第616話 リュー絶句…

『あいててててて離しやがれっ!』


男が叫ぶ。


リューが投げ捨てるように男を突き放すと、男は壁際近くまで後退り手首を押さえた。(リューが手加減していたので潰れてはいないが、手首にはクッキリとアザが残っていた。)


ジロリと男とその仲間を睨みながらリューが言う。


リュー 「マナーがなってないな、教育が必要か?」


冒険者の男 「てめぇ、舐めた真似しやがって! この “激カラのふふふ” のルーザー様を怒らせたらどうなるか分かってるのか?」


リュー 「なんだって? 激…? ふふ…?」


ルーザー 「“激辛のふふふ” だ! 俺たちのパーティ名だよ! 俺はリーダーのルーザーだ! コイツラはギラギラ、ギリギリ、ホゲホゲだ!」


ギラギラ 「ふふ、ビビったようだぞ。俺たちのパーティ名を聞くと、みんな恐れおののいて絶句するんだよなぁ」


リュー 「ああ、たしかに絶句はしたけどな…。名付けのセンスが独特すぎて、意味不明過ぎるだろ。しかもリーダーが負け犬ルーザー」(笑)


ルーザー 「おめぇ……


言ってはならねぇ事を言っちまったようだな……」


ギリギリ 「おいおいやべぇぞ? いいのか? 俺達を怒らせて、本当にいいのか? こんな田舎の冒険者など、王都で鳴らした俺達に掛かったら一瞬でボロだぞ!?」


リュー 「ああもういいうるさいからそれ以上喋るな」


リューが騒ぐ余所者の冒険者をシメようとしたが、それをエライザが止めた。


エライザ 「パ……リュー、待って!」


※冒険者になると言ったエライザは、リューの事もパパ呼びをやめると宣言していたのだ。


リューも渋々ではあるがそれを承諾した。

正直、パパと呼ばれなくなる事、娘から名前で呼ばれる事にリューは複雑な気持ちがあったのだが…、冒険者になってパーティを組むなら、敬語は使わないなど、言葉遣いも改めて行くのは当然だからである。


エライザは、本当は最初からそうするつもりだった。突然行って驚かせたい、大人になって綺麗になった自分を見せつけてやりたい、今度は娘ではなく一人の女として見られたい、など色々思っていた。だが、リューの顔を見た瞬間、すべて忘れて思わずパパと呼んで抱きついてしまったのだ。だが、ここから仕切り直しするつもりである。


エライザがリューとルーザー達の間に割り込んできた。


リュー 「?」


エライザ 「これが噂に聞く、冒険者ギルドのお約束、新人イビリでしょう? 体験するのを楽しみにしてたんだから! ちゃんと私にやらせてよ」


リュー 「やれやれ……どこでそんな話を聞いてきたのやら…」


エライザ 「リューが昔教えてくれたじゃない」


リュー 「そうだっけ?」


エライザ 「そうよ」


エライザがやる・・と言うので、肩をすくめながら一歩下がったリュー。代わってエライザが腰に手を当てて言う。


エライザ 「ちょっとアナタ達? 私が新人でなおかつ可愛い女の子だからって、舐めると痛い目見るわよ!」


ビシッと余所者の冒険者達を指差すエライザ。


威厳を持って決めたつもりのエライザであったが、そのポーズは迫力があるというよりもキュートで、思わずギルド内に居た冒険者達、そして絡んできた男もちょっと和んでしまったのだが…。


