第443話 トナリ村の冒険者ギルドのレベッカとルイーザ

サクッと掛け金を全額受け取って帰ろうとしたリューだったが、待ったをかけられた。


賭けにはリューが勝ったが、全額貰うというわけにはいかなかった。リューはてっきり全員自分が負けるほうに賭けていたのかと思っていたのだが、リューが勝つ方に賭けていた者も何人も居たのである。


そうなると、賭けた額の割合で賞金を分配する必要がある。


マツ 「くそぉ、お前ら、ずるいぞ」


トーゴ 「何もズルはしていないぞ」


ギーム 「そうだ、正当に賭けて勝っただけだ」


計算に少し時間が掛かったが、リューも無事配当金を貰った。もちろん儲かったのであるが、正直、リューにとっては大した金額ではなかったのだが。


ただ、他の冒険者にとっては、そうでもない。中には恨みがましい目で睨んでくる者も居た。日銭を稼ぎながら暮らしているような冒険者の中には、全財産を賭けてしまったような者も居たようだ。


金も受け取ったので帰ろうとしたところ、受付嬢のレベッカに声を掛けられた。


レベッカ 「あの! リュージーンさん…」


リュー 「んん?」


レベッカ 「ちょっとお話よろしいですか?」


リュー 「ああ、なんだい?」


レベッカ 「その、リュージーンさんは、この村では、冒険者としての活動はされないのですか?」


リュー 「ああ…、やらないと決めてるわけでもないんだが、色々やる事もあって、忙しかったんでな。そのうち、気が向いたらまた活動をするつもりではいる」


レベッカ 「そうなんですね! あの、ギルドマスターが、時間があるようでしたら少しお話がしたいと言っているのですが……」


リュー 「ギルマス? なんか面倒くさそうな感じになってきたな」


レベッカ 「まぁそう言わず。お茶でも飲んで行って下さいませんか? 美味しいお茶菓子もありますから」


リュー 「お茶菓子ね……」


レベッカ 「はい、何があるかは見てのお楽しみと言う事で!」


グイグイとレベッカに手を引かれ、リューはギルマスの部屋へと連れて行かれたのであった。




  * * * * *




ギルマス執務室で、レベッカの淹れてくれたお茶を飲むリュー。(ランスロットがスケルトンである事は説明済みなので、お茶とお菓子は一人分だけである。)


お茶は、日本の抹茶に近いものであった。エド王に貰った茶葉は紅茶のような味と香りだったが、この村の茶は和風な感じでなかなか美味であった。茶菓子も日本の京菓子に似た練り菓子でなかなか美味い。


リューの向かいで、お茶と茶菓子を頬張っているリューをほほえみながら見ている中年の女性は、この村のギルドのマスターで、ルイーザと名乗った。少し歳は離れているが、レベッカとは姉妹なのだそうだ。


ルイ 「私の事はルイと呼んでね。お茶菓子が気に入ってくれたようで良かったわ。それで、リュージーンさんは、この村には何の目的で…?」


リュー 「リューでいい。理由については、話す必要はなくないか?」


ルイ 「ごめんなさい、そう警戒しないでちょうだい、他意はないのよ。ただ、どれくらいの間、村に居てくれるのかと思ってね。強い冒険者が村に居てくれるのはありがたいのよ」


