第445話 フードバトル!
リューはトナリ村に腰を落ち着けたらやってみたい事がいくつかあった。
マンドラゴラの栽培もそのうちの一つであったのだが、そちらは妙な展開になってしまい、今後の研究課題として様子見である。
次にもう一つ、やってみたい事は……
リュー 「ヴェラ、トンカツを作ってくれないか。カツカレーが食いたい!」
ヴェラ 「懐かしいわねぇ、あなた好きだったものねぇ。カツ丼とカツカレーは、世界で一番美味い料理だっけ?」
リュー 「うむ。甲乙つけがたいが、強いて言うなら、カツカレーが一番、カツ丼が二番だな」
ヴェラ 「そうなんだ。私はカツカレーよりカツ丼派かなぁ? そうね、私に久しぶりに食べてみたいわ。リューが居れば異国の食材や調味料だって手に入るしね。よし、カツ、作ってみましょう!」
肉は、リューが狩った素材が収納に山程入っているので問題ない。オークの肉が地球の豚肉に近いが、
カレーは以前作ったので、レシピは分かっている。材料はヴェラの指示でリューが転移で各国の市場に飛んで購入してくる。
パンは、この村にも売っていた。乾燥して固くなったパンで十分である。それを摩り下ろしパン粉を作る。あとは肉に小麦粉をまぶして卵につけてパン粉で衣を付け、油であげればできあがり。
揚げる油の種類も温度も試行錯誤しながらだったので少し時間が掛かったが、なんとか無事、トンカツが完成した。
ヴェラ 「うん、美味しそう!」
さっそく、晩ごはんにトンカツが出される。
モリーと子供達も喜んで食べていた。(食事はいつもまとめて作って全員一緒に食べている。)
しかしリューは残念そうであった。
リュー 「……これはこれで美味いが……やっぱりもの足りないんだよなぁ……」
正直言えば、カツを揚げるくらいはリューでもできた。それを今までやらなかったのは、ソースが作れなかったからだ。通は塩だけでも美味いなどと言うが、リューはやはり、とんかつソース派なのである。なんならカツカレーにもソースを掛ける、というか、そのほうが絶対美味いとリューは言い張っていた。
リューから次の指令がヴェラに下る。ソースの作成である。
ヴェラ 「はいはい分かりました。しかし考えてみれば、調味料が簡単に手に入った日本は楽だったわねぇ……」
マヨネーズは比較的簡単に作れるが、ソースは少し難しい。
料理上手なヴェラもソースの作り方まではうろ覚えであったが、わずかな記憶を頼りに工夫しながら、なんとか完成にこぎつけた。
その間に、リューは市場を回ってはちみつをゲットしてきていた。
これで、リューの食べたいカツカレー材料・調味料は全部手に入った。
カレーライスを作り、カツをのせ、ソースを掛ける。さらに、はちみつも掛ける。これがリューが世界一美味いと言う食べ方なのだ。
ヴェラ 「正直、私はそこまで言うほど美味しいとも思わないんだけどねぇ……」
リュー 「あ、次はカツ丼も作ってね」
ヴェラ 「カツ丼は無理よ」
リュー 「なんで?」
ヴェラ 「醤油と出汁がないとカツ丼のあの味は出ないからね。出汁はともかく、醤油を作るのはソース作りよりハードル高いのよ! あれは発酵食品だから、微生物の研究・管理が必要なの。簡単に家庭の調理場で作れるもんじゃないのよ…」
リュー 「ふっふっふっ、大丈夫だ!」
ヴェラ 「?」
リュー 「醤油も手に入れてある!」
ヴェラ 「マヂカ!」
実は、あちこちの市場を回っていて、醤油によく似た調味料を仕入れている店をみつけたのだ。遠い異国の調味料なのでかなり値がはったが、リューが買い占めて来たらしい。
というわけで、次の日はカツ丼が作られたのであった。
カツカレーとカツ丼は、モリーとレスター・アネット、アリサにも大好評であった。
だが、問題が発生した。
モリーとアネットはカツカレー派、レスターとアリサはカツ丼派で、どっちが美味いか、
ヴェラ 「どっちも美味いでいいじゃない。比べるもんでもないでしょう?」
リュー 「そうだな。まぁ俺的には、カツ丼もいいが、やはり一番はカツカレーだけどな」
アネット 「はちみつ掛けたら美味しくなるの!」
レスター 「お子ちゃまなんだよアネットは。やっぱりカツ丼のほうが大人の味わいが……」
まぁ大した喧嘩ではないのだが、リューが面白がって、村の人間達にも試食してもらい、投票で勝負を決める事を思いついたのであった。
村長のケイトに話をしたら、非常に好反応であった。田舎の村なので娯楽も少ないので、イベントは大歓迎らしい。すぐに話しは進み、一週間後、村の中央広場で試食会が開かれる事になったのであった。
だが……
リュー 「魔物狩ってるほうが正直楽だったな……」
思いつきで突っ走ってしまったが、実現するには大量のカレーとカツ丼を作らなければならない。そして、予想をはるかに超える人数が参加してくれる事になってしまったのだ。当日、ヴェラとリューは、モリーとアリサにも手伝ってもらったが、その作業はかなり大変だったのだ。
この村の人口は総勢で千人弱(冒険者除く)。それとは別に冒険者が二~三百人ほど居る。(※定住していない旅の冒険者含む。)
さすがに全員分は用意できなかった。なんとかヴェラ達が用意できたのは小鉢で五百食程度。
だが、村の人間はほぼ全員、参加希望だったため、前日に広場で抽選が行われたのであった。
そして当日。参加者に実食してもらい、どちらが美味いか投票用紙を入れてもらう。
結果は……
カツ丼が僅差で勝利したのであった。
カレーのスパイスが未経験の者も多く、そこが若干の抵抗となったかも知れない。カレーが定着していけば、結果はまた変わるかも知れない。
村人達にも大好評で、小鉢では物足りない、もっと食べたいと言う声が非常に多くあり、リューは食堂をオープンさせる事にした。
実は、食堂の経営は、リューが日本に居た頃からやりたいと思っていた事のひとつなのであった。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
店を開くのも大変です
「魔物狩ってるほうが楽だったな」
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます