第396話 スパイの洗い出し

奴隷ギルドの不祥事、特に、隠れ奴隷スパイの存在が公になった事で、王都はしばらくの間、騒然となった。


鑑定士を使って、国中のスパイの洗い出しが行われる事になったのである。


ドロテア 「陛下、王宮内の調査はすべて完了いたしました」


エド王 「して、結果はどうだったのだ?」


宰相 「かなりの人数となりました……由々しきことです。ほとんどの部署に一人以上の奴隷ギルドのスパイが潜り込んで居たようで。幸いにもと言ってよいのか分かりませんが、重要なポストの人間からはあまり発見されませんでしたが」


王 「あまり? という事は……」


宰相 「はい…三人ほど。三人で済んで良かった、と言うべきか」


ドロテア 「三人 “も” 入り込まれた、だろうな」


王 「まぁ、王宮はまっさきに狙われるだろうから仕方ないが……とは言え、雇う際の身元調査はどうなっているんだ?」


宰相 「それが、最近、身元確認を行う部門の責任者が交代しまして、その者が隠れ奴隷スパイだったのです。その者が担当になってから、かなりの数のスパイが入り込んだ模様で。全員、末端の使用人というような身分の者達ですが」


王 「全員、奴隷ギルドから派遣されてきたスパイか?」


宰相 「いえ、それが……何人か、別のところから派遣された者達も発見されておりまして。隣国からのスパイ、国内の貴族から派遣されたスパイ等ですな。まぁ、国内でも国外でも、結局は奴隷ギルドが絡んでいる事には変わりないのですが」


王 「逃亡した者は居なかったのか?」


宰相 「王宮を封鎖して誰も出さないように命じて調査を行いましたので。それに、奴隷になった経緯に違法性があれば解放してもらえるという事で、逃げようとする者はなかったようです」


ドロテア 「まぁ奴隷であれば、正体が発覚しても責任はすべてその持ち主という事になるから、奴隷が必死で逃げる理由もないか」


宰相 「ドロテア殿が手伝ってくれたおかげでなんとかなりましたが、それでも二週間も掛かってしまいました。これから王宮外の国の機関に勤める者達の調査です。引き続き、ドロテア殿にもご協力をお願いしたい」


ドロテア 「うえ、そっちも手伝うのかぁ… まぁ、仕方ないか……今回は奴隷ギルドの技師を使うわけにはいかないからな」


宰相 「せめて重要機関の者についてはご協力をお願いしますぞ。末端の職員に関しては、多少時間が掛かっても構わんでしょうが」


国の機関だけではない。貴族達や大商人達も、自分の屋敷の使用人達を調査したがったので、高レベルの鑑定ができる者の需要は非常に大きくなってしまった。


国は、リューに言われて違法奴隷の調査をするために腕の良い鑑定士を先立って押さえていたためなんとかなったが、それ以外の鑑定士は引っ張りだことなり、報酬は高額であったが、それでも倒れそうなほど忙しくなってしまったのだった。


まぁそんな事は、何の権力もない、金もない平民・庶民には関係のない話であったが。


ドロテア 「そうだ、リュージーンにも手伝ってもらえば…」


王 「リュージーンならばもう王都には居ないのではないか? 一度私のところに報告に来たが、その時、すぐに旅立つと言っていたぞ」


ドロテア 「くそっ、逃げられたかっ」




  * * * * *




その頃リューは、エド王の言ったとおり既に王都を離れ、馬車でトナリ村に向かっていた。


トナリ村までは、ダヤンの街があった方面とは別の方角に伸びる街道を進んで、いくつかの街を経由する事になる。


リューは王からも貰うべき金は貰ったし、ランクアップも無事に完了したので、王都に居る理由がなくなったのだ。


※この国に逃げ込んだ元勇者を捕らえるという目的があったのだが、リューはすっかり忘れていた。ただ、ヴェラはちゃんと憶えていて、指摘されたリューはユサークについて王に尋ねてみたのだが……


この国に逃げ込んできたユサークを保護し連れて行ったのはガーメリアだった。だがどうやら、逃亡勇者を国に引き入れる計画は王やガーメリア達が指示した事ではなく、軍部が勝手にやった事だったらしい。ガーメリアは報告を受け、仕方なく保護に行っただけで、連れ帰った後は軍部に引き渡したとのこと。そして現在は……


性格に難のあるユサークは軍部でも扱いづらかったようで、好き勝手してしょっちゅう問題を起こすので、戦闘奴隷として領土問題で係争中の隣国との国境線に異動させられたのだが、なんと、その後、戦闘中に行方不明になってしまったとの事であった。


ただ、戦死したわけではないらしい。破壊された隷属の首輪は落ちていたが、死体はなかったらしい。おそらく戦闘中のドサクサで首輪が外れて逃亡したのではないかとの事であった。


それを聞いたリューはユサークの事は一時放置しておく事にした。ユサークの魔力はリューも知っているので、リューが調査に出向いて神眼をフルに使って捜索すれば見つけられる可能性は高いだろうが……ユサークの件は、もはやリューの中では優先事項はそれほど高くなかった。


ヴェラ 「(捕らえなくて)いいの?」


リュー 「できたら・・・・捕まえる程度の話しかしてなかったから、いいんじゃないか? それよりは、まず、レスターとアネットの住む場所を故郷に用意してやる事のほうが重要だ」


再びバトルホースのランドルフに馬車を牽かせての旅。


メンバーはリューとヴェラ、レスターとアネット。もちろんランスロット達スケルトン軍団は常にリューと一緒である。そしてさらに、今回はミィも一緒である。


(奴隷ギルドに詳しいリリィは王都での奴隷ギルドの件の後処理で色々と王の手伝いをしてほしいとの事で、アドバイザーとして王都に残った。)


そして、次の街は特に何事もなく一泊した後通過。そしてさらに次の街ライムラへ。それは、ミィの故郷の街であった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「ミィ! あなたなの?! 生きてたの?!」


乞うご期待!



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