第444話 喜びの舞い?
実は、畑の一角に試しに植えてみたマンドラゴラは、既にかなりの数に増えていた。
マンドラゴラは魔力を栄養にして成長すると聞いたリューが、加減もなしに大量の魔力を畑に注いでみた結果、あれよあれよと分裂するように増えていったのである。
ただ、マンドラゴラは土から引き抜こうとすると叫び声を上げる。その叫び声は実は魔物の
アネットは畑で遊んでいると言っていたが、もし、マンドラゴラを抜こうとしたりしたら危険である。
だが、よくよく聞いてみると、アネットはマンドラゴラや(その他の作物にも)手を出したりはしていないそうだ。賢い子である。
リュー 「じゃぁ、一体何が問題なんだ?」
ランスロット 「どうも、アネットが誰かと一緒に遊んでいるそうなのです」
リュー 「レスターじゃないのか?」
ランスロット 「レスターではないそうで」
リュー 「近所の子か?」
ランスロット 「違います」
リュー 「じれったいなぁ、誰なんだ?」
ランスロット 「マンドラゴラだそうです……」
リュー 「…はぁ?」
* * * * *
家に帰り、そのまま裏庭の畑に直行したリューは、アネットと一緒に土のお城を作っているマンドラゴラの姿を見つけたのであった……
身体の大きさは、アネットより小さい。
手足があり頭があるが目鼻はなく、頭の上には髪の毛の代わりに葉が生えている。
リュー 「まるで動く大根……大根の妖怪だな」
アネット 「あ、ドラちゃん!」
リュー達に気付いたマンドラゴラは、はっと一瞬固まった後、大急ぎで畑の中に飛び込んで、土に潜ってしまったのだ。まるで人間の髪の毛のようだった頭上の葉は、周囲のマンドラゴラの葉と同じような形状にみるみる成長していく。
アネット 「ドラちゃん、大丈夫だよ、さっき話したリュー兄ちゃんだよ。出ておいで!」
リュー 「ドラちゃん?」
アネット 「うん、マンドラゴラのドラちゃん…」
すると、土の中から恐る恐るといった感じで、先程のマンドラゴラがゆっくりとのっぺらぼうの顔を出したのであった。顔を出したということは、目はないが見えているということなんだろうか?
ランスロット 「これは、珍妙な事になっておりますな」
リュー 「そう言えば、ダンジョンのボスだったマンドラゴラの上位種は動き回ってたな。もともとマンドラゴラって動けるって話もあったような?」
ランスロット 「とは言え、このように自由に動き回って、人間の子供と遊ぶというようのは、聞いたことがないですが……おそらく、リューサマが大量に魔力を注いだ事が関係あるかも知れませんな。それと、アネットが名前を付けた事と合わさって、進化したのでしょう」
リュー 「
ランスロット 「上位種というより、変異種かも知れませんな。これはまた、研究者が知ったら騒ぎになるでしょうなぁ……」
リュー 「生マンドラゴラを手に入れる方法を研究したかったんだが」
※マンドラゴラは土から抜いてしばらくすると死んで干からびたような状態になってしまう。市場に出回っているのは死んで萎んだ状態のマンドラゴラなのである、言わばマンドラゴラの干からびた死体である。だが、生きている水々しい状態のマンドラゴラであれば、その効能は計り知れない……ので高く売れるのではないかとリューは考えたのだ。
ランスロット 「完全に生きた状態の、まさに生マンドラゴラですが」
リュー 「いや…こうなってしまうと、殺して薬にするのは気が引ける感じになってしまうなぁ……」
それを聞いたアネットが慌ててドラちゃんを背中に隠すように庇い、首をプルプル振った。
リュー 「安心しろ、アネット。殺したりはしないよ…」
それを聞いて、ほっとした顔になったアネットは、畑に向かって声を掛けた。
アネット 「大丈夫だって! みんな出てきなよ!」
すると、畑に植えられていたマンドラゴラが一斉に土から這い出てきて、アネットの周りで踊り始めた。
リュー 「おいおい、なんだこりゃ……」
ランスロット 「喜びの舞、じゃないですかね?」
リュー 「ってか、俺がイメージしてた生マンドラゴラってのは、こういう感じじゃないんだが……」
マンドラゴラを栽培して売りに出せるようになれば、孤児院の運営資金として、教会がスポンサーを持たずとも自立できるのではないかと考えていたリューであったが、ちょっと予想外の結果になってしまった。こうなると、売る事はできないだろう(売ったら大騒ぎになってしまう)
ランスロット 「リューサマ、大丈夫でしょう。おそらく、この畑のマンドラゴラはリューサマの無尽蔵な魔力を吸ってしまったため、このように変異したのだと思われますので。与える魔力量を抑えてやれば、通常のマンドラゴラの栽培も可能ではないかと」
リュー 「そうか、そうだな。もう少し、色々試してみるか……」
ランスロット 「それと、おそらくですが、この状態なら、テイムして従魔にする事も可能かも知れませんね? 植物系モンスターをテイムしたという話はかなりレアですが、事例がないわけはなかったと思います」
リュー 「ああ、なるほどなぁ。従魔にしてどの程度の利用価値があるのか分からんが、まぁそれも追々研究していくかね…」
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次回予告
カツカレーが無性に食いたい! ヴェラ、作ってくれ!
乞うご期待!
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