ルーザー 「お……おおう! 一生懸命いきがっちゃって、かわいいねぇ。ぜひとも痛い目見せてもらいたいねぇ」


エライザ 「いいわよ。でもここじゃダメ。こんなところじゃ、みんなの迷惑になるでしょう? 裏に行きましょ? そこでたっぷりと相手をしてあげるわ」


ルーザー 「へへへそれは楽しみだなおい」


リュー 「そういう言い回し、どこで教わってきたんだ? さすがに俺は教えてないぞ?」


エライザ 「本よ。ママが人間界から持ち帰って秘蔵してた冒険小説本を読ませてもらったの…」


リュー 「エリザベータはそんなの持ち帰ってたのか……」


    ・

    ・

    ・


ギリギリ 「裏って訓練場かよっ」


ルーザー 「まぁそりゃそうだろ…。おい、おまえ。俺が勝ったら俺達の仲間になるんだぞ? 下働きとして使ってやるぜ」


エライザ 「冒険者のイロハを教えてくれるんじゃなかったの?」


ルーザー 「下働きをしながら覚えていくんだよ」


エライザ 「私が勝ったらどうするの?」


ギラギラ 「お前みたいなガキが、王都で鳴らしたBランク冒険者の俺達に勝つわけねぇんだから、そんな事はどうでもいいんだよ」


リューが口を出そうとするが、エライザが視線で黙っていると訴える。


エライザ 「一応、念のため、よ。決めておかないと不公平じゃない?」


ルーザー 「いいだろう、お前が勝ったら全財産をやるよ」


ギリギリ 「おい、いいのか?」


ルーザー 「いいんだよ、あんなガキん娘に負けるわけないだろう?」


エライザ 「じゃぁ決まりね」


訓練場の中央に立ち、くいくいと手招きをするエライザ。


ルーザー 「いいだろう」


ギラギラ 「おい待てよ、俺にやらせろ」


ルーザー 「ダメだよ、俺がやるって」


ギリギリ 「お、俺もやりたいな」


ホゲホゲ 「……」


エライザ 「構わないから、全員同時に掛かってきなさい!」


ルーザー 「なにぃ? 舐めてると後悔する事になるぞ?」


エライザを取り囲む三人。(四人組の最後の一人、ホゲホゲだけは参加しないようであった。)三人は木製の模擬剣を手にしているが、エライザは素手のままである。


ルーザー 「武器は持たないのか?」


エライザ 「あんた達程度なら素手で十分よ」


ギリギリ 「ま、負けた言い訳にするんじゃねぇぞ?」


ルーザー 「先手は譲ってやるよ、いつでもいいぜ?」


エライザ 「そう? じゃぁ、行くわよ?」


次の瞬間、三人は壁まで吹き飛ばされていた。エライザの放った竜尾撃ドラゴンテイルが炸裂したのである。エライザの竜闘気によって作られた巨大な竜の尾による “薙ぎ払い” である。


竜尾撃の衝撃と壁に叩きつけられた衝撃で呻くルーザー達。


ルーザー 「ぐ…おぉ……何が……?」


エライザ 「口ほどにもないわね」


ギリギリ 「くそ、不意打ちとは、卑怯だぞ……」


エライザ 「不意打ちなんかしてないでしょう、ちゃんと予告までしてあげたじゃない」


ギラギラ 「見えない攻撃……魔法か?」


エライザ 「やっぱり人間には竜闘気が見えないのね」


ルーザー 「なんだと……? お前、人間じゃないのか?」


エライザ 「私は竜人族よ」


ホゲホゲ 「竜人族だと?! まさか……十数年前に王都でSランクに認定された冒険者が、実は人間ではなく竜人族だったって噂があったが、まさか……」


リュー 「その冒険者とは俺の事かな?」


ルーザー 「え、Sランク?!」


ルーザー達は驚きの表情でリューを見る。


レベッカ 「そうよ。ラッキーだったわね。リューが相手だったら全員殺されてたわよ?」


リュー 「なんなら今からでも相手をしようか?」


ホゲホゲ 「ひえぇぇっ、す、すみませんでしたぁ!」


ホゲホゲは慌ててエライザに向かって土下座を敢行した。(ルーザー達は竜尾撃のダメージで動けない。)



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「ホネホネ団です」


乞うご期待!



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