勇者編

第194話 ヴェラはなんでついてくるん?

ヴェラは冒険者であったが、友人であるエミリアが父親から突然領主を引き継がされたため、それを助け手伝っているうち、気がつけば領の内政にとってなくてはならない存在になっていた。

 

エミリアが呪いのせいで臥せってしまい、ついには目が見えなくなってしまう事態に至ってからは、内政のほとんどは実質的にヴェラが切り回していた。

 

だが、領主のエミリアは呪いから開放された。

 

目も見えるようになり、すっかり元気になった。またエミリアの父も戻ってきた。父である前領主のハリは、表には出られない身体(リッチ)になったものの、エミリアが迷った時にはいつでも相談に乗れるようになったのだ。

 

そのような状況で、もうエミリアは自分の助けはなくとも大丈夫と判断したヴェラは、領主の手伝いの仕事は辞め、冒険者に戻りたいとエミリアに申し出たのだ。

 

エミリアは驚いた。非常に優秀な部下であったヴェラを失うのは、エミリアとしてはかなりの痛手である。できればヴェラには今後もずっとエミリアの片腕として仕事を続けて欲しい。

 

ヴェラ自身も以前は、領主の下でずっと働き続けるつもりだったのだが……

 

ふと、冒険者に戻って旅をするのも良いなという思いが湧き上がってきたのであった。

 

ヴェラの気持は堅く、引き止められない事を悟ったエミリアは、しかしヴェラの退職届けを受理せず。代わりに休暇を与える事にしたのだった。休暇の期間は無期限、ヴェラが飽きるまで。つまり、ヴェラが冒険に飽きたらいつでも戻ってこいと言うわけである。

 

旅の終わりがいつになるかは分からない……何ヶ月かで飽きるかもしれないが、何年も続けるかも知れない。それでも、冒険者を引退した後、再就職先を用意して待っているとエミリアは言うのである。

 

そもそも、激務である冒険者は引退も早い。再就職先は必要であるので、エミリアの申し出はヴェラにとってもありがたいものであった。

 

ただ、冒険者は危険な職業でもある、命を落とす者も多い。ヴェラは帰ってこない可能性もある。エミリアはヴェラに、決して死なないで、必ず戻って来る事を約束させた。

 

「いつまでも待っている」

 

と言うエミリアにヴェラも打たれ、また必ず戻ってくると約束したのであった。

 

 

 

 

ヴェラが冒険者に戻ろうと思った、その理由は何だったのか? それは、リューであった。ヴェラはリューの旅についていくつもりだったのだ。

 

なぜか、ヴェラはリューが “気に入った” ようである。

 

それを聞いたエミリアは、ヴェラがリューに恋していると思い、引き止める事を諦め、快く送り出す事にしたのだった。

 

ただ、リューは、なんでヴェラがついてくるのか、よく分からなかったのだが……。

 

リュー 「なんでついてくるんだ?」

 

ヴェラ 「んー、あなたが気に入ったから?」

 

リュー 「俺に惚れたのか?」

 

ヴェラ 「恋に落ちた。なんて格好良い響き。だけど、残念ながら、恋とは違うかなぁ……なんだか、“気に入った” のよね、そうとしか言えない感じ」

 

行き先も期間も特に決まっていないという、リューの “世界を見て回る旅” に、ヴェラはついて行くと言う。

 

リュー 「…まぁ、いいけどな……」

 

リューも不思議と、ヴェラが一緒に居る事に違和感や抵抗感を感じないのであった。

 

  

   *  *  *  *

 

 

ロンダリアの街を出たリューとヴェラ。急ぐ旅でもなし、またヴェラが一緒なので転移は使えない(ヴェラはまだリューの時空魔法の事を知らない)ので、馬での旅である。

 

ヴェラ 「こんにちわ。お名前は?」

 

ヴェラは、リューが連れてきた馬を撫でながら名を尋ねた。

 

リュー 「アダムだ。ガリーザ王国を発つ時に買ったんだ」

 

ヴェラ 「そう、アダム、よろしくね」

 

実はアダムはリューが購入した時、既にかなりの老齢であった。一番賢く穏やかな性格の馬はどれか尋ねたらこの馬を紹介されたのだ。リューは馬に初めて乗るので、気性の荒い馬は避けたかったのである。

 

高齢を理由に業者はもっと若く逞しい馬をしきりに薦めて来たが、リューはあえてこの馬を選んだ。年齢は問題ないのである、リューは肉体の時間を逆行させる事ができるのだから。

 

格安の値段で馬を買い取ったリューは街を出てから馬の肉体の時間を逆行させた。こうして、経験と賢さはそのままに若い肉体を取り戻したアダムは乗馬初心者のリューの旅の良いパートナーとなったのであった。

 

ヴェラ 「この娘はマーガレッタよ。マガリエル家の馬をエミリア様が下さったの」

 

