第332話 興味ないんで、じゃっ!

ゴードンはリュージーンと会った事はないが、奴隷ギルドの特殊な魔法技術で転写されたリューの似顔絵(写真)を持っていたので顔を覚えていたのであった。慌てて写真を取り出して見比べてみるが、やはり間違いない。さっそく接触のチャンスである。


だが……ミィはヘロヘロで動けない状態であった。


幸いにもゴードンは猟奇的な性癖は持っておらず、ミィが会ったエージェントの中では一番優しかったくらいなのだが、それでも、ゴードンは滅多にないチャンスとばかり、ポーションで体力を回復させながら一晩中がんばってしまったのだ。結果、つきあわされたミィはグロッキー状態であった。


だがゴードンは、ミィに残っていたポーションを与え無理やり復帰させ送り出した。多少無理してでもチャンスを逃さない事は、任務遂行のためには重要な事なのだ。





ゴードンがミィを呼んだのは、ミィをリュージーンに接近させ、情報を探らせるためである。リューも若い男である。であれば、女を使って籠絡するのハニートラップは常套手段である。


ミィは最上級の美少女冒険者である。うまくすればパーティに加入させられるかも知れない。最終的には誘惑させて、恋人関係に持ち込ませる。そうなれば、情報は取り放題だし、罠に嵌めるのもわけはなくなる。


問題は、どうやってミィをリュージーンに近づけるかであるが……


降って湧いたチャンスだったのでノープランであったが、ミィほどの美少女ならば、多少無理のある運び・・でも、相手の男は鼻の下を伸ばして簡単に引っかかるだろうと踏んだゴードンは、なんでもいいからとにかくミィにリューに接近しろと命じたのだった。





慌てて服を着たミィは、リューの行く先の路地に先回りして立った。


近づいてくるリュー。


ミィ 「は、ハアイ、おにぃさん、その、私と、遊びませんか?」


……実はミィは、演技力がなかった……





リュー 「なんだ? こんな朝っぱらから立ちんぼが居るのかこの街は? 色々大変なんだろうが、悪いが興味ないよ」


そう言ってそのまま通り過ぎてしまうリューを、慌ててミィは追いかけた。


ミィのような美少女に声を掛けられれば、不自然なシチュエーションでもきっと引っかると踏んだゴードンであったが……


だがゴードンは知らなかった。リューは人間ではないので、人間とは性欲の仕組みが違い、性欲はほとんどない状態なのである。もちろん、リューも女に興味がないわけではないのだが……性欲に振り回され冷静さを欠くというような事はないのである。


ミィ 「待って! 違います! 私は娼婦じゃありませんから!」


リュー 「何? じゃぁなんだっていうんだ?」


ミィ 「いえ、その……一目惚れです! お兄さんに一目惚れしたんです、それで、思わず声を掛けてしまったと言うか……」


リュー 「変な奴だな」


ミィ 「だから、その……」


リュー 「本当なんだとしたら、それはそれでアブナイ性格にしか思えんけどな。悪いが、興味ない。俺はもうこの街を出るしな、他を当たってくれ。そろそろ朝食の時間だ、じゃあな」


そう言って角を曲がってしまったリュー。即座に追いかけたミィだったが、曲がった先にリューの姿はどこにもないのであった……。(リューは転移で宿に戻ってしまったのであった。)


    ・

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ゴードン 「どうした?! 奴は?」


ミィ 「それが……消えてしまいました……」


ゴードン 「消えただと? 何をやってるんだ? コンタクトは上手く行ったのか?」


ミィ 「いえ、失敗しました、興味ないと言われてしまいました……」


ゴードン 「何をやってるんだ…【魅了】のブローチはどうした?」


ミィ 「もちろん、使っていました、最初から発動していたのですが……」


ゴードン 「こんな美少女を前に、魅了の魔道具も作動した状態で、興味ないと言い放ったのか? まさか、奴はそっちの趣味タイプだったか?!」


慌てて本部に美少年・・・タイプの奴隷を派遣するよう要請しようかと思ったゴードンであったが、すぐに思いとどまった。それをしてしまうと、ミィを返さなくてはいけなくなるからである。


ゴードンは昨晩抱いたミィの感触を思い出し、そんな簡単に手放すのは惜しいと思ったのだ。


まだ、リューの趣味嗜好がはっきり判明したわけではない。もう一度、ちゃんと確かめてからでも良いだろう。


だが、その日の朝食後、すぐにでもリュー達は次の街に向けて出発する様子であった。


出発準備中にミィに押しかけさせようかとかと思ったのだが、客同士が接触しないように上手く隔離されている木洩陽の宿である、自然に接近するチャンスはなかなかなかったのだ。


朝は下手な接近の仕方をしてしまったので、次はなるべく自然なコンタクトをさせたかったのだ。


だが、そうこうしている内に、リュー達は馬車で宿を発ってしまったのだった。



   *  *  *  *



街道を行くリューの馬車。


リュー 「あまりに順調な旅だと退屈してくるな」


モリー 「色々景色が見れて楽しいですよ?」


アネット 「たのしぃ~」


リュー 「そうか? 変わり映えしない景色が続いているだけに思えるがな」


ランスロット 「リューサマ、偶には魔物と遭遇イベントとかやりますか? 何匹か捕まえてこさせましょうか」


リュー 「そういうヤラセはいいから。それと索敵のスケルトン兵達は全部引っ込めてくれるか? 普通に旅がしたいんだよ」


例によって、リュー達の馬車の旅は、前方及び周囲にスケルトン兵達が展開して警戒し、問題があれば排除しているので、旅の途中のイベント・アクシデントなどは何も起こらないのである。


ランスロット 「そうですか? そうですね、我々・・であれば、魔物などいくら現れても問題ないですからな」


リュー 「そういう事だ」


その時リュー達の馬車の後方から猛スピードで走ってくる一台の馬車に気付いた。


馬車はリュー達の馬車に追いつくと速度を落としたが、どんどん接近してきて、御者が何が叫んでいる。


ランスロット 「邪魔だからどけ と言っているようですぞ? なんだか失礼な感じですなぁ、兵達に調べさせますか?」


リュー 「だからいいって。俺達だけで普通に旅をしよう。何か急いでいるんだろ」


リュー達の馬車が道の端に寄ると、その馬車はスピードを上げ、追い越して行った。



   *  *  *  *



追い越していった馬車に乗っていたのはゴードンとミィである。


ゴードン 「もういい、速度を緩めろ」


かなり飛ばしたため、馬車は酷く揺れ、二人共かなり消耗していた。


ゴードン 「少しゆっくり走って休むとしよう。連中アイツラも速度は出していないようだから、大丈夫だろう」


ミィ 「マルタンの街で待ち伏せるんですか?」


ゴードン 「さて、どうするかな……


…いっそ途中で接触できないか? 馬車が壊れたとか言って、同乗させてもらうとか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リリリ?


乞うご期待!



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