第395話 奴隷ギルド騒動顛末

『全員動くな!』


リューが奴隷ギルドのマスターの執務室でキロイバと話していた頃、リリィが王城から連れてきた大勢の騎士達が奴隷ギルドに踏み込んできていた。


『ゆっくり立ち上がって壁際に移動しろ! 全員だ! 妙な動きをした奴は即座に黒焦げにするぞ』


数人の騎士たちの後ろには、攻撃魔法の得意な魔道士達が大勢居て、既に魔法発動の準備を終えていた。


違法奴隷を扱った者は犯罪奴隷に落とされる重罪である。それを奴隷を管理しているギルドが率先して行っていたのだ。事は重大である。


奴隷ギルドの本部が大規模な不正で摘発されるというのはかなりの大騒動になるだろう。


奴隷ギルドは非常に多くの貴族を抱き込んでいるので抵抗も大きいだろうが、王を始め、奴隷ギルドの暗躍に頭を痛めていた勢力はこの時を待っていたのだ。このチャンスを逃す気はない。一気に奴隷ギルドを掌中に収め、不正をすべて洗い出すつもりである。


職員は全員拘束され、一人ひとり尋問を受ける事になった。重犯罪なので一時的に取り調べ専用の隷属の首輪を着けての事情聴取となる。誰も嘘はつけない。


この首輪は隷属ギルドの技術者を使わず、王宮が独自に雇った魔道士が制作・管理しているものであるので、奴隷ギルドに都合良いように調整はされていない。


結果としては、一般の職員はほとんど不正に関わっておらず、無罪となって釈放されたが、上級の幹部職員は全員が有罪となった。


ランドマスターを始めとする幹部達が全員逮捕されてしまった事で、奴隷ギルドの業務に支障が出るかと思われたが、意外と問題はなかった。


一般職員が不在となった数日は業務は当然停止されたが、無罪となった職員達が戻ってからは通常営業にすぐにもどったのであった。どんな仕事でも、実際の業務を回しているのは幹部ではなく一般職員なのだから、そんなものなのだろう。


摘発は奴隷ギルドの本部だけに収まらず、国内各地の支部にも波及し、違法奴隷を扱っていた事を知っていた者は逮捕される事となるだろう。


支部に居た幹部やエージェント達の中でも敏い者達は素早く行方をくらましたが、全員指名手配される事となった。


国内の奴隷についても、違法奴隷が居ないかの調査が随時進められる事になった。これで、騙されたり攫われたりして奴隷に落とされた子供達も多くが救われていくだろう。


さらに、奴隷ギルドの秘密の記録が暴かれ、“隠れ奴隷” の存在も明らかになり、随時摘発されていった。


商業ギルドや教会だけでなく、殆どの貴族の屋敷の使用人、さらには王宮で働く者の中にさえも多くの隠れ奴隷が居た事が発覚。貴族社会にも大きな衝撃を与える事となった。


それらの隠れ奴隷は、個々に奴隷になった経緯が異なっている。時間は掛かるがそれはすべて精査され、違法奴隷であれば解放、借金等の場合も、借金をするに至った経緯などが配慮され、騙されたケースなどでは釈放された。






ただ、これだけの騒動になったのにも関わらず、奴隷ギルドのワールドマスターは沈黙して出てくる事はなかった。


各国の奴隷ギルドの管理・運営は各国のランドマスターにすべて任せているので、各国の法律に照らし合わせて好きに罰してくれという返答が一言あったのみだそうだ。


ランドマスター達は、当然ワールドマスターの指示で世界の裏側からの支配を進めていた。……そのつもりであったが、ワールドマスターはそんな事を指示した覚えはないと回答するのみであった。


ワールドマスターは狡猾であった。それっぽい言葉を人伝に匂わせただけで、直接ワールドマスターに会って具体的な指示を受けたという者は一人もいなかったのである。


そのため結局、ワールドマスターまでは責任の追求は届かず、ランドマスターのキロイバが勝手に勘違いの忖度をしただけ、という事になってしまった。


リューは神眼を使ってキロイバの心を深くまで探ってみたが、どうやら本当にワールドマスターの顔も居場所も知らないようであった。


いかにリューの【神眼】を持ってしても、限界がある。この世界のどこに居るのかも分からない、会った事もない人間を探し出すのは不可能に近い。この世界の人間を一人ひとり調べていく事は可能だが、とてつもない時間がかかるだろう。能力は神がかっていても、リューの時間と心は有限なのだ。


探し人は、手がかりを探し、見つけた手がかりから手繰り寄せていくしか無い。だが、奴隷ギルドのワールドマスターは、その繋がりを見事に消して掴ませないようにしていた。実に用心深い人物のようである。


その謎の人物を、なぜリューが探しているかと言うと、実は、リリィに頼まれたからである。


実は、リューはワールドマスターの名前と顔を知っていた。リリィが知っていたからである。リリィの心を読み、その記憶の中にある顔と名前を知ったのだ。


ただ、残念ながら、現在の居場所まではリリィも知らなかった。


リリィと共にリューは奴隷ギルドのワールドマスターと対峙する事になるような予感がリューにはあったのだが、それは今しばらく先の事となるようであった。




  * * * * *




奴隷ギルド・ワールドマスターは、その隠れ家の中で事の顛末の報告を受けていた。


ワールドマスターの居場所は、各国のランドマスターでさえも知らない。ほとんど表に出てこない謎の存在である。


ワールドマスター 「ガレリアの奴隷ギルドは大ダメージだな……。


リュージーンか……覚えておこう。


今は調子に乗らせておいてやる。だが、このままで済むと思わない事だ……」


そう呟いたワールドマスターの面影はどことなくリリィに似ていた。


ワールドマスター 「それにしても、リリィの亡霊がまだ彷徨いているとは……。しかも、リュージーンと組んで、私を狙うか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ドロテア 「リューに手伝ってもらいましょう」

エド王 「リューならもう王都には居ないぞ?」

ドロテア 「ちっ、逃げられたか…」


乞うご期待!


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