて、外にある物置とか、塀とかにしとけ」


シミラ 「ああなるほど」


オイレン 「ヘマすんじゃねぇぞ?」


シミラ 「へぇい! じゃぁさっそく!」


オイレン 「ちょいまてぇ! まだ早えよ。もっと夜遅くなってからにしろ」


シミラ 「へぇ…、じゃぁもう少し」


さらに酒を注ごうとするシミラをオイレンが止めるが…


シミラ 「大丈夫ですってぇ! たとえ酔ってても、それくらいの仕事は、ガキの使いと同じようなもんでしょー」


そう言いながらオイレンのジョッキにも酒を注ぐシミラ。


オイレン 「…まぁ程々にしとけよ」


オイレンはそう言うと継がれた酒を煽った。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


シミラ 「骸骨が見える…。さすがに飲みすぎたかなぁ…」


乞うご期待!



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