第195話 冒険者なんて金だけとってまともに仕事しないクズばっかりやないか!

リュー 「もう後少しだな、明日にはバイマークに到着できるだろう。まもなく日が暮れる、どこか小屋を出せるような場所を探そう」

 

ヴェラ 「リュー、あそこに村が見えるわ」

 

リュー 「おお、ではそこで泊まらせてもらう事にしよう」

 

リューは亜空間に小屋を収納している。場所さえあれば、いつでも小屋を取り出して休めるのである。また、食材や料理も大量に収納してあるので、リューは旅の途中でも、別に街や村に立ち寄る必要もない。

 

だが、“世界を見て回る旅” なのだから、それでは意味がない。ゆく先々の街や村はすべて立ち寄る方針である。

 

それに、補給も必要である。生活用品を補給する必要もあるし、街に立ち寄れば、その土地特有の料理や食材なども仕入れる事ができるので、食事の幅が広がる。

 

ヴェラ 「近づいてみたら、あまり大きな村ではないわね、宿なんかないかも?」

 

リュー 「その時はどこか場所を見つけて小屋を出せば良いさ」

 

立ち寄った村は小さく、一応塀で囲まれてはいるが、それは城壁というよりは木製の柵に近いものであった。魔獣が少ない地域であれば、この程度の簡易な防壁しかない村もそれほど珍しいものではないのだが……

 

リュー 「バイマークに近い割には随分お粗末な防壁だな、大丈夫なのか?」

 

近づいてみると、村は妙に緊迫感に包まれていた。

 

門番 「お前たち、峠を抜けてきたのか?」

 

リュー 「そうだが?」

 

門番 「よく無事だったな…」

 

聞けば、最近、峠のあたりで旅人が強力なモンスターに襲われるようになり、通れなくなってしまったという事であった。

 

それ以外にも、村の周辺に危険度の高い魔物がたくさん出没するようになり、村の外に出歩けなくない状態だという。中には災害級の魔物を見かけたという報告まであるのだとか。

 

リュー 「随分心細い防備カベだが大丈夫なのか?」

 

門番 「まだ仮の囲いだからな。これから徐々にちゃんとした防護壁を建てる予定なんだが、資金がなくて思うように進まないんだよ」

 

さらに最近また魔獣が増え、旅人や商人の往来もままならず、村は孤立してしまっている状態らしい。

 

魔物が増えたのは、おそらく先だってのスタンピードの影響だろう。迷宮ワイラゴから魔物が溢れた時、バイマークの街に向かわずに拡散していった魔物も居たはずだ。それがこの村の周辺まで到達して住み着いたのだろう。

 

リュー 「冒険者は居ないのか?」

 

どこの街でも、冒険者が魔物を駆除する役割を担っている。基本的には魔物を駆除するのは冒険者の仕事である。普段はダンジョンに潜って魔物を狩って素材を売るのが基本だが、ダンジョンの外でも魔物が出れば討伐する。

 

普段は冒険者が自主的に狩りをするに任せているが、危険な魔物が確認されたり、数が多くなった場合は領主から「依頼」が出され、冒険者達が駆除に当たる。あるいは、冒険者が間に合わない時は、街の騎士団などが対処に向かう場合もあるが。

 

スタンピードがあった後なので、積極的に冒険者に近隣の街や村の周辺の魔物を狩るよう、領主から冒険者に指示(依頼)が出ていたはずである。当然、この村の周辺も冒険者が魔物を駆除していてもおかしくはないのだが……

 

門番 「いや、この村の村長がケチでな、依頼を出さないんだよ」

 

『ケチで結構、村の金を無駄に捨てるよりマシやろ』

 

門番 「んげ、村長!」

 

通りすがりの村長の登場であった。

 

村長 「冒険者など、金だけとってまともに仕事しないクズばっかりやないか! そんな奴ら信用でけんのは当然やろ。

 

…ん、なんや、お前らは冒険者か? この村に来ても冒険者の仕事はないぞ、帰れ帰れ」

 

リュー 「冒険者だが、この村にはたまたま通りかかっただけだ、長居するつもりはないよ」

 

ヴェラ 「でも、冒険者に頼まないのなら、魔物はどうするのですか?」

 

村長 「おう、国に頼んであるで」

 

ヴェラ 「国に? 領主様ではないのですか?」

 

村長 「そや、国民を守るんは国の仕事やろ?」

 

ヴェラ 「領民を守るのは領主の仕事だと思いますが……領主から助けを求めたならともかく、そうでないなら、国がその地を治める貴族を無視して魔物討伐の兵力を送り込んでくる事は、普通はないと思いますけど?」

 

村長 「それがな、ダメ元で国になんとかしてくれぇと手紙送ったら、なんと、勇者を向かわせるって返事があったんや!」

 

リュー 「勇者?」

 

村長 「そや。勇者は魔物を退治して人々を救ってまわってるそうやないか。勇者の何が素晴らしいって、無料タダでやってくれんのやで、タダで! 金を払わんと仕事せん冒険者とはちゃうんや、報酬なしやで、ありがたい事やわぁ」

 

リュー 「別に、魔物の駆除なら、領主が金を出して冒険者を雇ってくれるはずだろ。村に金銭的負担はないんじゃないか?」

 

村長 「あかんあかん、領主に金を出させるなんてしてみい、冒険者を雇う金は出してくれるかも知れんけど、結局その後、税金上げられて回収される事になるんや。貴族なんて領民から税金搾り取って贅沢する事しか考えとらん連中やからな、信用でけん」

 

リュー 「そんな事はないだろう、ここの領主はなかなか良い人物だったぞ?」

 

村長 「なんや! お前ら領主のスパイか! 税金取り立てに来たんか!」

 

ヴェラ 「ただの旅の冒険者です。バイマークに用があって向かってる途中です」

 

村長 「なんや、領主の関係者じゃないんか、紛らわしい事言うなや」

 

リュー 「それで、その勇者というのはいつ頃来るんだ?」

 

村長 「それがな……いつまで経っても来いひんのや。誰か門番と話してるから、ようやっと勇者が来おったか思うて見に来たら、居たのは女とガキやろ。ガックリやわ」

 

リュー 「何なら俺が魔物の駆除を引き受けてもいいぞ? バイマークのスタンピードが原因なら、俺も多少関わった件だしな。タダってわけには行かないが、格安でいい」

 

村長 「はぁ? なに偉そうに。お前みたいなガキに大した働きできっこないやろ。魔物はおっかないんやで、殺されてまうで? それに、勇者がくれば全て解決するんや、タダでな! 格安だろうと冒険者に金を払うんはもったない。金があったら防壁かべ作らな!」

 

アカンアカンと村長は手をヒラヒラと振りながら去っていった。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

リュー 「手を貸そうか?」 

村長  「いらん! 足手まといや!」

 

乞うご期待!

 

 

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