第383話 奴隷ギルドのマスター登場

リュー 「んー、“護衛” というのは難しいからなぁ……軽々しく引き受けていいものか…」


以前、ガリーザ王国で王宮の警護をした時、結構大変だった事をリューは覚えていた。リューは、自分自身に対する危険は事前に察知する能力があるが、他人の危険は察知できないので、他者を守るという仕事になると、その道の専門家にはかなり劣ってしまうのである。


王 「今すぐというわけではない、当分はないとは思う。だが、もし、妹に危機が迫った時、妹がSOSを出した時に、力を貸してやってほしいのだ。これはそのための依頼金だ。その時が来た時に、私はもう居ないかも知れないから、先払いしておく。


ちなみにこれは王家の私財から出している。妹の存在が秘匿されている以上、国家予算からそれを出すわけにもいかないからな。私の個人的な依頼という事になるが、受けてくれると嬉しい」


リュー 「うーん、では……確約はできないが、成功報酬で良いという条件で良いなら、引き受けよう。もし、上手くいかなかった時は、この金は返すという事で」


王 「仮に妹が殺されたとしても、返さなくとも良い」


リュー 「それだと、俺が金を持ち逃げして仕事をしないとは考えないのか?」


王 「そんな事はしないだろう? それに、おそらく、その時には返す私も居なくなっているだろうしな。


まぁ、もしそうなったら、それは運命だったと諦めるさ。ダメ元であっても、できる限りの準備をしておきたいのだ」


リュー 「んー、じゃあ先に金は預かっておく。成功報酬って事で、使わずに分けて保管しておく事にする。今度、その妹に会わせてくれ」


王 「ああ、その内、機を見てな。今は存在を隠している状態だから、目立つ行動は避けているんだ。お前も、くれぐれも、情報を漏らさないように頼むぞ?」


リュー 「…ここは、盗聴とかされていないのか?」


宰相 「ここには外部に音が漏れないよう、何重にも防御魔法が施されております故。ドロテア殿の本気の防御魔法を超えられる者はそうは居ないでしょう」


リュー 「なるほど」


一応念のため、執務室の周囲を神眼で探ってみたが、特に怪しいモノはないようであった。




  * * * * *




『ふん、気に入らんなぁ…』


鼻息とともに呟いたのは、王都の奴隷ギルド本部のマスター、つまりガレリア王国における奴隷ギルドのランドマスターであるキロイバである。


キロイバは、グリンガル侯爵との面会を終えて帰ってきたところであった。


王が突然発行した新しい法律について、再度グリンガル侯爵に撤回させるように動いてもらうよう要望に行ったのだ。


そこで、この件に関わっているというリュージーンという冒険者についての話になった。


件の冒険者については奴隷ギルドだけでなく、侯爵側も独自に密偵を放ち調査していたらしい。それを聞き、情報交換してみたのだが、お互いに新しい情報はないように思えた。


いや、新情報は多数あったのだが、伝説級の能力を持っているなどという荒唐無稽な話ばかりで、信憑性のある情報は特にないとキロイバは判断したのだ。侯爵が雇っている “暗部” も大した事はなさそうだ。


だが、グリンガル侯爵はその荒唐無稽な情報を信じているようだった。件の冒険者と侯爵は直接会ってみたそうだが、能力について直接確認したというわけではなかったらしい。それでは分からないではないか。


だが、侯爵の情報によると、件の冒険者は必ずしも現王の味方というわけでもなさそうだと言う。条件次第では寝返らせる事ができる可能性があるというのだ。


そのために有効な情報を掴んだら流すように侯爵に命じられ、キロイバは了承して引き上げてきた。


そして、ギルドに戻ってきたところで、秘書からゴードンの報告書を渡され、思わず気に入らないと漏らしてしまったのだ。


秘書 「はい?」


キロイバ 「このゴードンという者は優秀なエージェントだったのではないのか? それが何だ、この報告書は?」


秘書 「…危険度MAX、手を出すべからず、と書いてありますなぁ」


キロイバ 「奴隷ギルドは、もはや、世界を影から支配していると言っても過言ではない状況なのだぞ。それが、危険だから手を出さないほうがいいなどと言われて、はいそうですかと退けると思うか?」


秘書 「その報告が本当なら、そうしたほうがいいんちゃいますかね?」


キロイバ 「そんな報告、信用できるか?


ふん、どうせおそらく、ゴードンは何か弱みでも握られて、そんな報告をするように強要されたんじゃろう。弱みを探れと言ったのに、弱みを握られるとは。『奴隷商が奴隷になる』という諺通りじゃな、嘆かわしい」


秘書 「そう嘘だと決めつけんと、とりあえず、その報告の内容が本当かどうか、本当に危険な相手なのか確認してみたほうが……もし本当やったら、エライ事になるんちゃいますか?」


キロイバ 「そんなもん、嘘に決まっとる!」


秘書 「せやけど、もしマスターの言う通りだとしても、相手は弱みを探っているエージェントの弱みを逆に探り出したいう事になります。


なんや、奴隷を勝手に解放する技術まで持っているって事ですし、つまり、相手が相当優秀なのは間違いないんちゃいますか?」


キロイバ 「む……一応念の為、もう少し探らせるか…?


…いや、やはり、報告は、嘘だろう。考えるほどに、そう思えてくる。


転移だけじゃなく複数の伝説級の治癒魔法やら時間を巻き戻す魔法を使うとか、嘘をつくにしてももう少しマシな内容にすべきだったな。そう思わんか?」


秘書 「侯爵様はなんとおっしゃられてたんで?」


キロイバ 「侯爵は、その冒険者についての荒唐無稽な能力の噂を信じているようじゃったよ。馬鹿はすぐ騙されるからのう。


じゃが、その冒険者が優秀なのは認めよう。ただ、儂が思うに、おそらく情報戦が得意なタイプなのではないか?


自分に凄い能力があるという噂を流して信じさせる。侯爵の暗部すら翻弄し、ニセ情報を信じさせてしまうほど、能力があるという事なのじゃろう。


外国から来たらしいが……


おそらく、裏の世界のやり方をよく知っているのは、どこぞの国の暗部で働いていた者なのではないか? そう考えるとすべて辻褄が合う、そうに違いない」


秘書 「ははぁ、可能性は、なくは、ないですかねぇ」


キロイバ 「だとしたら、おそらく搦手が得意なだけで、実戦の能力はそれほどでもないのではないか?」


秘書 「はぁ。つまり、正面から力づくで攻める、という事ですか?」


キロイバ 「いや、搦手で行く」


秘書 「どっちやね~ん」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


元Sランクの戦闘奴隷登場


乞うご期待!


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