第350話 スラム炎上
ジャスティン 「なんだと!? それは中止させたはずだ!」
テレス 「それが、領主様直々の命令だそうです!」
ジャスティン 「父上(グリンガル侯爵)が来ているのか!?」
テレス 「いえ、侯爵様はお越しになられてはおりません、指示を出したのはオリゴール殿、現場で指揮をとっているのはレンツォ殿だそうです」
ジャスティン 「とにかく、止めさせねば! 馬を用意しろ! ええい、パジャマで行くわけにはいかんか、テレス、先に行ってやめるよう伝えておけ!」
テレス 「は!」(テレス退室)
ジャスティン 「お前達も助力には感謝する! だが急ぎの用ができたので、話はまた今度にしてくれ!」
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リュー 「……仕方ない、俺たちも行くか。せっかく助けたアイシャ達を殺させるわけにもいかん。ヴェラとモリーは宿に戻っていてくれ」
ヴェラ 「私達も行くわ」
モリー 「私も行きます」
リュー 「そうか?」
廊下を歩きながら転移を発動したリュー。一瞬にして周囲の景色がスラム街の入口付近の町並みに変わる。
だがそこは、火の海であった。
周囲の建物がみな炎上しているのだ。
リュー 「まだ入口部だけ、スラムの奥には被害は及んでいないようだな」
ヴェラ 「消す!」
ヴェラが魔法を発動、巨大なウォーターボールを燃えている建物に向けて放つ。だが、火は消えたが、建物もぶつけられた水球の威力でバラバラになってしまった。スラムは安普請の建物が多いのだ。
ヴェラ 「あ…らあら、どうしましょう」
既に避難したのであろう、建物の中に人の気配はないのは幸いであった。
リュー 「俺がやろう」
ヴェラ 「どうするの?」
リュー 「直球がダメなら…」
リューは水の仮面を着けると、上空に向かって手を翳した。
建物の上空に小さな水球が発生したのが見えた。その水球が落下してくる。徐々に大きさを増していく水の塊。小さく見えたのは、とんでもない高さに水球が生成されていたからであった。
やがて、途中で巨大な水球は分解。十分な高さがあるので水は拡散したが、高さが高すぎたのか霧状になって広範囲に拡散してしまった。リューは何度か試してちょうど良い高さを見つけると、巨大な水球を燃え盛る街の上空に次々大量に発生させた。
“バケツをひっくり返したような豪雨” が断続的に街に降り注ぐ。
リュー達の頭上だけはヴェラが気を効かせて魔法障壁を張ったので濡れることはない。
十数秒の大雨、そして、様子を見ながらさらに足りないところに追加の大雨を降らせていくリュー。
リュー 「ランスロット、部下たちを使ってまだ燃えている場所がないか調べられるか?」
ランスロット 「御意…
……ここから見えないところにまだ燃えている場所が少々残っているようです。そちらはエヴァンスに消させましょう。…もう消したそうです」
リュー 「エヴァンスは魔法が得意なんだったな」
ランスロット 「御意」
* * * * *
一方、スラム街から少しだけ離れた路上から火災の様子を見ていた指揮官のレンツォと副官。
レンツォ 「くそ、何が起こった? 火がすべて消えてしまったではないか!」
副官 「通り雨でしょうか?」
レンツォ 「この時期、そんな雨が降るとは聞いていないぞ?」
副官 「私も存じませんでした」
レンツォ 「だいたい、空は晴れているじゃないか?」
副官 「不思議な天候もあったものですなぁ。こういうのを “龍の嫁入り” とか言うんでしたっけ?」
レンツォ 「雨はやんだようだ、もう一度火を着けろ!」
副官 「建物が水浸しで、もう火は簡単には着かないと思われますが」
レンツォ 「ぐぬぬぬぬ、このままでは命令を遂行できないではないか、オリゴール殿に叱られるぞ」
副官 「叱られるのが上官の役目です、頑張って下さい」
レンツォ 「貴っ様ぁ! 他人事だと思って!」
そんなやり取りをしている二人の元に、街に火を放っていたらしき兵士達がスラム街の奥から戻ってきて集まっていく。
そこに、リュー達も向かった。
スラム街の中から近づいてきたリュー達に気付き、警戒する兵士達。
兵士 「お前達は何者だ!」
リュー 「通りすがりの冒険者だ。スラムの疫病は終息した。もうスラムを焼き払う必要はないぞ」
副官 「得体の知れない冒険者にそう言われても、そうですか、と言えるわけがないですねぇ……」
ヴェラ 「本当よ、病気を引き起こしていた原因は取り除いたわ、もう疫病は存在しないのよ」
レンツォ 「ガキの使いじゃねぇんだよ、そう言われて素直に帰れるか!」
モリー 「困りましたね、どうしたら信じてもらえるでしょう?」
レンツォ 「お前達、スラムから出てきたな? 冒険者などと言ってるが、スラムの住人だな? お前達も感染しているのじゃないか? ならば全員 “消毒” する必要がある! おい、やれ! 汚物は消毒だ!」
レンツォの指示で兵士達が一斉にリュー達に向かって手を翳す。(焼き討ちのために火魔法が得意な者達を集めてあるようだ。)
リュー 「やめておけ、くだらん命令に従って命を無駄に散らす必要はないだろう?」
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次回予告
やっぱり荒療治(笑)
乞うご期待!
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