第197話 タスケテ 壊サレル……
『タスケテ』
切迫した助けを呼ぶ声であった。
リュー 「なんだ?!」
ヴェラ 「どうかしたの?」
その時、リューの脳内に映像が映し出された。
眼前に壁があるが、その壁にヒビが入っていく。
『危険 危険 破壊の意志を確認 危険』
壁が壊れ崩れ落ちると、その向こう側に金色の鎧を来た男が見えた。他に四人の女も側に立っていた。
頭の中に響いた声は、ダンジョンのコアからの救難信号である。何故か分からないが、その声がワイラゴのコアである事がリューには分かった。そして、リューは状況を理解した。
ワイラゴのダンジョンが踏破され、しかもその冒険者がコアを探し出して破壊しようとしているのだ。リューもそう簡単にダンジョンが攻略されるはずはないと思って油断していたのだった。
ミムルの街の近くにある地竜巣窟の場合はダンジョンボスがヒュドラなので、倒せる冒険者はまず居ないと思って間違いない。だが、ワイラゴの場合、従来の設定のままにしていたので、ボスはキングコカトリスである。深層に居るコカトリス、そしてダンジョンボスのキングコカトリス。難敵ではあるが、絶対に倒せないというわけではないのだ。イライラ級の戦士が何人か居れば踏破は可能であろう。実際、イライラはメンバーが揃ったらワイラゴを攻略するつもりで居たのだから。
ただ、仮に踏破されたとしても、管理ダンジョンの場合はギルドによってコアの破壊は禁止されている。ワイラゴも“銀仮面”が管理者としてギルド本部にも届け出が出されているので破壊は禁止のはずである。だが、ルールを守らない冒険者が絶対に居ないとは言えないのだ。
管理ダンジョンのボスモンスターを倒した後、コアに手を出そうとした者が居た場合にどうなるか。それは、所有者(管理者)の設定による。特に何も設定しなければ、天然のダンジョンと同じ、ダンジョンボスを倒し、コアを見つけ出した者が新たな所有者となる。その場合、新たな所有者がダンジョンを管理するなり、破壊するなり自由となる。
だが、コアに勝手に触れられたくない場合は、管理者が対応するように設定される。コアを渡す気がなかったリューは、そのように設定していたのだ。リューもいざとなったら自分が出るつもりではいたのだが、まずないだろうと油断していたのだった。
『タスケテ 壊サレル……』
慌てて銀仮面を装着したリュー。転移でダンジョン最下層へ急行しようと考えたが、その必要はなかった。既にリューの足元に魔法陣が浮かんでいた。ダンジョンコアが強制的にリューをダンジョン最下層に転移させてしまったのだ。
リューの周囲の景色が一瞬にして変わる。
* * * *
金鎧の男 「コアはっけーん。俺様に掛かれば難易度Sクラスのダンジョンだって簡単なもんだろ」
女 「いいから早く壊して帰りましょ」
その時、ダンジョンの床に魔法陣が浮かぶ。
警戒する金色の鎧の戦士とその仲間達。
そこに、銀の仮面を着けた男が現れた。
金男 「なんだ、お前?」
盾を持った女が金男を庇うように前に出てきた。
盾女 「ダンジョンボスか?!」
女B 「ボスならさっき倒したじゃない」
女C 「裏ボス?」
銀仮面 「ああ、君たち……」
盾女 「しゃべった!」
銀仮面 「ダンジョンを攻略して、ボスを倒したんだと思うが……、このダンジョンは管理ダンジョンだ、コアの破壊や持ち出し、所有権強奪は禁止になっている。ギルドでそう言われなかったか?」
金男 「ギルドぉ? そんなん知るか! 俺達は冒険者じゃない、勇者様だぞ」
リュー・ヴェラ 「勇者?!」
リュー 「おおっと、ヴェラ居たのか! ヴェラまで一緒に転移させられたのか?」
ヴェラ 「ここは……
…ダンジョンの最下層のボス部屋ね?」
リュー 「ああ、そうだ。ここは、バイマークの側にあるダンジョン “ワイラゴ” の最下層だ。俺が管理者なので、コアに呼び出されたらしい。なんでヴェラまで一緒なのか知らんが」
勇者 「お前がダンジョンの真ボスって事か、じゃぁサクッと倒しちゃおうかね」
勇者がいきなり剣で斬りつけてきた。だが、リューは危険予知によって攻撃してくる事を読んで、次元障壁を張っていた。勇者の剣は障壁に当たって停まる、はずだったのだが……
なんと、勇者の剣が当たると次元障壁にヒビが入り、砕けて消滅してしまった。
次元障壁を破った剣はそのままリューに向かって振り下ろされて来たのだが、障壁が破られること、さらに斬撃が飛ぶ事も予知能力によって察知していたリューは、咄嗟に短距離転移を発動して横に移動したため、難を逃れた。
そして、リューの立っていた場所の背後の壁に大きな傷が入る。どうやら勇者は直接斬るだけでなく、斬撃を飛ばす能力があるようだ。
勇者 「へぇ、避けられるとは思わなかった」
リューはすべて回避したものの、転生時の記憶が戻ってからはついぞなかったギリギリの展開であった。
リューはかなり驚いていた。次元障壁が破られたのは、この世界に来て初めての事である。次元を超える能力がないモノには絶対に破れないはずの次元の壁が切り裂かれたのだ。勇者の個人的なスキルなのか剣の力なのか分からないが、次元を超える力、少なくとも次元障壁を破る力を勇者は持っていると言う事になる。
さらに、斬撃がダンジョンの壁を傷つけた事にも驚いた。ダンジョンの壁というのは非常に頑強で、余程強力な攻撃でなければ壊れないのである。その壁に傷をつけたと言う事は、飛ぶ斬撃も驚異的な破壊力があると言うことになる。
これが “勇者” の力なのだろうか……
勇者 「よく躱したねぇ! さすが、しゃべるボスモンスター、すげぇ~」
リュー 「俺はボスモンスターではない、ダンジョン管理者だ。先程も言ったが、このダンジョンは管理ダンジョンだ、コアの破壊は禁止されている。ボスモンスターを倒したなら攻略は終わりだ、素材を回収したならとっとと帰ってもらえるかな」
勇者 「おお、なんて狡賢いモンスターなんだ! 誤魔化そうとしたって駄目さ、僕は騙されないよ。僕に敵わないからって、嘘をついて追い払おうとしてるんだろう?」
リュー 「……はい?」
勇者 「身体が汚れてしまったから早く帰ってお風呂に入りたいんだ。サクッと殺されてくれるかな?」
そう言いながら再び剣を構える勇者
リュー 「話が通じないタイプか……」
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
VS勇者
乞うご期待
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます