第442話 今度は魔法勝負だ

リュー 「…お前は?」


エンリケ 「俺はエンリケ。腕力はないが、魔力のほうは少々自信がある。魔法王国と言われるこの国で大事なのは、筋力よりも魔力だ。どうだ? 魔法勝負、受けるか?」


リュー 「いいだろう。なんて、実は、俺は魔法があまり得意ではないんだがな。まぁ、それでも負けはしないだろ」


エンリケ 「なんだと? 舐められたもんだな。後で泣きを見るなよ」


リュー 「だが、待て。よく考えたら、今日、模擬戦に付き合ってやってるが、これって俺には何もメリットがないんだが、お前達、賭けをしていると言ってたな? じゃぁ俺もそれに乗せてもらおうか。今、掛け金総額はいくらだ? ……そうか、じゃぁそれと同じ金額を俺も賭けよう。俺に勝てば全員掛け金は二倍になって帰ってくるってわけだ。俺が勝ったら、掛け金は全額俺の総取りだ。どうだ?」


エンリケ 「いいだろう!」


冒険者達 「ちょ、待て! エンリケ、勝手に決めるな」


慌てて周囲の冒険者達はエンリケを止め、隅に集まって少し話し合っていたが、すぐに戻ってきて、結局条件を了承した。


ただし、あくまで魔法勝負、物理的な攻撃は一切禁止という条件だそうだ。なるほど、筋力勝負ではなく、純粋な魔力勝負なら可能性があると考えたのであろう。


リューがその条件を飲んだので、模擬戦・第二ラウンド開始である。






訓練上の中央で向かい合って立ったリューとエンリケ。


物理攻撃ではなく魔法勝負なので、通常よりかなり離れた位置である。


リュー 「先手は譲るよ」


エンリケ 「後悔するなよ」


そう言うなり、エンリケが攻撃魔法を放ってきた。基本とも言える火球ファイアーボールであるが、さすが、自信有りと言うだけある、無詠唱での発動だった。


だが、火球はリューに近づくにつれ弱まり、リューに到達する頃までには霧散してしまう。


エンリケ 「!」


慌てて、エンリケは追撃の火球を数発放ったが、やはりすべてリューに近づくと霧散してしまう。


エンリケ 「くそっ、なんだ? 魔法障壁か?」


エンリケはさらに、火球だけでなく風属性・氷属性・土属性の攻撃魔法を放ってきた。もちろん全て無詠唱である。


リュー 「複数属性の魔法を全て無詠唱で使えるのか、自信ありと言うだけの事はあるな」


だが、やはり、全ての魔法攻撃がリューに到達する事なく霧散してしまった。


エンリケ (…なんだ? 魔法障壁か? 違うな、障壁ならあのように霧散してしまう事はない。魔法障壁は攻撃魔法を打ち込めば消耗し、限界を超えれば破壊できるはず。だが、ダメージを一切与える事なく魔法が霧散してしまっているように見える……奴は一体何をしたんだ?)


焦るエンリケにリューが声を掛ける。


リュー 「終わりか?」


エンリケ 「まだだっ!」


今度はエンリケが呪文詠唱を始めた。どうやら先程よりも強力な攻撃魔法を使うつもりのようだ。


前衛の時間稼ぎもなしに詠唱している魔法使いなど、魔法を発動する前に殴り倒してしまえば済む話なのだが、今回は魔法のみの勝負なのでそれは反則である。もちろん、魔法勝負でも負ける事はないのだが、エンリケが何をしようとしているのか見てやろうと、気長に詠唱が終わるのをリューは待ってやる事にした。


やがて詠唱は終わり、巨大な火球がエンリケの前に浮かんでいた。唱えていたのは火球の上位呪文であったようだ。ヒネリはないが、初級の火球よりもずっと強い攻撃力がある、シンプルだが効果が高い攻撃である。


火球がリューに向かって放たれる。


リューからは炎の球しか見えていないが、実は火球の後に、続けて同じく巨大な氷槍が飛んでいた。二段構えの攻撃だったのだ。しかも、最初に熱し、直後に急激に冷却する、その温度差で破壊力を増す効果もある。


だがそれも、リューには意味がない。火球も氷球もリューに近づくにつれてどんどん弱くなり、リューの身体に到達する頃には完全に霧散してしまったからである。


エンリケ 「あれほどの大きさの魔力でも霧散させてしまえるのか……」


エンリケは今の攻撃だけでかなり魔力を消耗したようで、苦しそうな表情をしていた。


エンリケ 「完璧な魔法防御を持ち、かつ、あの膂力で剣を振るか。なるほど、Sランクはやはり本物らしいな」


リュー 「終わりか? …それじゃぁ、今度は俺の番だな」


エンリケ 「って防御だけじゃなく、攻撃魔法もできるのか」


リュー 「ああ、できるよ。とは言うものの、俺は魔法のコントロールが苦手でな、加減ができないんだ。まともに攻撃したら怪我では済まないかも知れんから、誰も居ない方向に撃つから見ていろ」


そういうと、リューは誰も居ない壁のほうに向かって巨大な炎を放った。制御が甘いためそれは火球になりそこなった火炎放射なのであるが。


力任せに魔力を注ぎ込まれた、とんでもない高熱の火炎放射が壁にぶち当たり、そのまま壁に穴が開いてしまう。


リューは以前、これでその先の山まで全部吹き飛ばしてしまった事があった。


だが今回は、山ではなく、その先にあるのは村の住宅街である。このままでは大惨事になる。


…だが、リューも賢くなっていた。


今回は、壁の外に魔法陣が浮かんでいた。亜空間の入口を壁の外に作っておけば、火炎放射はそのまま亜空間に飛び込んでしまうというわけである。おかげで壁の向こう側の住宅街は無傷である。


エンリケ 「ばっ、馬鹿な。訓練場の壁は強力な防護魔法が掛けられていて破壊不可能なはずだ。それをぶち破るなど……」


先程リューは怪我では済まないと言ったが、冗談ではない。あれをもし自分に向けられていたら……自分は灰になってこの世から消えていたであろう事をエンリケは理解した。


エンリケ 「ま…


…マイリマシタ」


エンリケは膝を付き、負けを認めた。


エンリケ 「まさか、ガレリア王立魔導士教会からAランクの認定を受けたこの私でも敵わないとはな……


君、君も魔道士教会に行って認定試験を受けてみたらどうだ? 制御が苦手だと言っていたが、それだけの魔力量なら、そこそこ上位のランクを貰えると思うぞ?」


リュー 「魔道士ランク? ああ、そんなのもあったな。そっちもSランク認定を貰ってるぞ?」


エンリケ 「馬鹿な、魔道士ランクSは、国内では宮廷魔導師長のドロテア様一人だけしか居ないはずだぞ?」


リュー 「ああ、そのドロテアがSランク認定したんだよ、なんか認定書も貰ったぞ?」


エンリケ 「どっドロテア様と知り合いなのかっ?! 道理で……どうやら私など足元にも及ばない相手であったようだな……」


リュー 「さて……じゃぁ、掛け金を貰おうか?」


リューの模擬戦を呆然とした顔で見ていた冒険者達だったが、賭けに負けた事に気づいた者達が、うめき声を上げ始めたのだった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


冒険者としての活動はされないのですか?


乞うご期待!



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