第382話 王の妹とリューの過去世

リュー 「頼みたいことってのは何だ? 内容を聞いてからだな」


王 「いや、今すぐどうこうとう言う話ではないのだがね、実は…」


その時、ノックの音がした。王が入室を許可すると、金貨が運び込まれて来た。その額、金貨二十万枚分。大金貨とさらにその上の白金貨で用意されていたので枚数はそこまで多くはないが。


(※日本円に換算すると金貨=約一万円、大金貨=十万円、白金貨=百万円くらいという感覚である。)


白金貨というのはリューも初めて見たが、純金にプラチナやらミスリルやらオリハルコンやらこの世界の希少金属レアメタルが混ぜ込まれた合金だそうだ。一応、人間の世界であれば全世界共通で使えるらしい。それはリューの感覚では不可解な気もするのだが、地球よりはるかに歴史が長く、魔法や謎の超古代文明のアーティファクトなどもある世界なので、長い時の中で、世界共通になったんだろうという事で納得する事にした。


ただ……


リュー 「請求額よりもずっと多くないか?」


王 「魔物の軍団を用いてダヤンの街を警護してくれたりもしたのだろう? 同じ事を騎士を使ってやれば、相応の経費が掛かったはずだ。それに、領主の不正を糺してくれた事は大きい。ダヤンの前の領主は脱税なども常態化していたようだからな。それを考えれば決して高くはないさ」


そこに、もう一つカートが運ばれてきた。さらに金貨二十万枚分が載せられている。


王 「これは、これから頼みたい事の依頼料だ」


リュー 「…なるほど、やっかいそうな仕事だな。内容は? 話によっては断らせてもらうぞ?」


王 「今、ガレリアには、王族は私一人しか残っていない。…と言う事に表向きはなっているのだが、実は、私には腹違いの妹が居るのだ。依頼とは、その妹を守って欲しいのだ。


と言っても今すぐという話ではないのだが。ああ~この話は他言無用で頼むぞ、妹の存在は今は秘匿されているのだ。


だが、いずれ暴かれる時が来るだろう。私の目の色がある内は私が守るつもりだが、こう敵が多いとな、私もいつどうなるか分かったものではない。反王派はガレリア王族を根絶やしにし、自分が王になりたがっている者も多いのでな」


宰相 「嘆かわしい事です。民を導く王のスキルは、ガレリア王族にしか受け継がれないというのに。ガレリアの王族の血筋が途絶えれば、国は舵をなくした船のようなものとなるでしょう」


リュー 「そのスキルというのは…… “正しい選択を選ぶ直感” だっけ? それは王族には全員受け継がれるのか?」


王 「いや、全員ではない。王族同士で婚姻していた時代は必ず受け継がれたのだが、王族でない者との間の子だと、確率は五分五分というところだな。だが、何人か子供を作れば受け継ぐ者は出てくるはずだ。」


リュー 「ああ、女性側の遺伝子にその能力が受け継がれてるのかな……?」


リューが想起していたのは染色体の知識である。女性はXX、男性はXYの染色体を持っており、そのXの中に、スキルを持つかどうかの因子が入っているとしたら……女性側のX2つが両方ともスキル持ちであれば、その子供は必ずスキル所有者になる。だが、スキルを持たないXが混ざってしまうと、スキル持ちXを受け継ぐか、スキルの無いXを受け継ぐかは運になってしまうわけだ。


王 「ほう、なるほど…。そのような仕組みであったのか。リューは博識だな」


リュー 「いや、これは違う世界の…いや、違う種族の話として、昔、聞いた事があるだけだ。ガレリア王族の性別を決定する因子が本当にそのようになってるかは分からないさ」


王 「違う世界、と言ったな? リューは違う世界から来たのか? なるほど、それならばその驚異的な能力も納得が行く」


リュー 「…口が滑ったな。まぁ別に知られても問題ないか。俺は別の世界から来たわけじゃないが、生まれ変わる前の記憶を持ってるんだ。そして、俺の魂は過去に、この世界とは別の世界で生きていた」


王 「ほう? この世界以外にも世界があるのか?」


リュー 「ああ、人の、いや人以外の種族もだが、魂は、死ぬと、あの世に帰るが、その後、また生まれ変わってくるらしい。それは、必ずしも同じ世界とは限らないのだそうだ。皆、様々な時代・世界を何度も生きているらしいから、前世というより過去世と言うべきかな。俺は、普通は覚えていない、生まれ変わる “瞬間” の記憶があるんだ。そのせいで、他の人とは違う能力を持っている、というのは、当たらずも遠からずというところかな」


話が長くなるので女神(の代理)に会った事はあえて伏せておくリューであった。


王 「ほう、その、“過去世” で生きていた世界では、皆リューのような能力を持っているのか?」


リュー 「いや、逆だな。その世界は、魔法が存在しない世界だった」


宰相 「魔法がない? 生活魔法もか? それは不便だな」


リュー 「それほどでもなかった。いや、まぁ、魔法に比べるとやっぱり少し不便だったかな。魔法がない代わりに、知恵と工夫で色々な道具や技術を発達させたのだ。それをその世界では科学と呼んでいた。先程の知識も、その科学による研究の成果を覚えていただけだ。だから、この世界の生物の身体の構造とは違う可能性もあるから、意味はない話だ。忘れてくれていい」


王 「私も、過去世の記憶を思い出すことができれば、特殊な能力が身につくのだろうか?」


リュー 「さぁ……? そもそも、過去世も同じこの世界に生きていたかも知れないしな」


宰相 「いや、数は少ないが、過去世の記憶を持っていると主張する者がいるという報告は、記録にいくつかあります。が、そのような者が特殊な能力を持っているという記録はないですから、記憶は能力とは関係ないのではないかと。それ以外に、その能力には別の秘密があるのではないかと推察いたしますが……」


チロリとリューを見る宰相であるが、リューは知らん顔をするのであった。


宰相 「そもそも、過去世の記憶というのは、本人がそう主張しているだけで、同じ世界の近い時代でもない限りは確かめようもありませんからな」


リュー 「それもそうだな。俺の話も、俺の妄想に過ぎないかも知れんから、忘れてくれ」


王 「妄想、とは思えないが……


…まぁよい。で、妹の件は、引き受けてくれるか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


『危険度MAX、手を出すべからず。やめといた方がいんちゃいます?』


『そんな報告信じられるか!』


乞うご期待!


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