リュー 「マーガレッタ、よろしくな」

 

リューは収納から桶を二つ取り出し、飼葉と水を入れてやった。挨拶代わりである。アダムも一緒に食べ始めたが、マーガレッタは特に嫌がる素振りもなかった。どうやら二頭は仲良くやれそうである。

 

ヴェラ 「収納魔法は本当に便利よねぇ……」

 

馬を所有するに当たって、リューは大量の飼葉を買い込んで収納してあるのだ。金はケチらず良質な飼葉を購入してある。馬は放っておけば道端の草を食べても生きていけるが、やはり馬好みの美味しい飼葉というのがあるのである。

 

水も、山奥のキレイな湧き水を大量に収納してある。リューは必要に応じていつでもその水を収納から出して与える事ができるのだ。夜も、自分たちが眠る小屋とは別に馬小屋も購入してあるので、そこでゆっくり休ませる事ができる。

 

乗らない時は、短期であれば地竜巣窟ダンジョンの中に作っておいた魔物の出ない草原型フィールドに放牧したりしている。長期になる場合は、寂しがらないよう、世話をしてくれる者が居る牧場に預けるようした。リューには転移があるので、どこに居ても馴染みの牧場に簡単に連れて行ける。

 

 

 

 

二人と二頭の顔合わせも済んだので、二人は馬に跨がり出発する。

 

リュー 「そう言えば荷物は? 預かろうか?」

 

ヴェラ 「大丈夫、エミリア様がマジックバッグも下さったの」

 

腰に下げているバッグをヴェラは叩いてみせた。

 

リュー 「かなり高価なんじゃないか?」

 

ヴェラ 「退職金代わりだって。そんな高価なもの、悪いからいいと言ったんだけどね。どうしても持っていけって。エミリア様には感謝しているわ」

 

リュー 「良かったのか?」

 

ヴェラ 「いいの、今生の別れというわけではないのだから。いつか、たくさんの土産話を持ってまた帰ってくるわ」

 

だが、ヴェラとリューは旅立ってすぐにまた、ロンダリアに戻る事となる。

 

襲って来た盗賊を捕らえたので、それを衛兵に引き渡すためである。 

 

ヴェラ 「あなた……ブオン?」

 

盗賊のリーダーは、リューが街に来た時にシンドラル伯爵の紹介状を確認もせずに破り捨てたブオンであった。

 

ブオンはあの後、街衛騎士隊の隊長を解任され、ヒラの衛士に降格されたのだが、その後失踪したのだ。

 

ブオン 「せっかく野盗から貴族に成り上がるチャンスだと思ったのに、よくも計画を邪魔してくれたな。恨みを晴らしてやる!」

 

ヴェラ 「別に、隊長でなくなったとしても、またヒラからやり直して出世を目指せば良かったんじゃないの? エミリア様は、しばらく様子を見て、ちゃんと学ぶべき事を学んだら、また隊長に戻してもいいと言っていたのよ?」

 

ブオン 「なん…だと? 本当か?!」

 

ヴェラ 「強盗を働いてしまったらもう出世は絶望になるわよ? まだ何もしていないのなら、見逃してあげるから盗賊の真似事などやめて、街に戻りなさい。それともまさか、既に誰かを殺してしまったの?」

 

ブオン 「……いや、まだ殺してはいねぇ。そうか、すまねぇ、もう一度頑張ってみるよ、ありがとう……

 

……なんて言うと思ったか?!

 

真似事じゃねぇ、元々こっちが本業なんだよ! ヒラからもう一度地道に出世を目指すなんてそんな面倒な事やってられるか! こうなったら盗賊で成り上がってやる! まずはお前ら! 死ね!」

 

リューとヴェラをブオンの部下が取り囲み、襲い掛かかるが……

 

…もちろん、次の瞬間にはリューの素振り用の棍棒で全員打ちのめされていた。

 

リュー 「お前……あの時もまったく歯が立たなかったのを忘れたのか?」

 

ヴェラ 「多分、忘れてしまったのでしょうね……頭が悪いから、騎士をやめて野盗で成り上がれるなんて思えるわけだし」

 

リュー 「そう言えばあの時の副官が居ないな、なんて名だったか……」

 

ヴェラ 「キッドね、彼は現在はブオンの代わりに小隊長に就任したわ。彼は元々子爵の三男で、ブオンの監視を命じられていただけだから」

 

ブオン 「…っ、くしょう! キッドの下で一からやり直すなんてできるわけねぇだろうが」

 

ヴェラ 「彼の下でちゃんと学べば、返り咲く道もないわけではなかったのに、頭が悪いわね」   

 

 

 

リューとヴェラは盗賊たちを全員縛り上げ、街まで引っ張って行き門番に引き渡し、改めて二人旅の再開である。

 

まずは目的地はバイマークである。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

村長 「冒険者なんて信用でけるかい」

 

乞うご期待!

 

 

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