第349話 疫病問題解決!

尋ねてきた貴族は女性で、テレス子爵と名乗った。(この国では女が爵位を得る事も可能である。)


テレス 「あなたが、スラム街の伝染病を治療した治癒士ですか?」


リュー 「まぁ、そうかな。治癒師ではないがな」


テレス 「良かった、お願いです、今すぐ一緒に来て下さい」


リュー 「断る。もうこれから街を出るところなんだ」


テレス 「そんな事を言わず、どうか、ジャスティン様を助けて下さい!」


リュー 「?!」


テレス 「ジャスティン様も伝染病に感染し、発症してしまったのです」


リュー 「あー、スラムに炊き出しとか行ってたもんなぁ……当然感染してるか」


相手は貴族である。別にリューが助けてやらなくても自力でどうにでもできるであろう。ましてや相手は今の所あまり良い印象を持っていないグリンガル侯爵家の人間である。普段なら気に入らない貴族の頼みなど断っていたかも知れないが……


ジャスティンは、多少価値観に問題はあるような気はしたが、スラムの民の権利を守ろうとしたり、スラムの焼き払いに反対し、炊き出しを行ったりと、一応、やっている事はまとも・・・だったので、見捨てるのもかわいそうかなとリューは思った。


リュー 「仕方がないな、行ってやるか」





   * * * * *




テレス子爵に案内され、グリンガル邸にやってきたリュー。ヴェラとモリーも一緒である。(治癒魔法が使えないミィは宿で留守番である。)


リュー 「こんな形でグリンガル侯爵縁の屋敷に来る事になるとは思わなかったな」


ヴェラ 「そうね、なんとなく、王様の関係でグリンガル侯爵とは敵対する立場になりそうな気がしてたしね。でも、疫病封じ込めのスラム街閉鎖ロックダウンとか、あながち間違いとも言えないわ。意外と真面目に領主の仕事もしているみたいね」


ジャスティンの寝室に通されると、ジャスティンは豪華なベッドで高熱を出し、もはや虫の息であった。【鑑定】してみると、案の定、ウイルスに感染している。


即座に【クリーン】でウイルスを除去。【ヒール】で悪化した身体の状態を回復させる。やったのはヴェラとモリーである。リューは二人に任せて後ろに控えていた。


ヴェラ 「もう大丈夫」


鑑定で治療が成功した事を確認したヴェラが言った。屋敷の執事がそっとジャスティンに話しかけると、ジャスティンは目を覚ます。


ジャスティン 「ん……


…ん? どうしたのだ? お前達は……?」


   ・

   ・

   ・


ジャスティ 「そうか……僕は、スラムからその病気の元を外に持ち出してしまったのか……」


ヴェラの説明で自分のした事を理解したジャスティン。


それは、善意と無知から来る行動であったのだが……それはつまり、ウイルスをスラムに封じ込めておく事に失敗したと言う事でもあった。


せっかく父親であるグリンガル侯爵の指示で、パンデミックが起きているスラムを閉鎖して封じ込めを行ったのに、ジャスティンは炊き出しのためにスラムに何度も出入りしてしまっていた。そして、スラムから貴族街へ、そして一般庶民の街へとウイルスを持ち込んでしまったのである。


案の定、鑑定してみたところ、屋敷の者達にもかなり感染が広がり始めていた。体調を崩し仕事を休んでいる者も居ると言う事なので、すでに感染は街に広がっているかもしれない。このまま放置すれば、街全体に感染が広がっていくのは時間の問題だろう。


ジャスティン 「なるほど、その、ういるす というのが病気の原因なのだな? 【ヒール】では病気の症状は改善しても原因はそのまま、それどころか原因が元気になってしまうので、何度治療しても再発してしまったのか……


で、その “ウイルス” を【クリーン】で排除してやれば病気は治る、解決できるのだな?」


ヴェラ 「そうですね。普通の風邪なら【ヒール】で体調がよくなって免疫力が高まれば、ウイルスも体内の抗体が殺してくれるので病気は治るのだけど。今回のウイルスは、人間の自然な抵抗力では殺せないほど強力・凶悪だったみたいですね」


ジャスティン 「分かった、【クリーン】が使えるものを集めて “除染” を行う事にしよう! 貴重な情報をありがとう、助かった! 礼を言うぞ!」


リュー 「なに、礼はいらんよ、情報料をくれれば。あと、治療費もな」


ジャスティン 「お前はあの時の? そうか、こちらの聖女達のマネージャーか?」


リュー 「まぁそんな感じの理解でいいぞ」


テレス子爵 「おい! さっきから聞いていればなんだその口の聞き方は! 無礼であろうが!」


リュー 「ああ、すまんな、俺は敬語が使えない呪いに掛かってるんだ、言葉遣いは気にしないでくれると助かる」


ジャスティン 「ほう! ならば仕方ないな!」


リュー 「理解が早いな。助かる」


テレス 「ジャスティン様、そんな甘い事では示しがつきません!」


ジャスティン 「言葉だの礼儀だの、今はどうでもよい。今は疫病を終息させるのが最優先だ! はやく【クリーン】が使えるものを集めよ! それから、情報を公開して、体調が悪い者もそうでないものも【クリーン】を使って感染していないか確認するよう指示するのだ」


ヴェラ 「【クリーン】はウイルスを殺すイメージを持って使わないとダメですよ」


ジャスティン 「それだ、それも伝えるのを忘れるでないぞ。早く行け!」


テレス 「は!」


ジャスティン 「聖女様方、この度は多大なご助言とご助力、感謝いたします。おかげで街は救われた……」


リュー 「ああ、スラム街の除染は終ってるので、その分の経費ももらえるかな?」


ヴェラ 「ああ、アタシが無理に頼んだ事だから……なんかごめん。それはアタシが払うわ…」


リュー 「いや! 領主に払わせるべきと言ってる奴が後ろに居るんで」


ランスロット 「当然でしょう」


リューの背後の影からランスロットが出てきた。


ランスロット 「もともと、リューサマ達が街の人間を助けてやる義理などなかったはず。それは街を治める者の当然の責務しょう。それを代行しただけですから。お金で解決するなら安いものだと思いますよ?」


ランスロットがどこから出てきたのかとジャスティン達もギョッとした顔をしていたが、その時、先程屋敷を出たはずのテレスがまた部屋に駆け込んできた。


テレス 「ジャスティン様、大変です!」


ジャスティン 「どうしたテレス? 先程指示した事はどうした!」


テレス 「それは配下の者に手配いたしましたが、そんなことより! スラム街が衛兵によって焼き払われています!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


スラム大火災?!


乞うご期待!



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