リュー 「まぁ別に隠し立てするような理由もないんだがな。俺が旅の途中で保護した子供達が、サビレタ村の出身でな」


ルイ 「まぁ! 名前は?」


リュー 「レスターとアネットだが」


レベッカ 「レスターとアネット?!」


ルイ 「ボラオとファーナの子ね、良かった、二人は生きていたのね?!」


リュー 「ああ、盗賊に拉致されて奴隷にされていたのを偶々保護したんだ」


ルイ 「そうだったの……ありがとう! ボラオとファーナもこの村の冒険者だったのよ。サビレタ村の開拓に参加していたんだけど、あんな事になってしまって…」


リュー 「二人が、両親の墓に近いこの村に住みたいと言ってたんでな。この街の教会で面倒を見てもらう事にしたんだ。


…まぁ保護した手前、俺も無責任に放り出すこともできんから、しばらくは村に居る事になると思う」


レベッカ 「教会、ですか? この街の教会は神父様が故郷に帰られてしまったので、無人の廃墟だったはずですが」


リュー 「ああ、途中でシスターも拾ってきてるから大丈夫だ。教会は土地建物ごと買い取って、修繕してもう住み始めているよ」


レベッカ 「シスターって拾ってこれるものなんですか?」


ルイ 「ふふふ、ケイトから聞いているわ。既に学校と治療院も開設したのよね。村としてはありがたい限りだわ」


リュー 「ケイト? ああ、村長か」


レベッカ 「あの、この街にしばらく居てくださるならば、何か緊急事態が起きた時は、ご相談させて頂いてもよろしいですか?」


リュー 「ん? ああ、相談だけなら、話は聞いてもいいぞ。聞くだけだけどな。面倒な依頼は断るぞ」


ルイ 「ありがとう、話だけでも聞いてもらえれば助かるわ。ここは周囲に未開拓の自然が多くて、時々危険な魔物なども出たりするのでね」


レベッカ 「Sランクの冒険者の方が居てくださると心強いです。実は、このギルドのナンバーワンのAランク冒険者の方が、村を離れてしばらく戻ってこないものですから、ちょっと不安だったのです」


リュー 「そのAランク冒険者はどうしたんだ?」


レベッカ 「この先に見える山に探検に行くと言って村を出たきり、もう2ヶ月近く戻らないのです」


リュー 「旅に出たのなら何ヶ月か戻らなくても別におかしくはなかろう?」


ルイ 「ただの旅ならそうなんだけどね。この先は、人の手が入ってない未開の地で、強力な魔物もいるし、この先にある山脈の向こう側には、凶悪なドラゴンが居るという噂もあるのよ。ラデツキーは、ドラゴンを見てみたいと言い出して、山を超えると言ってたので……」


リュー 「それならなおさら、時間がかかるかも知れないじゃないか。まぁ確かに、途中で魔物に襲われて死んでしまった可能性もあるだろうけどな」


レベッカ 「ラデツキーさんはきっと生きてます!」


ランスロット 「おや、もしかして、そのラデツキーさんとレベッカさんは……?」


ずっと背後に立って沈黙していたランスロットが話に加わってきた。


ルイ 「ええ、レベッカはラデツキーと結婚の約束をしていたのよ…。ラデツキーもレベッカを放って旅に出てしまうなんてね、まったく…」


リュー 「ああ、悪かったな。優秀な冒険者なんだろう、そのラデツキーは? だったらきっと生きているさ。そのうちひょっこり帰ってくるんじゃないか?」


レベッカ 「私もそう信じています…」


リュー 「さて、茶菓子も食ったし、俺はそろそろ帰らせてもらうぞ。色々と俺も忙しいんだ」


ルイ 「引き止めてしまってごめんなさいね。暇だったらいつでも立ち寄って」


   ・

   ・

   ・


ギルマスの執務室を出て、ギルドを出ようとしたところで、冒険者の男に声を掛けられた。


冒険者A 「おい、勝ち逃げかよ?」


冒険者B 「儲かったんなら、酒くらい皆に奢る気配りはないのか?」


リュー 「ないな」


キッパリと言い切るリューに驚いて顔を見合わせる男たち。生意気な事を言うヤツには絡む荒くれ者達だが、まともに戦って勝ち目がなさそうなのを十分理解したため、誰も動かず。リューはすんなりとギルドを出て行ったのであった。




  * * * * *




ランスロット 「リューサマ、畑を任せている兵士から妙な報告がありました」


リュー 「妙な?」


ランスロット 「アネットが、畑で遊んでいるようなのです」


リュー 「別に、構わなくないか? 畑の作物を荒らしてるとか?」


ランスロット 「いえ、そういう事はないようですが……どうやらマンドラゴラを植えた畑のようです」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


アネットの新しいお友達


乞うご期待!



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