第196話 「手を貸そうか?」「いらん」

リュー 「しかし……勇者……って居るんだな? 伝説は聞いた事あるが…」

 

ヴェラ 「伝説ってあれですよね、2千年前の魔族との戦争の話。魔王を倒した者達が “勇者” の称号で呼ばれていたとお伽噺には語られてますが、実は、“称号” というのは単に人々がつけた渾名ニックネームや貴族や王族が与えた地位の名称ではなく、どうやらスキルのように特殊なな能力を持っていると聞きます。ごくまれに、称号を持って生まれる者がいるのだとか」

 

リュー 「へぇ、だが、魔族は滅んで居ない事になっていたんだろう?」

 

ヴェラ 「ええ、魔王はもういませんし、魔族とも今は戦争はしていませんので、というか魔族はそもそも滅びた事になっていますし、今は勇者は『人類に何か危機が迫った時にそれを救う存在』みたいな感じで崇められていて、今は各地を回って魔物退治とかしてるみたいですね」

 

リュー 「無償で?」

 

ヴェラ 「はい。勇者の称号が確認された者には王家から給料が出るらしいですよ。ぶっちゃけ、勇者が居る国は権威が増しますし、戦争になったら勇者は大変強力な戦力になるので、各国の王族は勇者を探し出して保護したがるとか」

 

リュー 「へぇ。その勇者の称号を持つ者ってのは何人も居るのか?」

 

ヴェラ 「いえ、勇者は常に一人、重複して生まれる事はないと言われています、それが本当かどうかは分かりませんが。今のところは重複して存在したという記録はないと聞いています。で、当代の勇者はフェルマー王国が保護しているというわけですね」

 

リュー 「そんな話は今まで聞いたことなかったなぁ」

 

ヴェラ 「貴族の間では常識ですが、一般的には知られていないかも知れませんね……ここ100年ほどは大きな戦争もないし、魔王も魔族も居ないしで、特に目立つ機会もなく、勇者パーティはただのボランティア活動グループですからね」

 

リュー 「タダで働いてくれる冒険者みたいな立場モノか? まぁそりゃ重宝がられるだろうな」

 

その時、急に村が騒がしくなった。激しく半鐘が打ち鳴らされ、叫ぶ声が聞こえる。

 

『モンスターだ! 門を閉めろ!』

 

どうやら魔物が襲って来たようである。見れば、クレイジーバイソンが村の城門に向かって走ってきていた。巨大な猛牛型の魔獣である。

 

小さな角も頭の両脇に生えてはいるが、その狂牛の武器は主に額による頭突きである。走ってきた勢いを利用し、強烈な頭突きで相手を蹴散らす、いや頭散らす? のである。

 

ただ、問題はその大きさである。リューが地球の動物園で見たバイソンも大きかったが、この世界のバイソンは地球のソレを何倍も上回る大きさであった。単なる動物ではなく魔物なのでなおさらなのであろう。地球のバイソンが軽自動車なら、この世界のバイソンの魔物は大型トラックというサイズ感である。

 

当然、その突進力は凄まじいものになるだろう。村の貧弱な木製の防壁で防げるようには見えない。

 

案の定バイソンの頭突きをまともに受けた村の門扉はあっさり砕け散り、狂牛は村の中に侵入してきてしまった。

 

しかし、門を突き破ったせいで突進の勢いは失われていた。すかさず村の男達が何人かで取り囲み槍を突き立てる。だが、皮が厚く深くは刺さっていないようであった。逆に、バイソンはチクチク刺される痛みに怒りを増し、村人を蹴散らし、周囲の建物を頭突きで粉砕していった。

 

村長 「何しとるんや、このままでは村がめちゃくちゃになってまうぞ! きばらんか~い!」

 

男たちを応援?村長してる村長にリューは声をかけてみた。

 

リュー 「手を貸そうか?」

 

村長 「ああ? またおんどれか! おんどれみたいな小柄なガキにクレイジーバイソンが倒せるわけないやろが! 足手まといになるだけや!」

 

リュー 「いや、俺ならあの魔物を倒せるが?」

 

村長 「冗談言うてる場合ちゃうんや、見て分からんか、忙しいんや、邪魔すな! しっしっ! あっち行っとけや!」

 

そう言ってる間にも、被害は広がっていく一方に見えるが……

 

それはそうだ、それも危険度高ランクの魔物を、冒険者でもないただの村人達が仕留める事ができるわけがないのだ。

 

看過もできず、リューが動こうとするが、それより早く一人の女が狂牛の前に立ち塞がり火球ファイアーボールを放った。

 

鼻面に火球を食らって狂牛は一瞬怯む。しかし女の放った火球の威力はそれほど大きいものではなく、牛は鼻面を火傷したものの、反って手負いになって危険度を増しただけにも見える。

 

狂牛は火球を放った女を睨みつけ、地面の土を前足で掻く。突進して頭突きを食らわせるつもりだろう。

 

それに対し、女は再び火球を放つ。今度は一発ではなく連発であった。その数、十、二十、三十……

 

機関銃のように連続で叩き込まれる火球。一発一発の威力はそれほどでもないが、これだけ連続で受ければダメージが蓄積されていくだろう。

 

牛は嫌がって顔を背け横を向いたが、今度は身体に向かってマシンガン火球が放たれる。この女の武器は火球の恐ろしいほどの連打なのだろう。なんだか牛の肉の焼ける良い匂いが漂ってくる。火球の連発はそれでも続く。やがてついに牛は黒焦げになり、倒れて動かなくなったのであった。

 

村人達から歓声があがる。村を救った英雄に近づいていく村長。だが、感謝や称賛の言葉ではなく、なぜか村長は女冒険者に食って掛かリ始めた。

 

村長 「何勝手な事しとんのや! オノレが勝手にやった事なんやから! 金は払わへんで!」

 

女 「お金はいりません、私も村の一員として協力しただけの事ですから……」

 

半分呆れたような顔をしながら女は答えた。

 

村長 「ほんまか?! タダか?! そか、タダか、ほんならええんや。お前も段々話が分かるようになってきたようやの」

 

村長は狂牛に吹き飛ばされ倒れている男達に向き直って声を掛けた。

 

村長 「ほなお前達、今のうちにツブれた塀と門を直すんや! 休んでる暇はないで!」

 

男達は村長の言葉に苛立った顔をしつつも、身体に鞭を打って修復作業に向かうのだった。

 

 

 

 

ヴェラ 「なんか、大変なタイミングで来てしまいましたね」

 

リュー 「大変と言うか……村長が冒険者と貴族を毛嫌いしなければすぐに解決すると思うんだが……


そう言えば、宿があるか聞きそびれてしまったな……」

 

ヴェラ 「戻って守衛さんに訊いてみましょうか?」

 

リュー 「いや、あっちはあっちで忙しそうだしな」

 

門の前は倒した牛の魔物の処理と門の修理で大わらわの様子だ。

 

リュー 「村の中で誰かに訊いてみよう」

 

だが、その時、突然リューの頭の中に声が響いた。


『助けて……』

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

勇者登場!

 

乞うご期待!

 

 

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